カナリヤ・カラス | ナノ


幸福とは何か。生きるのに疲れた人間や、やたら物を考えたがる人間が一度は思考するテーゼである。

幸せの定義は人それぞれだ。誰かの不幸を幸福とするものもいれば、誰かにとっての不幸を幸福とするものもいる。一概に、何が幸せであるかと決めることは出来ない。幸せとは、個人の中にしか存在し得ないものなのだろう。

そんなことを考える程度に時間を持て余していた男は、ふと、帽子の庇より深い影が射したことを感じ、目深に被っていたキャスケット帽をずらした。


「あ、リーダー!おはよ〜よ〜!」


青い空と、此方を覗き込む少女の笑顔が視界に広がる。背にした太陽のように明るいその顔を眺めながら、男――幸之助は舟の甲板に寝転がっていた体を起こす。


「おはよう、舞子。舟はもう着いたかな」

「全然まだ!でも暇だからリーダーに絡みに来たよ!」

「それは有り難い。俺もちょうど、拗らせる程に暇してたところだ」


うんと伸びをしながら、進行方向を見遣る。

相も変わらず、其処にあるのは砂の海。暇を持て余し、甲板の上に寝そべっていた時から変わり映えしない景色だ。目的地は未だ視認出来る距離に無い。このまま何事も無ければ、また退屈に見舞われることだろう。

幸之助は帽子を被り直すと、せっかく舞子が来てくれたのだしと、彼女の方に向き直した。


「一曲聴かせてもらえないかな。この見渡す限り砂の海をオアシスに変えるようなゴキゲンなナンバーで頼むよ」

「オーケー!ちょうど今、ミューズが天から直滑降でやって来たところ!」


舞子は、即興楽曲を得意としている。頭で考えるのではなく直感的にメロディを作り、音を奏で、時に適当な歌詞を乗せたり乗せなかったりして、一つの曲を作る。
曲調も使う楽器もその時々。まさに天啓と称するに近しい彼女の作曲センスは、運び屋内でもゴミ町でも評判であった。


「では聴いてください!タイトルは、えーっと……『貴方が自分で考えて!』」

「それが曲名なのか、俺が考えろってことなのか、その両方なのかはさておき、イエーイ」


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