楽園のシラベ | ナノ


アカサビーランドは、旧世代のアトラクションが各地に残り、その大半はただのオブジェに成り果てているが、幾つかは運転していて、乗ることが出来る。
しかし、新世代に於いて非常に珍しい乗り物の数々は、アカサビーランド最大の目玉であり、年中観光客が長蛇の列を作っている。

普通に並んでいたら、一日の大半を待ち時間に持っていかれてしまう。かと言って、此処まで来て乗らないのは馬鹿のすることだろうと、シラベは最初に整理券の発行所に向かった。


「なぁ、シラベ。何の整理券取ってきたんだ」

「それは乗るまでのお楽しみ、だ」

「なんだそりゃ。っつーか、普通は私達に『どれに乗りたい』とか聞いてから選ぶもんじゃねぇのか?」

「お前らが悩んでる間に整理券が切れる可能性を考慮したら、俺が勝手に取ってきた方が賢明だと判断したんだよ」

「流石シラベさん、畏れ入るっす」

「さぁ、整理券の時間まで街を周るぞ。此処は広いし、見るモン多いし、ちゃっちゃか移動するぜ」

「はーいっす」

「……なんだかんだ、お前が一番浮かれてねぇか? シラベ」

「さて、どうだかな」


こうして、一同は整理券の時間まで、シラベがパンフレットを参考に考えたルートで、アカサビーランド内を周ることになった。

アカサビーランドにはアトラクション以外にも、屋内遊戯場やショップ、レストラン等、様々な施設がある他、各地でショーやイベントも催されている。
整理券の時間まで数時間あるらしいが、それもあっという間に過ぎてしまいそうだなと思いながら、リヴェルはシラベの半歩後ろを歩いてついていく。


「それにしても、此処は色んなイイ匂いがするっすねぇ……。甘い匂い、しょっぱい匂い、爽やかな匂い、香ばしい匂い……どれも惹かれるっす」

「ハハハ。こんだけあちこちに花あるってのに、食い物か」

「マサニ花ヨリ団子ダナ、オ前ハ」


ワゴンや露店が並ぶストリートは、季節の花々や食べ物の匂いが跋扈している。

アカサビーランドに入る前、一同はキャラバンで軽く朝食を済ませていたのだが、食べ物の匂いがしてくれば腹が空くと言わんばかりの様子で、クルィークはあちこちに犇く看板を見渡した。

売られている食べ物は、主に街の中で食べ歩けるような軽食。
少し視線を横に向ければ、目にも鮮やかな容器や包み紙を持って、美味そうにスナックやパンを頬張る観光客の姿が多く見られる。

実際に人が食べているのを見ると、自分も口にしたくなるもので。
クルィークとリヴェルが涎を呑み込んだところで、シラベは財布片手にワゴンへと足を運んだ。


「んん。やっぱりこーいうとこでのメシは、色んなモンを細々とつまむに限るな」


シナモンシュガーがたっぷり塗されたプレッツェル、果実がふんだんに使われたジェラート、スモークチキンやホットドッグに、チョコレートやストロベリーのラテ。
食べたいと思ったら迷わず買って、すぐに口の中へ放り込んで、また新しい物を買っていく。
まさに食べ歩きだな、なんて思っている内に、シラベがポップコーンを買ってきた。
ブラックペッパー味と、キャラメル味。しかも、Lサイズのカップで。

リヴェルは、やっぱり一番浮かれているのは彼なのではないかと苦笑しながら、ブラックペッパー味のポップコーンを一掴みした。

出来たばかりで、まだ温かいポップコーンは、さくさくと口当たり軽やかで、程よい味付けが食を進める。
幾らなんでも、Lサイズ二つは多過ぎるのではないかと懸念したリヴェルだったが、クルィークもいるし、これではすぐに食べ終えてしまうなと苦笑した。


「食ってばっかだけど、次はどうすんだ?」

「この先の広場でショーがやるから、それ見たらパレードの場所取りだな」

「パレード?」

「アカサビーランド名物、季節のパレード。そん中でも一番華やかな花祭りのマスカレード・パレードがやってるらしいぜ」


アカサビーランドは、季節ごとに街の装飾や土産物が変わる。

パレードもシーズンごとに様変わりし、今催されている花祭りのマスカレード・パレードは、仮面をつけた住人達の衣装やダンス、盛大にばら撒かれる花びらが人気とのことだが。
生まれも育ちも山の中のリヴェルは、まるでイメージが出来ず。場所取りなんてしていないで、もっと歩き回った方がいいのでは、と難色を示していたが。


「ま、百聞は一見に如かずだ。楽しみにしてな」


そうシラベに言われて、リヴェルは反論する理由もないので、大人しくポップコーンをもう一掴み口に入れた。

シラベの審美眼は、山育ちの自分よりもずっと優れている。その彼が楽しみにしていろというのなら、間違いはないだろう。
たくさんの味がある中で、彼が勝手に選んで買ってきたポップコーンも、どちらも非常に美味いことだし。
なんて思いながら、もう一口とカップに手を伸ばした時だった。


「……あれ?」

「どうしたんっすか、リヴェルちゃん」


視界に映る光景。そこに、一つ違和感があるような気がして、リヴェルはカップに手を突っ込んだまま眉を顰めた。

いつの間にかポップコーンが残り半分も無くなっていた、というのは、クルィークの膨らんだ頬を見れば、納得がいく。

そうじゃない。そうではなくて、もっと別の何か――と思考を張り巡らせたところで、リヴェルは、違和感の正体に気が付いた。


「シラベ……シソツクネ、さっきまで肩に止まってたよな」

「……さっき、まで?」


横を向けば、其処にはポップコーンを啄むシソツクネの姿がある筈だった。

だが、さっきまで彼が止まっていた筈の右肩にも、思わず見てしまった左肩にも、シソツクネの姿は無く。
シラベは何度も右に左にと首を動かした後、アカサビーランドに吃驚の声を響かせた。


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