病手線ゲーム | ナノ



「はぁっ…はぁっ……」

「クソッ、何なんだよ…何なんだよあいつ!!!」


ヤマダの姿が見えず、あの電車の咆哮が聞こえなくなるところまで走ったところで、僕ら参加者は足を止めた。

そう打ち合わせた訳でもないが、とにかく、ヤマダのいない場所で、皆思い思いのことを話したかったのだ。


「どうやったら人が、あんな風にコマ切れになんだよ……あいつ、人なのか…っつか、此処は……」

「わ、分からないことを考えるのは止めましょう!」


すっかり参ったと床に座り込む参加者達の中、あの”間”を最初に跳び越えた女子高生が、必死に明るい表情を取り繕っていた。

ゲームに於いて邪魔だと見做し、あのスポーツバッグはホームに置いてきたのだろうか。
背負っていた大荷物がなくなると、何だか一段と細く小さくなってしまったように見える彼女は、今にも項垂れそうなオニーサン達を元気付けようと笑顔を作った。


「それより、ゲームをクリアして…帰りましょうよ!まだ……まだ16人もいるんですから…何かあっても、協力していけば大丈夫です!」


そう言われて、僕はようやくこの場にいる参加者の人数を把握出来た。

あれだけ車両に人がいたのに、残ったのは十六人と言えば心許無いが、それでも16人という人数は集団としてそれなりに心強い。


いるのは僕、例の女子高生、大学生グループが五人、ヤマダに質問していたOLさん、ギターを放ってきたバンドマン、僕の知らない制服を着た男子高生、若いカップル一組、さっきから顔色が悪いサラリーマンのオジサン、辺りの様子を窺う若い企業戦士、揉めていた件の大学生を止めていた教師風の男に、ゴスロリか黒ロリか…よく定義は分からないがとにかく人形みたいな格好をした僕と同い年くらいの女の子。

なんというか、異色とも言えるメンツになっているが、それでも人は一人でも多い方がいい。


「そうだな…時間も、今回は3時間もあるんだ!状況に応じて上手く動けば、俺達全員、次の駅に行くこと位訳ねぇな!」

「確かに!あいつ、協力してはいけないなんて言ってないし!」

「はい!ですから、皆で協力してコインロッカーを見つけて……死武夜駅から出ましょう!」

「「「おぉおーーーーーーーーーー!」」」


僕はようやく、ほっと一息つけた。

あの女子高生がいい空気を作ってくれたお陰で、さっきまで立ち込めていた息苦しさは消えていた。
曇り顔だった人達も、まだぎこちないが活力を取り戻し、大学生のオニーサン達は円陣なんか組んでいるし、若い企業戦士もちゃっかり混じっている。


そうだ、僕らは何やかんやで、あの簡単そうで難しく、難しそうで簡単な”間”を越えてきたんだ。たかが武器を運んで戻る位、なんだっていう話だ。

僕はこの流れに乗って、上手いこと参加者の人達を打ち解けようと、一歩踏み出した、その時だった。


「……あんたら、バカなの?」


場の空気が、再び凍り付いた。




声の主は、僕の他にもう一人いた、男子高生のものだった。

顔が隠れそうな位伸ばした黒い髪と黒縁眼鏡、紺のブレザーが特徴で、何処にいても目立たなそうなのに視界に引っかかる。そんな印象を受ける奴だった。

男子高生は一同の視線を受けながらも、動じた様子もなく眼眼を直し、卑屈さの滲み出た声で続けた。


「協力することが有利なゲームだって分かった訳でもないのに…その場凌ぎの同盟組んでどうするのさ」

「なっ……」

「俺にもまだ分からないけどさ、もし…そう、もしだよ。可能性の一部の話でだ」


男子高生は食って掛かりそうなオニーサンを制止し、至極冷静な口調で告げた。

僕らが考えもしなかった 考えたくもなかったことを。


「コインロッカーにある武器が、全員分なかったら……どうするんだ?」


全員、顔がざぁっと青ざめていった。

勿論僕も例外なく、男子高生が告げる最悪の想定にショックを受けていた。


頭が、金槌で殴られたみたいに眩む。吐き気が胃袋の底から込み上げてくる。気持ち悪い汗が、止まらない。


「……そ、そんな訳…」

「あいつは、確かに協力するなとは言っていない」


そんなことはない、と撤回してほしい。

だが、男子高生は起こり得る現実の刃を引っ込めてはくれないのだった。


「だけど、潰しあうなとも言っていないし……運ぶ武器が全員分あるとも言っていない。
それに、好きな武器を選べっていうのはさぁ…その武器で、自分を狙ってくる相手を殺せって……そういう意味なんじゃないの?
制限時間が異様に長いのも、身を隠しながら機を窺えってことかもしれないし」

「そ……そんなの全部憶測だろ!!」

「そうだよ。最初に言った通り、これは全部俺の予想でしかない。
コインロッカーにはちゃんと全員分の武器があって、皆で協力すれば確実にクリア出来るゲームかもしれない。だが……」


あぁ、やめてくれ。やめてくれよ。

そんなことないって、今からでもいい言ってくれよ。なぁ。


「そうでないとも限らない。だから俺は、それが分かるまで協定を結ぶのはバカだって言ったんだ」


男子高生はそう言って、呆然とする僕らを一瞥してから、駅の奥へと向かって走って行った。

その瞬間、弾かれたように他の皆も走り出し――僕もまた、コインロッカーを求めて、叫び声を上げながら脚を動かすのであった。


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