FREAK OUT | ナノ


緩慢な昼時のニュースが、今日は物騒な事件に騒然としていた。

嘉賀崎市内で起きている謎の連続通り魔事件。
被害は軽傷者が三人、重傷者が二人。未だ死傷者は出ていないが、誰かの訃報が流れるのも時間の問題だと、慈島は眉を顰めた。

犯人は未だ目星さえついておらず、凶器さえ不明。ただ、被害者に共通して切り傷があることから、刃物を使っての凶行と推察される。
犯行時刻は午後四時から十時の間。被害者に外傷以外の共通点はなく、ただ其処を通っていただけで襲われたと思われる。

それだけなら警察の管轄であったが、被害者や目撃者の証言からするに、どうにもこれは人間の仕業ではないと結論付けられ、今日からこの事件は第四支部に一任されることになった。


「犯人は酷く小柄……それも、子供よりもずっと小さく、まるで小人のようだった、か」

「超小型のフリークスか?にしては、捕食もせずにやるだけやってトンズラってのが気になるな」

「めっちゃ素早く噛みちぎってんじゃね?食い逃げ的な」

「気持ち悪いな、それ」


対象の特徴は、幼児よりも矮躯。凡そ、人の脛の半分程度の大きさということしかない。

一般市民の眼に止まらぬ程、非常に素早く、鎌鼬にでもやられたのかと思ったと言う者までいるくらいだ。
まさに一瞬。違和感を感じた時には脚部や背中を切られ、辺りを見渡しても影は無し――。
確かにこれは、人間の所業ではないだろう。

慈島は被害者や目撃者の証言、現場の調書などに目を通しながら、浅く溜め息を吐いた。


通り魔が発生したポイントは嘉賀崎市内に留まっている。市内巡回を強化すれば、犯人に当たる可能性もあるが、犯行時刻が夕方から夜間に集中している為、夜目の効かないフクショチョーは頼れない。
所員達の足と、自分の鼻でどうにか探り当てるしかないだろう。

では、何時、誰に、何処を周らせるか――。
ただでさえ少ない人手を如何に割くべきかと、慈島が眉を顰めていると、資料を捲っていた芥花が「あっ」と何か思い出したように口を開いた。


「そういえばシローさん。昨日シローさんが討伐したフリークス……駅ビルの本屋にいた奴、覚えてます?」

「……あぁ」

「あの事件の目撃者に調書を取ってたんですが……幾つか気になることがありまして」

「気になること?」


件の、駅ビルの本屋で暴れていたフリークスは、ランク<種>。
他の同ランク個体と比べて然程変わったところも無く、あっさり討伐出来たが、何かあったのかと慈島が表情を険しくする中。芥花は資料の山の中から、事件の目撃者から取った調書を取り出し、読み上げた。


「実はあの時、フリークスが暴れ出す前に、店内で怪我をした人がいたんです。若い男性で……立ち読みをしていたところ、脚をばっくりと何かに切られたそうで。
これは大変だと近くの人が救急車を呼ぼうとしたところで、向こうからフリークスが飛び掛かってきて大騒ぎに……っていう証言が幾つもありまして」


ソファで通り魔事件の犯人像を考えていた嵐垣と徳倉が芥花の持つ調書を覗き込むと同時に、慈島が目を見開いた。


――フリークスが出る前から、店内では既に傷害事件が発生していた。

ということは、例のフリークスは怪我をした男性から流れる血の匂いに惹かれ、姿を現したということだろう。

生まれたてにも等しい<種>ランクは、食人衝動を抑えるのが下手で、人混みの中でも昼日中でもすぐに暴れ出す傾向が強い。
よって、例のフリークスは人に化け、書店に隠れ潜んでいたところ、ふいに漂ってきた血の匂いに抑えが効かなくなり暴れ出した――と見ていいだろう。


では、最初に男性を襲ったのは何なのか。

もし他にフリークスが潜伏していたのなら、慈島の鼻がその匂いを捉えていただろう。仮に、彼が着いた時には既に逃走していたとしても、残り香に気付けない慈島ではない。

となれば――。


「最初に怪我をした被害者は?」

「突然脚を切られて、何が起きたかさっぱりだと……。犯人らしき奴も辺りにはいなかったし、周囲には他にも人がいたから、立ち読みしてる男の脛を切ろうとしてるような奴がいたら流石に誰か気が付くんじゃないか、とのことですが、周りにいた人達も、そんな怪しい奴はいなかった、と。……ただ」

「ただ?」

「足元を何か小さいものがすり抜けていくような感じはした、と数名が証言しています。まるで……小人が通ったかのような」


やはりそうなるかと、慈島は深く息を吐き、嵐垣達も”俺の考えた通り魔犯人像”を書いていたシャーペンを転がした。

「……やはり、今回の事件は能力犯罪者の仕業かもしれないな」

「またそのパターンかよ。最近ブームなのか?野良能力者の通り魔」


いつぞやのアレに比べれば、今回は随分可愛いものだが。
にしても、野良能力者はどうしてこうも通り魔をしたがるものなのかと、嵐垣が辟易した面持ちで欠伸する中、慈島はデスクから移動し、芥花から調書を受け取った。

最初の被害者男性の怪我の詳細、周囲にいた目撃者達の証言。どれも今回の事件と類似している。間違いなく、同一犯の仕業と見て間違いないだろう。


ならば、犯人は恐らく――。


思いがけない手がかりが得られたと同時に、自分の失態に気付いた慈島は、思わず舌打ちした。


「しかし、この犯人は殺しまでしないんですね」

「恐らく対象は、未だ覚醒したばかりだ。最近手に入れたばかりの力を試す為、あちこちで人を襲っているんだろう。或いは……被害者も目撃者もわざと生かしておくことで、俺達を引っ張り出したいのか……。どちらにせよ、奴は自分の能力を使いたくて仕方ないようだ」

「じゃあ、犯人は小型化する能力を?」

「体の大きさを自在に変える、って場合もあるな」

「分からん。……だが、心当たりはある。相手が豆粒くらいまで小さくなろうが、匂いさえ取れたら追跡は出来るだろう」


一連の通り魔事件の犯行時刻に、書店での一件。加えて、あの日見過ごした、一つの異常。
最早疑う余地はないと、慈島はデスクチェアの背凭れにかけていたスーツジャケットを羽織りつつ、時計に目をやった。

時刻は、直に正午。間が良いというべきだが、素直にそれを認められなくて、慈島は重々しい声で本件の処理について口にした。


「ちょうど尾行に適した能力を持った新人が来るところだ。今回は、俺とそいつで片付けよう……」

「し、新人ですか?!」

「なんだそれ、初めて聞くぞ慈島!」


prev next

back









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -