モノツキ | ナノ
目に映りたくないと、背を丸めた。
「あんだぁぁ、その眼はぁ?!親に向かってぇ!!」
視界の端にすら入り込まないように、張り詰められた線に触れないように。
一秒一秒を、その一瞬を逃げ延びるように、怯えていた。
「もうやめて!!この子が何をしたって言うの!!」
「うるせぇ!女が男に、っく……意見するんじゃねぇ!」
だが、俺はすぐに気が付いた。
俺は、見られてなどいなかった。意識の内に爪先一つ、踏み込めてすらいなかった。だからこそ、俺は紙クズのように理不尽に嬲られ、甚振られ、虐げられていたのだ。
目には映れど、見られてはいない。
そんな俺は路傍の石も同然で、逃げ込んだ部屋の隅であろうと、時化たアパートのド真ん中であろうと、このちんけな世界の何処であろうとも、俺を見る人間はいなかった。
「ごめんね……×××。もう、大丈夫だから……」
ただ、一人を除いては――。
「これからは……私がちゃんと、守ってあげるから………貴方だけは…何があっても………何をしてでも……」
俺すらも見ていなかった、見えていなかった、見ることをやめようとしていた俺を、唯一、全身の細胞を使って見続けていた。
何一つ取り零すこともなく、俺の全てを受け入れていた。それが俺にとって、どれだけ救いだったことだろう。
「……貴方のことは、お母さんが守ってあげるからね」
父親にも母親にも、文字通り見捨てられた俺にとっては――あの眼が、全てだったんだ。