読みきり | ナノ
この世には、闇に紛れて蠢くモノがいる。
影に潜み、眼を光らせ、牙を剥き、全てを攫うモノがいる。
「残念だったなぁ、エージ。こいつは、お前のお求めの喰魔(クイマ)じゃないみたいだ」
「……眠気喰らい、か。一部じゃ有り難られてるようだが……喰魔である以上、見逃す訳にはいかんな」
見えないものを喰らい、見えないものを奪う。
いつからか、何処からか湧き出てきたその化生は”喰魔”と呼ばれ、人々の知らぬ間に口を開き、腹を満たし、
突然の不幸、原因不明の悲劇としか言いようの無い事象を多く招いていた。
「ギギ、ギ……お前、ら……」
「おっと、口を開くんじゃねぇぜ」
「ギャアアアッ!!!」
その未曾有の災厄に立ち向かい、喰われたものを取り戻す者がいた。
彼等もまた、影に潜み、眼を光らせ、牙を剥き、己の全てを以てして喰魔を滅する。
さながら獣のようでありながら、人類叡智の結晶たる魔術を用いて戦う者達を、人はこう呼んだ。
「お前ら喰魔は、口を開けば厄介事しか招かねぇ。幸いにも、吐き出すのにてめぇら口を使わねぇんだ。もう、黙って逝ってくれ」
「ま、待て……待…………ウ、ウアアアアアアア!!!」
魔を狩る者、マガリビトと。