病手線ゲーム | ナノ


跳べ!叫んだ男の子の声と発車音を真似た車掌の声が重なった。がたんと古びた鉄の音を立てて奈落の口を覗かせていた景色が閉め出される。無事、向こう側へ辿り着けた細い女の子が睨むように座席に座ったままの私を見た。

「僕たち、どうなっちゃうんだろ ……」

隣で学ランの男子が私に話しかけてきた 。無言で振り向いた私を彼は怯えた目で捉えて 、瞳孔を見開く。
風の如く鎌鼬が通ったかのように、彼の首はゆっくりと体からずれ落ちていった。

彼だけではない、立っている者は 、頭を無くして、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちていく。

悲鳴すら上がらない電車で、 私だけが一人背を伸ばして座席に座っていた。

「また貴女様でしたか」

ぱん、と手を叩いて、例の車掌が知らないうちに車両に乗り込んでいた。その姿は、見慣れたようで全く知らないものだ。

「車掌さん、どっかで見たことあるような気がする」

「そうでしょうねぇ。貴女様がゲ ームに参加せずに帰ってしまうのはかれこれ数回目でございますから」

仮面を着けた車掌は面白くなさそうだ。表情は見えないが、仮面の隙間から漏れる声が不満たらたらである。

「ゲームにはあまり興味ないの」

私は靴のまま、座席に足をのせて膝を抱えた 。

「奇妙な車掌に頭を潰されて死ぬ。それもまた一興じゃない?」

「……前回の貴女様もそうおっしゃっていました」

車掌はアナウンスしていた時より疲れている声で言った。

「死にたいのですか?」

「おかしなことを言うよね、車掌さん。誰も生かす気ないくせに」

ふふ、と笑った私に、車掌はため息混じりの息を吐く。演じていた化けの皮が剥がれたような調子に、また私は笑う。

「気持ちは奪えても、目的までは奪えない、か……」

「何か言った?車掌さん」

「いえ、特に」

車掌は仮面の下で何かをぼやいた後に、踵を揃えて直立した。

そういえば、電車はいつのまにやら、私と車掌だけを乗せてどこかへと走り出している。二人を反射して映す窓ガラスの向こうは真っ暗だ。

「それでは、不本意ながら、お客様にはお帰りいただきます!お客様が"死にたい"と思っている限り、またここでお会いすることになりましょう。次回こそ、是非ゲームに参加なさいますよう!!」

頭を下げる車掌の周りが黒く渦巻く。黙って見ていると、どうやら車掌ではなく、私の周りが私を包むように蠢いているようだった。

事の進むままに見ていた私は、眠りに落ちるように黒に包まれる。それは、忘れていた死の欲求を渡して、私を現実へと戻した。


―――


さのつきさんより病手完結祝いにいただきました、病手二次SS二作目です。

ご本家様の捕捉を引用させていただきますと
終幕に相応しい死を望んでいる乗客の話。死と言うのが手段ではなく、目的になってしまっている子。つまり、死ぬために生きている、そして、常に死にたい。病手線に紛れ込むも、死にたいという願いは消えても目的が消えていないので、死を恐れないどころかそちらに興味津々。"最たる死を望んでいる"ということは、逆手にとるとゲームをクリアし得る人間だが、本人がゲームに興味を持ってくれないので、毎回同じような結果になる。そんな日々の一端。


とのことで、また一作目とは異なる乗客のお話でした。

いやぁいいですねぇ…この乗客ちゃん。
どこぞの裏切りJKよりクリア出来そうじゃないですか、ねぇ僕くん。

さのつきさん、重ね重ねありがとうございました!



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