僕は宇宙人系男子 | ナノ



「……日比野さんは、火之迫さんとよく話されてますね」

「そうっすか?」

「はい。僕は、火之迫さんとあそこまで会話が続かないといいますか……普通に話せてはいると思うのですが、最低限のコミュニケーションしか取れていないような気がしまして」


日比野さんは人懐っこく、誰とでも分け隔てなく話せる方です。
ご両親より年上である店長を始め、クセの強い月峯さんや、アルバイトの中では恐れられがちな火之迫さん、そして僕のような口数の少ない者にも、日比野さんは自然に話しかけています。

そのコミュニケーション能力を参考にすれば、火之迫さんともっと話すことが出来るのではないか。
そう考えた僕は日比野さんにご教授願うことにしたのですが、腕を組み、首を傾げながら「うーん」と考え込んだ彼女の口から出てきたのは、思いがけない言葉でした。


「んー……多分、先輩も火之迫先輩と同じツッコミ側だからじゃないっすかね」

「ツッコミ側」

「自分、よく周りに天然ボケって言われるんで、多分ボケ側だと思うんっす」


多分も何も、という言葉を飲み込みながら、僕は日比野さんの独自理論に、黙って耳を傾けました。

ボケか、ツッコミか。自分がどちら側なのかさえ考えたことの無かった僕に、日比野さんの言葉は非常に興味深いものでした。


「だからツッコミ側の人とお話すると、ボケ、ツッコミ、ボケ、ツッコミって話がたくさん続くんじゃないかなぁって思うっす。でも、同じツッコミ側の人同士だと、ボケとツッコミのやり取りが無いっすから、話がコンパクトになるんじゃないかって」

「成る程……確かに、言われてみると火之迫さんは、ボケ側の方との会話量が多いように思われます」

「やっぱり、ツッコミが入るっすから、それだけたくさんお話するんっすね!」


意図していたのもありますが、確かに僕と火之迫さんの会話は最低限の応答のみで、日比野さんと話す時のように大きく広がることはありません。

尤も、業務連絡や何てことない世間話ばかりしていましたので、広げようもないように感じられますが、僕らはツッコミ側同士であるが故に、会話はツッコミ所が無いが故に端的であるという日比野さんの指摘も、的を得ているように思われます。

しかし、そうなると少し困ったものです。僕が火之迫さんと同じツッコミ側である以上、彼と会話を盛り上げることは困難ということになるからです。


「……となると、僕もボケを学んだ方がいいのでしょうか」

「先輩、火之迫先輩とお話したいんっすか?」

「……一身上の都合で、色んな方との交流を深めたいと考えていまして。火之迫先輩は、この
お店で一番付き合いの長い方なのですが、その火之迫先輩のことでさえ余り知らないので、もっと話をして仲を深めるべきだと思っているんです」

「ほぇー、そうだったんっすね」


もし火之迫さん達、ツッコミ側の方が相手でしたら、なんだその都合と言われていたでしょうが、ボケ側の日比野さんは特に触れることもなく「そうなんっすね」と頷いてくれました。

此処に来て、一番最初に危惧したのは彼女だった筈なのに、いつの間にか僕は日比野さんのこうした素直さに安堵しているような気がします。

自分の正体を探られかねないような相談を持ちかけてしまったのも、そういうことなのだろう、と僕が思っていると、暫く何かを考えていたらしい日比野さんが、またもや意外な言葉を口にしました。


「でも自分、先輩が無理にボケになることはないと思うっす! 同じツッコミ側のままでも、火之迫先輩とたくさんお話出来るっすよ!」

「……それは、何故」

「ボケの人とツッコミの人が揃っていれば、たくさんお話が広がるっすから、先輩と火之迫先輩の間に一人、ボケ側の誰かがいればいいんっすよ! そしたら、先輩がボケなくても大丈夫っす!」


我乍ら名案、と目を輝かせる日比野さんのアイディアに、僕はまたしても「成る程」と納得させられました。

確かに、交流を深めるに当たって、何も二人きりで話をする必要はありません。僕がボケ側に転じずとも、ボケ側の誰かがいてくだされば、火之迫さんとの会話は広がります。

やはり日比野さんは、こう見えて鋭い方なのだなと改めて感心しながら、早速ボケ側の方を交えての会話シュミレーションを頭の中で構築しようとした、その時でした。


「それに、先輩が先輩らしくしてた方が、きっと仲良くなれるっす! だから、自信持ってくださいっす、先輩!」


と、日比野さんに満面の笑みで言われ、僕の思考は全てショートしてしまいました。


宇宙間では、地球人の笑顔は魅力的だとよく言われていますが、これはいっそ、ずるくないでしょうか。
こんな愛らしい表情を向けられて、過剰な反応を見せられないというのは、中々辛いものです。

僕は、冷静に冷静に、と自分に言い聞かせながら、血が集まって赤くなっていそうな顔を隠すべく、軽く俯くようにお辞儀しました。


「あ……ありがとうございます、日比野さん」

「いえいえっす! っと、そろそろゴミ捨ての時間っすね! 自分、行ってくるっす!」


そんな僕の胸中を知る由もなく、日比野さんはゴミ袋を持ってタタターっと外のゴミ箱へ小走りで向って行きました。


ともあれ、火之迫さんと友好を深める為のいいヒントを頂戴することが出来ました。

次の問題は、火之迫さんとボケ側の方を交え、三人で話す機会をどう設けるかですが――意図せず絶好のチャンスが訪れることになるとは、この時の僕には考える余裕すらなかったのでした。


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