カナリヤ・カラス | ナノ
――ラニスタとホルデアリウスのオファーを受けていただきありがとうございます。
「なんだこの茶番は」
「一応、これも仕事の内だから答えてあげて」
――今回、オファーを受けていただいた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?
「燕姫が受けることを決めたからだ」
――対戦相手の金成屋三人について、どう思われますか?
「全員殺さんようにする方が難しくて参っている」
――ラニスタとホルデアリウスへの意気込みは?
「蟻を踏み潰さないよう歩く事に意気込みがいるのか?」
――最後に、貴方にとって地下格闘技とは?
「特に思うことはない」
――ありがとうございました。
「ねぇ、これ本当に使うの?」
「あ、燕姫さんの名前が入った所はピー音被せておきますので」
「いや……余りに中身が無いから心配してるのよ……」
「という訳で!!ラニスタとホルデアリウス第一試合、対戦カードはこの二名!!赤コーナー!!言わずと知れたゴミ町最強の男!!安樂屋の番犬、ワタリ!!青コーナー!!逃げ足だけならゴミ町ナンバーワン!!青い新星、北小路ギンペー!!」
「助けてーーーーー!!」
裏で鴉と福郎の取引や、金成屋一同の着替えが行われている間、観客は中央モニターから流れるインタビュー動画(事前収録済み)で、凡そ答えが見えていたらしい。福郎陣営の拳闘士予想で賭けていた者達は、やはりワタリが来たかという面持ちをしている。
しかし実際に彼が来ることを予想出来ていた人間がどれだけ居たか。リング上から助けを乞うギンペーをそのままに、鷹彦は頭を抱え、雛鳴子と鴉は意義ありと声を上げる。
「クソ、やられた……まさかワタリを雇ってくるとは」
「反則ですよ、あんなの!!」
「おいジジイ!!てめぇ大人気ってモンがねぇのか?!」
「ほぅっほっほ」
「笑ってんじゃねーー!!」
「えー、金成屋陣営が場外乱闘を始めそうな勢いですので、手早く今回の勝利条件について説明させていただきます!先程申し上げました通り、金成屋陣営は鷹彦氏以外の二人にはKO・降参以外の特別勝利条件が設けられております!試合中、この条件を達成された場合、金成屋陣営はその場で勝利!ベットした金額は二倍付けで配当されます!!」
そう、金成屋側にはハンデがある。ギンペーと雛鳴子は、試合中にある条件を満たせば相手を倒せずとも勝利出来る、というものだ。
先程福郎が言ったように、上手くやれば雛鳴子達でも三人抜きが可能――とはいえ、だ。ゴミ町最強と謳われるワタリを相手に、自分達が対等に戦えるだけの条件があるというのか。
条件によってはハンデになっていないと噛み付く所存だが果たして、と一同が固唾を飲む中、キューが傍らのバニーガールに向けて腕を振り翳した。
「では、気になる今回の特別勝利条件は、こちらぁ!!」
キューの号令に合わせ、バニーガールが手持ちのフリップを頭上に掲げ、回転させる。命運を分かつその一文を食い入るように見遣った後、金成屋一同は書き記された内容を確めるように呟いた。
「……相手が一歩でも動いたら勝ち?」
「そう!この試合で、ワタリ選手が一歩でも動けば、その時点でギンペー選手の勝利となります!分かり易いよう、ワタリ選手の足元はバミらせていただいておりますので、一目瞭然ですね!」
「あ、本当だ」
言われて見れば、ワタリの足元は赤いテープで四角に囲まれていた。枠はちょうどワタリの足のサイズと同じ。此処から指先、踵の先が少しでも出れば、その場でギンペーの勝利となる――ということらしい。
ギンペーはフリッパーを所持している。ワタリの手足が届かない場所から、彼を攻撃することは可能だ。しかし問題は、フリッパーでの攻撃でワタリを一歩でも動かせるかどうかにある。
「さぁ、この条件を踏まえた上でのオッズは此方!!皆様は此方をご参照の上ベットの方、お願い致します!!」