「なんのことだ?」 「わ、かってる癖に……いじわる…っ」 正直に答えてやるつもりなどなかった。どこまで耐えられるかしっかり見届けるつもりだったからだ。 しかし予想以上に効いているのか、服を掴んでいた手から力が抜けて本格的に体全体ももたれかかってきていた。きっと顔は酷い事になっているだろうことが窺えた。 「おれ…なにやってたんだろ…なんでもっと早く、気がつかなかったんだろう?」 後悔の言葉を吐きながらも、はっきりとした言葉で聞いてくることはなかった。そうするのが怖いのかと思うぐらいに。 媚薬が効いているから震えているのか、泣いているから震えているのかはわからなかったが肩で息をするほどにヤバくなっているようだった。 「もぅ……やだ!なにも…っ…かんがえたくないッ!」 突然大声でそう叫ぶと体をがばっと起こして、ほんのり涙と欲情に濡れた瞳で見つめながら硬くなっているものを俺の腹の上に押し当ててきた。 唇は必死に笑おうとしているが震えていて、泣き笑いみたいな表情になっていて完全に失敗している。 それほどショックで、切羽つまっていることが見て取れた。 「とりあえずさ…エッチしよ?もう遠慮なんかしなくていいからさ、おもいっきり犯してよ俺のこと。そんで昨日のこと忘れさせてよ」 言いながら過剰に震える指で自分のズボンのベルトを外そうとしていた。しかし焦ってるのか動揺してるのか、うまく指が動かないようだった。 見かねた俺が手を伸ばして外してやると、腰を浮かして下着と一緒に全部引き下ろして床の上に放り投げた。 「手前は忘れたいのか?昨日のことを」 「だってシズちゃんのこと本気でちょっとかっこいいとか、慣れててすごいなって思ったんだもん。バカだよね…だって…」 そこまで言って口をつぐんだ。やはりまだ自分の言葉で皆まで言いたくないらしい。 きっとこのまま行為に溺れてしまい、まともに話ができないままに終わってしまうだろう。それは俺としてはおもしろくなかった。 「童貞で乱暴なプレイしかしなかった俺をここまでさせたのは手前だし、初々しい体を淫乱に育てたのは俺だからか?」 ついに真実を告げてやった。さぁ今回はどんな反応をしてくれるのだろうと、ドキドキしながら観察し続けた。 あっというまに表情は真っ青になり、唇をわなわなと激しく震わせだした。これは相当怒っているのだろう。怒鳴られるだろうことを覚悟したのだが、そうはならなかった。 「ねぇ…ほ、んとに?ここまで俺のこと淫らにしたのってシズ、ちゃんだけ…なの?」 まだ他に誰かが関わっているとでも思いこみたかったのだろうか。無言で首を縦に振ると表情が一変した。 「ふふっ……嬉しいな」 「え?」 一瞬聞き間違えたかと思ったがどうやらそうではなかったようだった。ニッコリと最上級の微笑を俺に向けていたからだ。これは想像の斜め上をいく返答だった。 昨日からこんなにも酷い仕打ちをしたというのに嬉しいと言うとは正気ではない。もっと傷ついて怯える様子を期待していただけに、じわりと背中に汗が浮かんだぐらいだった。 「こんな体……気に入ってくれたんだ?」 そう告げながら今度は俺のベルトに手を掛けていた。さっきまでの震えが嘘のように、手慣れた様子で外すと自分の腰を浮かせながら強引にズボンに手を入れて下着ごしにさわってきた。 まだそんなに勃ってはいなかったが、すぐに起きあがりはじめてきていた。 「飽きずによくここまでしたよね。いいよ、シズちゃんの都合のいいお人形さんになってあげるよ。壊れるまで使いなよ」 臨也の声はこれまで聞いた事が無い類の、冷たくてそれでもどこか諭すような優しげな口調で、ぞっとした。 なにを考えているのか全く読めない。コイツに対してイラつきはすれど怖いなんて感情を抱いたことはそんなになかったのに、この時ばかりは怖いと思った。 「だってぇ、俺好きなんだもんシズちゃんのことが。だから本望だよ?」 そう言われて、俺は息をのんだ。喉の奥が急速にカラカラに乾いていき、声がしぼりだすことができない。 得体の知れない恐怖に表情を歪めながら、どういうことなのか頭の中で考えていた。 (俺のことが好き…だと?なに考えてんだコイツは。冗談にしては性質が悪い…) 「すっごい嫌そうな顔してるねぇ。でも残念もうこれ以上は言わないよ。本気なのか嘘なのかは自分で考えて、悩んでね」 「なんだと……?」 そこまで言った後下着の中からすっかり勃起していたものを取り出してきてそれを撫でながら、腰を浮かせてその上に跨ってきた。 まだ宛がうだけですんでのところで止まっているが、力を抜けばあっというまに飲みこんでいきそうだった。 「ここまでしてくれたんだもん、俺もなにか復讐したくてさぁ。まぁ呪いみたいなもんだよ。後になってじわじわ効いてくるはずだから」 なにを言っているのかまるで理解できなかった。 臨也が俺のことを好きであろうとなかろうと、今回のことにはまるで関係ない。 それは俺が臨也を好きではないからだ。実際に大嫌いなのだ。 体の相性がいいことは認めるが、それ以外は近寄りたくも無い存在なのだ。コイツの言う体のいい人形のはずなのだ。 ――そのはずなのに、さっきから胸の鼓動がおさまらず激しくなっていく一方だった。 どうしてかわからないまま、すべてを振り払うように腰を突きあげて中に侵入していった。 text top |