モノツキ | ナノ


最後の夜に、夢を見た。

銀杏並木の中で一人泣いている、小さな女の子の夢を。


「何だ貴様!!一体どうやって此処に……」

「この電波塔には、我等”真実の民”が張った結界が――」


眼が覚めた時、嗚呼、彼女はまだ迷っているのだなと、そう直感した。

どれだけ強い覚悟があっても、揺るぎ無い決意があっても、本当に世界を救いたいのだという想いがあっても。
彼女の心の奥深くには、捨てきれなかった希望の小さな欠片が突き刺さっているのだ、と。あの日の彼女の姿を見て、私は確信した。


「ま……待て!!」

「そいつを行かせるな!何としても止めろ!!」


彼女は、逃げ出したかったのだ。
何もかも捨ててしまいたかったのだ。
誰かを巻き込みたかったのだ。
身代わりが欲しかったのだ。
どうして自分なんだと泣き喚きたかったのだ。
世界の為になんか死にたくなかったのだ。

彼女が世界を、箱庭に生きる全人類を救いたいという想いは確かなもので、其処に嘘も偽りも見栄も邪念もない。
だが、彼女の中に潜む恨み、悲しみ、嘆き、苦しみ、怒りや失意もまた、紛れもない彼女の本心で。

あの日と同じく、彼女は救いを待っているのだと、誰かに囁かれたような気がした。


「ミツル様!!例のモノツキが、この電波塔に!!」

「結界は破壊……見張りは潰滅。奴は、我々の術を完全に無力化しています!!」

「どういうことだ!!一体、何が起きている!?」


ならば今一度、泣きじゃくる彼女に手を伸ばそうと心に決めた。

例え世界が黄昏て、明日さえ見えないような夜が来ても。
彼女が暗がりに怯えぬよう、一人取り残されたりしないよう、足を踏み外したりしないよう、このランプの光で導こうと。


「ど、どうして……」


最初の朝に、夢を見た。

あの日のように、彼女が私の手を取ってくれますように。彼女が心から笑ってくれるますように。彼女と共に、歩んで行けますように、と。


「どうして、昼さんが此処に……。だって、此処は…………」

「……言ったでしょう」


今にも泣き出しそうな空の下。たった一人、蹲ることさえ出来ずにいた彼女を、強く抱き寄せた。


大丈夫。もう何も、怖がることはない。恐れることもない。

今が暗くても、陽はまた昇る。
来たる次の朝にも、貴方は確かに、此処にいる。


「私は、最期まで貴方の傍に、と……」


この、呪わしくも愛おしき箱庭の世界に。


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