モノツキ | ナノ
この想いを貴方に伝えることが出来るのなら、言葉を取り出る為に喉笛を切り裂いても構わない。
この汚れた手で貴方に触れることが赦されるのなら、代償に両の脚を差し出したっていい。
そう望めども、叶うことなどある訳もなく。
「××××、これでさようならだ」
私は過去に、現状に、飼い殺され続ける。
「…本当に、よかったね」
安い蛍光灯に照らされた白い病室の中。背もたれを立てたベッドに腰掛ける少女は、心の底から出された安堵の声に、さらさらと金糸の髪を揺らして笑った。
ガーネットのような大きな瞳を細め、幼いながらに美というものを感じさせる顔立ちに笑みを浮かべる様は、アンティークドールすらも凌駕するだろう麗しさで。
髪と同じ色をした長い睫毛の一本一本に至るまで、神の寵愛を受けて創られたようだと、人は溜息を吐くだろう。
この可憐な少女が、殺し屋であるなどと知りもしない人間は。
「キャハハ、なぁに涙目になってるかヨリコ。めでたい時は笑うもんヨ?スマイルこれ大事ネ」
「そ、そうだね!ごめんね、火縄ちゃん」
そう。眦を指で拭うヨリコを前に、今度は歯を見せて快濶に笑うこの異国の少女は、火縄ガンであった。
つい先日までつくも神の呪いにより、その頭部を銃へと変えられいた筈の彼女は、TEL一派との戦いに決着がついた後に人の姿を取り戻したのだった。
深い闇を湛えたような銃口も、鉄の匂いを漂わせていた銃身も今はなく。彼女は在りのまま、元の素顔を取り戻し、見舞いに来たヨリコの前にこうして笑みを晒していた。
――つくも神から受けた異形の呪いを解く方法は一つ。神もが認める”真実の愛”を手に入れることである。
恋愛でも友愛でも親子愛でも構わない。ただ一つ、揺らぐことのない本当の愛を手にした者だけが、つくも神の赦しを得て、モノツキから人間へと戻ることが出来る。
だから、火縄ガンが人間に戻った時は、誰もが驚いたものである。
殺しが恋人と自ら公言する程に殺人にしか興味を示さず、人間に戻ることにもまるで関心がなかった火縄ガンが
社内で薄紅の次に人に戻るなど、誰が予測出来たことだろう。
しかも、その真実の愛を結んだとされる相手すらも、よく分からない状態で。