CAPSULE PRINCESS 21 | ナノ

「……う……ッ……」

それから暫くして寝入ったのだが、なにかの物音が聞こえるような気がして目が覚めた。耳障りだなと思いながら薄目で真横を見ると、信じられないことが起こっていた。

「…は、ぁ…ん…」

壁に背を預けて座った状態で上は着たままだったが、下は取り去り左右に足を開いて艶っぽい声を押し殺しながら切なげに目を細めて臨也が自慰行為にいたっていたのだ。
その瞬間心臓がドクンと強く脈打ったほどだった。どうやら俺が起きたことには気がつかない様子で行為に没頭していた。
しかもただの自慰ではなく自分の体に指を二本突っこんで、後ろも使って慰めていたのだ。驚かないはずが無い。

「…あ、つ……ぅ…」

声が大きくならないようにはしているが、完全に淫欲に取り憑かれている瞳をしていた。
そして指の動きはかなり激しく後ろと前の両方からクチュクチュと粘液が擦れる音を鳴らし合っているようだった。ここまでしていて気づかないほど俺も鈍感ではない。
それにしてもこれまで見てきたどの表情とも違っていて、ドキドキしていた。媚薬に飲まれ快楽に溺れきっているような熱っぽさはなく、意志が残っているように見えた。
こんなことははじめてだった。そういえば自慰行為を強要したこともない。突っこむのに精一杯だったからなのだが。
なかなかこういうのも悪くないなと思いながら、息を潜めてしばらく盗み見することにした。

「…あぁ……っ…」

眉を寄せて苦痛とも快楽とも取れる表情をしながら、全身をガクガクと音を立てないように慎重に震わせていた。
それにしてもどうしてここでこんなことをしているのかが理解できなかった。
物足りないのであればこの部屋ではなく他の場所ですればこんなにも息を潜める必要などないというのに、面倒だからという理由だけでは納得できなかった。
別の考えうる理由があるとすれば――俺に見られるかもしれないという緊張感を味わいながら自慰行為をしたいということだろうか。
しかしとても臨也の性格からは考えずらかった。いくら毎日強姦され続けていて乱れているからといって、自らそういうことをするような人間ではなかったはずだ。
俺が知らないところでそんな変態的な行為をコイツがするのだろうか。
淫らに調教したのは俺だったが、どうしても腑に落ちなかった。なにか特別な理由でもあるのだろうか。酷く胸の内がもやもやする想いだった。

「も…耐えられ……ないっ……」

小声でそう呟いた後動きが急激に変わった。体の中に埋め込まれていた指の出し入れの速度が早まり、反対側の性器を持つ手も乱暴なものになっていった。
もちろん水音も大きくなり静かな室内に卑猥な音色が響いていく。もう完全に俺が起き出しても違和感がないレベルになっていた。しかし本人は気づいてやっているようなのだ。
こんな激しいオナニーをしやがるとはやっぱり俺に襲って欲しい、気がついて欲しいということなのだろうか。
痴態に見入りながらぐるぐると頭の中で考えていた。当然俺の下半身は完全に反応しきっている。
行為に夢中になっているのでそれがバレることはないだろうが、とてもいいわけできるレベルではなくなっていた。

「ふふ…き、もち……ぃ…」

その呟きに背筋がぞくりとした。そして高揚感が一気に最高潮に達しもう我慢できなくなっていた。
ついさっきまで俺の前で快楽を晒すのを頑なに嫌がっていた奴が、密かに俺の前で自慰行為に没頭して悦びの言葉を口にしているそのギャップがたまらなかった。
この声を聞いてしまった今ならわかる。コイツは完全に自分から望んで俺の寝ている前でオナニーをして、楽しんでいるのだ。
欲情してはいけない大嫌いな相手に、欲情しているのだ。
その背徳感がここまで臨也を興奮させているのかもしれない。そうとしか考えられなかった。
すぐにでも起きあがって襲いたい衝動に捕らわれそうになったが、ギリギリまで押さえることにした。そのほうが後々おもしろいことになるのはわかっていたから。

「うぅ…ん、ぁ……や、ぁ……でる……」

抑揚のない声で限界を訴えてきた瞬間、バネに弾かれたかのように勢いよく上半身を起こして口元に笑みを浮かべながら問いかけた。

「なにやってんだ、臨也ぁ?」
「…ッ!?……シ、ズちゃ……」

あっという間に表情が崩れた。真っ青になりながら唇をわななかせて、相当驚いている様子だった。無理も無い、一番見られたくない相手に自慰行為まで見られてしまったのだから。

「え?あれっ…い、いつから見てたのかなぁ?盗み見なんて趣味悪いよ?」

しかしすぐに開き直ったのか逆にこっちを咎めるような口調で言ってきた。まだ息はあがっているし、体も微妙に震えているようだった。

「バレないとでも思ってたのかよ。手前にしては考えが甘いんじゃねぇのか」

的確な指摘をするとぐっと喉の奥を詰まらせて、唇を噛みながら黙りこんでしまった。いつもは反論をペラペラとしゃべってくる癖にどうやら快楽で頭があまり回らないようだ。

「わ、かってたけどさ……ほんと、最低だね俺って」

そう言いながら顔を俯かせたので表情は見えなかったが、どうやら後悔しているようだった。素直に自分の非を認めるとはコイツにしては珍しいことだった。
少しだけ気分がよくなってきたところで、ずっと言いたかったことを告げた。

「しょうがねぇなぁ、俺とシたいんだろ?いいもん見させてもらった礼に気持ちよくしてやろうか…なぁ?」

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