いただきもの | ナノ





未確定ながらフリークス侵入の可能性有りとの一報を受け、手の空いていた淡海を伴い巡回へ出向いた先での事だった。

「センセは服選びのセンスがいいって聞きました」

言葉の意味には遅れて気付く。
服選び。そしてセンス。どちらも目下の状況にまるでそぐわない単語だったせいで、脳に浸透するまで僅かに遅延が生じたのだ。
在津などは、淡海から話し掛けられるまでここが服飾品を扱う店の中だという事さえ忘れかけていたというのに。
無論、目に入ってくる光景は若者向き衣料品店以外の何物でもない。
だが店の形態が何であろうと、それが仕事内容に関係していないのならば在津の関心の対象外である。
相手が衣服に擬態するフリークスだとでもいうのならともかく。

「……誰が言っていた、そんな話を」

無視するか叱り飛ばすのが適切だったのだろうが、反射的にとある男の顔が脳裏を掠めたせいで、つい在津は問い返してしまう。
辛うじて眉間をきつく寄せるだけに留めたものの、内心、盛大に舌打ちしたくなった。
隠したかったのか、あるいは出処はどうでも良かったのか、淡海はそれには答えずに、
近場の展示品から引っ張ってきたらしい異なるデザインのロングブラウス二着を、交互に在津へ向かって突き出す。
いつもの事ながら、まったく悪びれた様子がない。

「ね、センセ。右のと左のとだと、私に似合うのはどっちだと思います?」
「仕事に集中しろ。じき連絡が来る」

挙句に批評を求められるに至って、ようやく在津は本題を伝える事ができた。
勤務中に、それも自分たちや一般市民の命がかかった仕事で脇見をするなど普通なら言語道断だが、激昂するまではいかない。
何故ならこうして呑気に服を見比べている淡海が、決して敵を侮っている訳でもなければ、職務に対して真剣味を欠いている訳でもないと知っているからだった。
もともと淡海は猿田彦と並んで私語の多い方であり、加えて日頃の豪胆かつ突拍子もない振る舞いは在津の頭痛の種でもある。
しかし、彼自らが選び抜いたエリートだけあって仕事ぶりには文句のつけようがない。
真面目な無能より奔放な有能――あくまで成果を最重視する在津としては、この程度の雑談であればまだ目を瞑っていられる。
とはいえ、ここで服選びを始めるという発想自体がそもそも在津には理解し難いものなのだが。

「はぁい、今度オフの日に来てじっくり考えまーす」

淡海もまた、注意されると素直に引き下がった。
どうやらすぐ隣にあったらしい陳列場所へ丁寧にロングブラウスを戻すと、しげしげと眺めて呟く。

「それまでに売れちゃわないといいなぁ……どっちもお買い得で可愛いですからねぇ」
「どちらが売れても問題はない。何なら両方でもな」
「え?」
「右のでも左のでもない。あれだ」

在津が無造作に指を向けた先には、淡海が選んだ二着よりやや大人びた色柄の服を纏ったマネキンが、澄まし顔で佇んでいた。



―――

LOVE SO SWEETでは……?

またしても田鰻さんから賜りました在淡SSです。
なんということでしょう。あの米みたいな輪郭した本編六話で死んだ男が少女漫画でも通じるイケ男に……。
人が恋に落ちる音が聴こえる時ってきっとこの時。

田鰻さん、いつも本当にありがとうございます!



back












×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -