FREAK OUT | ナノ


「フリークス名ジェノサイド、戦女操(いくさめ・みさお)。インシステント、呼谷廉(よぶたに・れん)。トライフル、黄泉塚朋衛(よみづか・ともえ)。カストディ、千束纏(ちたばね・まとい)。ヴァニティー、大条寺芙蓉(だいじょうじ・ふよう)。何れも五年前、侵略区域遠征任務で命を落とした元ジーニアス隊員です」

「自分達を殺した国と組織にとって最大の脅威として顕現するとは、これ以上の意趣返しも無いでしょう」

「あっはっは、君が言うと一味違うねぇ兵房くん」


吾丹場各地に設置されたカメラが捉えた地獄絵図を前に、兵房は肩を竦め、古池はけらけらと場違いな笑い声を上げた。


アクゼリュスを前に愛が敵の手に落ち、眷属達が立ちはだかった時はどうなることかと思われたが、日和子の見据える未来は揺らがない。

第二支部の加勢により、戦局はどうにか拮抗状態を保っている。
増員は悪手であると日和子が言う以上、あれこれ案じていても仕方ない。帝京政府との会談も控えているので、神室の離脱に伴い統轄部緊急会議はお開きとなった。


先の大侵攻で痛手を受けたのは吾丹場だけではない。各被災地の復興支援、メディア対策、防衛システムの見直しや増設――FREAK OUTは未だ、真新しい傷を塞ぎきれていない。
手の出しようのないことに感けて会議室に篭ってばかりもいられまいと司令官達がそれぞれの業務に戻る中、古池は管轄部に顔を出していた。


「唐丸くん達が来たのは僥倖だったね。流石にこの面子は、第二分隊じゃ手に負えなかった。真峰兄くんが第二支部に優秀な隊員達を引き抜いてくれたお陰で、第二分隊は火力不足になってしまったからねぇ。あの子達には可哀想なことをしてしまったよ」

「雪待尋と”英雄二世”の加入でバランスは取れましたが……まさか”英雄二世”が真っ先に落ちるとは」


長きに渡って上野雀防衛に貢献してきた在津の失墜は、市民と第二支部職員に大きな影を落した。上野雀を覆う不信と不安を除くには、”英雄”の息子と選り抜きの精鋭を投じるのが最善と判断し、誠人と彼直属の部下を第二支部に移した結果、ジーニアスの戦力は著しく落ちた。
特に第二分隊はその煽りを受けることになった為、愛と雪待を加えることでバランス調整を図ったが、最も期待していた駒が最初に落ちるとは想定外だった。

あちらの狙いが彼女であり、相手がアクゼリュスだったことを思えば致し方ないとも言えるが、時期尚早感も否めない。
先の大侵攻を生き抜き、カイツール討伐を成し遂げたとはいえ、彼女はついこの間RAISEを出たばかりの新人だ。RAISE卒業にしたって、早過ぎたくらいだったのだ。”新たな英雄”という看板欲しさに、工程を飛ばし過ぎた結果がこれなのではないかと兵房は梵達が映るカメラへ眼を向ける。


「やはり、彼女のジーニアス昇格は時期尚早だったのでは?」

「遅かれ早かれ、だよ。”新たな英雄”という看板を背負う以上、彼女は相応の場所に居てもらわないと。お偉い方や国民を納得させるには、ああいうアイコンが必要だからね。皆好きだろう?悲劇を背負い、運命に立ち向かう。そういうヒロイン」


自分達の決定が”英雄”消失の濫觴でありながら、加害者の自覚の無い者達は餌を乞う家畜のように次の”英雄”を求める。
食い荒らすだけしかしないくせに、中途半端なものでは納得しないのだから困りものだ。

それでも自分達が国家公務員であり、組織が税金で回っている以上、広告塔は必要だ。だから彼女が担ぎ上げられた。


弱冠十六歳の少女の背に、国の存続と人類の未来を乗せるなど狂気の沙汰。だが、人々は彼女の中に流れる”英雄”の血に沸き立ち、”新たな英雄”に熱を上げた。

先の大侵攻での戦果もあって、メディアはこぞって彼女を取り上げ、煽られた大衆は彼女を偶像として祭り上げるようになった。
雑誌で特集を組ませてほしいだの、CMキャラクターになってほしいだの、浮かれた話も出るくらいだ。誰も心から、彼女が世界の命運を握っているなどと思ってはいないのだろう。お陰で国も民衆も随分羽振りが良くなった。統轄部の狙い通り、彼女はイメージキャラクターとしての役割を全うしてくれている。

その彼女が、此度の戦いで命を落とす未来は観測されないと日和子は言う。であれば、血眼になって吾丹場の戦局を見据える必要も無い。

現状、かの地に於いて統轄部が失いたくないものは真峰愛ただ一人だけだからだ。


「今後”新たな英雄”は色んな意味で力を増していくだろう。だから、彼女には此処で終わってもらう訳にはいかない。そうならない運命にはなっているらしいから、こうしてコーヒー片手に観戦していられるけど……さて、どうなることやら」


理想を言えば、愛がアクゼリュスを討伐するのが最も望ましい。カイツールに次ぐ十怪討伐となれば、帝京にとって”新たな英雄”は更に大きな存在となるだろう。父親がそうであったように。

しかし現実はそう上手くいってはくれない。アクゼリュスの首が落とされる想定自体、獲らぬ狸の皮算用にも程がある。


呑気に空想していられるだけの余裕があるから、机上の空論で物を考える。成る程、”新たな英雄”に浮かされているのは此方も同じらしいと古池が自嘲するように笑う横で、兵房は強烈に毒づいた。


「……彼女が復讐者と成り果てるとしたら、如何致します?」

「あっはは!それは最悪だ!これ以上とないくらいにね!」


洒落にならない諧謔に呵々と声を上げ、古池は皮肉にも程があると眼を細めた。

真峰愛が、彼等と同じ人類の敵対者へ変じる。思い描く限り最悪の展開だ。
だがそれも、今は有り得ない話だ。だからこそ笑える。

古池はカップに残ったコーヒーを啜りながら、蛇のように打ち笑んだ。


「”英雄”の血を遺さず死なれるのだけは勘弁してほしいな。彼女にとって最大の価値は、其処にあるのだからね」

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