モノツキ | ナノ
私の世界は、どうして壊れてしまったのだろう。
(もういい加減にして!!毎晩毎晩そんなに飲んで……誰が後片付けすると思ってるのよ!!)
(五月蝿い!!ただ飯食らいのくせに、俺に口出しするな!!)
(! キャアアアア!!!)
誰かを傷付けたり、誰かと衝突したり、誰かと蹴落とし合ったりなんてこともなく、真っ当に生きてきた筈なのに。
いつの間にか、世界には亀裂が生じ、軋り、罅割れ、崩れ。
その先で、底さえ見えない深い深い闇が、私がほんの一歩間違えるのを待ち構えていて――。
(×××!!貴方……何をしてるのよ!!!)
(オイ、×××!!……オイ!!)
一瞬の内に、崩壊した世界のどん底にまで落ちた私は、ポットやティーカップの破片に囲まれながら、冷たい陶磁器の頭を抱えた。
どうして、どうして。私は、何もしていないのに、どうして、と。
叫ぼうとしても、震えた喉からは声が出なくて。それなのに、私の頭上で嗤う神様は、全てを見透かしたかのように、こう言った。
(己の罪を知らぬ者が、最も悪であると言ったのは、ぬしら人間であったぞ)
罪って、何。私が、何の罪を犯したっていうの。
なんで私が罰を受けなければならないの。私は、そんなに悪いことをしたっていうの。
詰るように睨んでも、神様は大きな目玉を細めて、にたりと歯を見せるだけで。
(哀れな娘よ。自ら犯した過ちを知るまで、その身を砕いていくがよい)
そう言って、神様は呪いだけを残して行ってしまった。
後には、私を傷付けるばかりの、鋭い破片が散らばっていて。
こんな場所で、どうやって生きていけばいいという嗚咽を上げても、誰も私に手を伸ばしてはくれなかった。
自らの手を裂かれたくはない人達は、私を捨ててしまうことを選んだのだ。
欠片も残さず、目に付くこともない何処かへ。其処でいつか、勝手に消えてしまえと、あの人達は、私を放り投げていった。
そうだ、だからだ。
だから私にも、罅が入ってしまったのだ。
誰にも埋められることない、酷く大きな傷が。日々この身を、心を、蝕んできたのだ。苛んできたのだ。
世界に続いて、私も壊れるその時を、指折り数えるようにして。見ないようにしてきたその痕は、着実に、私を脅かしてきた。
そして今――ついに、その時が来た。
「私が、やったの」
仕方がないことだったのよ。こうなる運命だったの。今日までよく持ったわ、私。
だから、もう抗うことは止めましょう。
これ以上は、痛みを大きくするだけだから。押し止めてきた汚い、濁った感情も、吐き出しておきましょう。
最初から、何もかもが手遅れだったのだから。
「私が、昼さんの武器を盗んで、それで、ヒナミさんを刺したの」