結局あれからいつもの通りに臨也を犯して自分が来た痕跡だけを隠して家に帰った。いつもより酷くしてしまいかなり暴れた形跡が残っていたがそのままにしてきた。 だってあいつが悪いんだ、弟に貰った服を汚して俺を怒らせてしまったのが。 勿論精液で汚れたバーテン服はベストの部分だけを脱いで帰り、丹念に洗って干してきた。無駄な手間を取らせやがってとイラつきながら一日を過ごした。 いや、それ以外にどうしても耳に残った言葉があってそのことをずっと考えてイライラしていた。 『だ、いすき…だよ?シ、ズちゃ……ん?』 臨也は言っていた。この言葉が呪いのようにじわじわと後から効いてくると。どういう意味かはいまだに理解できないが、ウゼェのだけはわかっていた。 別のことを考えていてもふとこの言葉が浮かび、その度に嫌な気持ちがわいてきておもわず暴力に走ってしまいそうになる自分がいた。 あいつを毎晩犯すようになってから随分と落ち着いていて、トムさんにも褒められていたところだったのに。 とにかく今日はもう絶対に臨也の顔だけは見たくなかった。もう普通にぶん殴りに行って鬱憤を晴らすという方法もあったが、それすらも嫌だった。 大人しく家に帰るのが妥当だと判断したので、そうすることにした。大通りから外れた路地裏を不機嫌な表情のまま歩いていたが、不意に違和感がおそってきた。 ここ数日池袋に現れていなかった気配が、したのだ。 「あんの、クソ蟲野郎…ッ!こんな日に限って来るとは上等だ!!」 すぐに反対側へ振り向くとそのまま真っ直ぐ走り出した。なんとなくどこにいるか場所はわかっている。本能的ななにかが、いつも感じるのでその方角に向かってひたすら走る。 しばらくして角を適当に曲がったところで、目当ての姿をみつけることができた。 「…っ、臨也ああぁぁッ!!」 いつもの調子で怒鳴りながら駆け寄って、奴の左腕を掴んで強引にこちらを振り向かせた。 「え?」 けれども振り返った臨也の様子がおかしいことにすぐ気がついた。まるでいつもの覇気がない上に無防備な顔を晒していて、棘が完全に抜け落ちているように見えた。 あまりの豹変ぶりに声を掛けるのを躊躇っていると、向こうのほうが先に動いた。 「あれっ、俺池袋に来ちゃってた!?…ご、めん急いでるんだ!」 やや遅れて事態に気がついたという顔で驚いた後、強引に腕を振りほどいてそのまま走り去って行ってしまった。その場に呆然と立ち尽くしていたのだが、やっと逃がしてしまったことに気がついた。 「バカか俺は!」 毒づきながら追いかけるとすぐにみつかったが、遠目から見てどうやら数人の男達に取り囲まれているようだった。なんとなく近くの建物に隠れて様子をうかがうことにした。 「どいてもらえませんか?俺急いでるんですけど」 「いやいや、こんな機会をみすみす逃したりはしねぇよ。随分顔色悪そうだしここで仕返ししてやるよ」 割と大柄な男がそう言いながら嫌味な顔をして臨也に近づくが、一歩一歩と下がり遂には壁に追いつめられてしまう。周りを他の者が囲んでいるし、どう見ても簡単には逃げられそうになかった。 話しかけていた男が一歩前に出て片手にナイフを持つと見せつけるようにしながら動くなと指示を出し、無理矢理腕を引っ張りあげた。 「…っ」 いつもは懐から武器を何個も取り出しては俺に向かってくる癖に、どうしてか今日は使うことはなかった。そのまま壁に押しつけられた臨也が何人かに体を掴まれて動けなくされた時、俺はしっかりと聞いてしまった。 「はぁ…あ、いたぁ…っ」 他人から見たらそれは何気ない声だったのだが、俺はその声を知っていた。その魅惑的な音色は気持ちよく上に跨ってよがっている時に出すものだ。 どうしてその声を今出しているのかはよくわからなかったが、そういえば昨夜は随分酷くしたのだと思い出していた。 臨也を襲ってから一度も池袋で会わなかったのはたまたまあいつの仕事が無かったからとかそういうことではなくて、普通に体が消耗して動けなかったのではないか。 だから今日もまだ足元がふらふらで外に出ている場合ではないのかと思った。痛みを堪えきれなくてそんな声になっているのだと理解すると、気がついたら駆け出していた。 「てめえら、どきやがれ!コイツは俺の獲物なんだよおぉッ!!」 「うわっ、平和島静雄だぞ!マズイ!」 俺が突っこんでくるのを見て、男達は一斉にバラバラにそこから離れていった。臨也を掴んでいた男も一目散に逃げようとしていたが、じっと見つめるとそれができないようだった。 「そのまま捕まえてろよッ!!」 「当然」 いつの間にか掴んでいた腕が逆転していて、臨也が男を捕らえていたのでそのままにしておくように叫ぶと振りあげた拳をそいつに向かって全力で叩きつけた。 すると呻き声をあげて男が後ろの壁に叩きつけられ、ずるずるとずり落ちながら地面に突っ伏し完全に気絶した。 「クソッ、せっかく昨日の鬱憤が晴らせるとおもったのに情けねぇ奴だ」 あたりにはもう男達は誰一人残っておらず、昼からのイライラをぶつけられると思って嬉々としていた俺はガッカリしてそう呟いた。だがそれに対しておもわぬところから尋ねられた。 「ねぇ昨日の鬱憤ってなに?仕事でなにかあったの?それで昨日は来られなかったのかな?」 声のするほうを振り返ると顔を真っ青にしながら壁にもたれかかっている姿があった。少しだけ息が乱れていて肩を上下させている。 さっきのすれ違った時の表情は見間違いだったのかと思うぐらいに普通だったが、体調はすこぶる悪そうだった。 「そんなことは手前に言う必要なんかねぇだろ。約束したわけじゃねぇし。それとなんでさっき逃げやがったんだ?っていうかそんな状態でよく池袋まで来れたよなぁ?」 もしかしたらなにか感ずかれたのかもしれないと思い、向こうが口答えできないぐらい早く話し無理矢理話題も変えた。 「あぁそうか。俺とセックスがしたくて来たのか、なぁ淫乱な臨也くん?」 わざと挑発するように嫌味な笑いを口元に浮かべてバカにするように、言った。 text top |