霊食主義者の調理人 | ナノ
霊。それは、生を終えて尚、現世にしがみつかんとする、強く、卑しく、貪婪な意思の成れの果て。
死という幕引きを受け入れられず、彼岸へ至ることを放棄したものたちは、この世に存在しないものとして存在し、様々な形で生者達を脅かしている。
微かな物音を立ててみたり、天井のシミになってみたり、写真の中に写ってみたり……と。
イタズラ程度のことをして、ちょっとした恐怖を与えるだけのものが過半数なのだが、中には、いるのだ。
未練や憎悪といった強い想いよって生まれた、強大な力を以てして生者を苛み、害し、其方側へと引き摺り込まんとする――所謂、悪霊が。
「これはこれは……随分食べ応えがありそうね」
「まぁ、手応えもそれなりにありましたからなぁ」
人は古来より、様々な術を用いて、その見えざる脅威を退けてきた。
時代の流れと共に、あらゆる現象が発達した科学によって解明され、霊というものが創作・空想上のものとして認知されるようになってきても。
害成すものが在る限り、それを討つ者達も存在し。彼等は闇に陰にと潜みながら、その力を揮い、生者の領域を守り続けていた。
「許さん……許さんぞ、貴様らぁああ!! 呪ってやる……末代まで、呪ってやるぅうう!!!!」
「二度目の断末魔は、それでよろしくて?」
人に仇なす悪霊と戦う者――退魔師。
彼等は今も、現代社会に溶け込みながら、生と死の境界線にて、不可視の敵と戦っている。
これは、そんな退魔師の中でも取り分け異質な、二人の物語。
「いただきます」
霊食主義者と悪霊調理人の、物語。