「あ、ありえない……」 あれから何度かバイブだけで責め続けてやっと正気を取り戻した臨也は、耳まで真っ赤にしてソファに突っ伏して嘆いていた。 今回は媚薬を盛っていないのでなにをされたのかは全て覚えているのだ。いつもはあっというまにどろどろになって意識を飛ばしていたので、新しい反応だった。 こちらが見えないのをいいことに、歪んだ笑いを浮かべながら煙草を吸っていた。しかし本当は襲いたい衝動をなんとか堪えたのは自分で褒めたくなるほどすごいことだと思った。 あんなに淫らによがるのを見せつけられてできないのは、ほんとうに残念だった。 しかしまだ強姦魔が俺だということがバレるわけにはいかなかったので、そこはものすごく我慢した。面倒だなと思ったがしょうがない。 「っていうかなんかシズちゃんも手慣れてる感じだったし…うぅ…あんなの酷い」 本人は聞かれないようにボソボソと言っているつもりだったのだろうが、完全に全部聞こえていた。どう出てくるかと見守っていたが、やがてこちらをゆっくりと振り返り告げた。 「なんで平気な顔して俺のこと責めたのかとか、そういうのは聞かないでおくよ。だから俺のことも聞かないで欲しいっていうか今夜のことは忘れて、全部」 まだ涙の痕が残る真っ赤な瞳でそう言った。もしかしたらこの俺にずっと強姦されていることを話し、助けでも求めてくるのではないかと予想していたので肩透かしをくらった。 こんなにされているにも関わらず、まだ一人で探そうとするようだ。その根性だけは褒めてやってもいいだろう。 「…まぁ手前のおもしれぇ顔が見れたことだし、忘れてやるよ」 「ひぃっ!それ全然忘れようとしてないよねッ!うああぁもう嫌だ嫌だ…思い返しただけでも死にたくなるッ!!」 整った顔が一瞬のうちに崩れて大声で叫びながらのたうち回っていた。そういう反応は正しいだろう。コイツにとって俺はただの殺したい大嫌いな相手なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。 いくらこんな酷いことをされていても、ライバルにはそんな弱々しい姿を見せたくないだろう。そんなことをするぐらいならとっくに誰かに頼っているのだから。 今日のコレだって充分嫌なのだ。すべて忘れて欲しいぐらい嫌なことだったのだ。 あんなに腰振って喜んでいたというのに。 「じゃあ俺帰るわ」 「え?あれっ?なんか用があるんじゃなかったっけ?」 ソファから立ちあがりかけた俺を見て急に焦ったように慌てながら尋ねてきた。どうにもいつもと様子が違っているように見えた。 「そんなに殴られたいのか?」 「あぁ!違うよそうじゃなくって…その、もう…帰るの?お詫びにお茶ぐらい入れるから飲んでいきなよ」 「別にいい」 無理矢理に俺のことを引きとめているように見えてしょうがなかったので、わざとそう言った。すると明らかになにか言うのを迷っているような表情をしだしたので無言のままじっと睨みつけた。 「いや、あのさ…うーんどうしよう。そうじゃなくって…えっと……」 睨んだことによりますます挙動不審になって煮え切らない言葉をぶつぶつと呟いていた。はっきり言いやがれと思ったが、向こうがなにか言うまで待ってみることにした。 そのほうがおもしろそうだからと思ったからだ。 やがて数分経ってからようやく、口を開いてありえないことを言ってきた。 「もう今夜遅いしさ……と、泊まっていきなよ?俺のベッドでかいしシズちゃんでも寝れるだろうから」 「あぁ、なるほど。そういうことか」 そこでやっと納得した。素直に事情を言うつもりはないし助けてくれとも頼むことはなかったが、なんとかして今晩は俺にここに居て欲しいということなのだろう。 このまま俺が泊まっていって、もし陵辱犯が現れたら追い払ってもらうつもりなのだろう。そういうふうに利用しようというのだ。 確かにその考えは臨也らしい。事情がどうあれ会った途端に犯人と俺がもみ合うことになるのは確実なのだから。 まぁそれは犯人が俺以外の場合のみに有効な手段だ。 「いいぜ、泊まっていってやるよ」 「ほんと?よかった。あの…暴れる以外なら今夜は目を瞑るからさぁ」 返事をすると大げさにため息をついて安堵するような顔をした。やっぱり考えていた通りのことをしようとしているのだろう。 犯人なんて今夜は現れないというのに、バカな奴だ。 「っていうかそうか、シズちゃんになんでもするって約束しちゃったよね?どうしようさっきの見て興奮しちゃった?同じベッドなんかで寝たら襲われちゃうよね、ヤバくない?」 臨也はわざと大げさに体を隠すような素振りをしたので、どう見ても俺をからかっているのだと思った。 まさか本当に襲いたいと俺が思っているなんて、考えもしていないだろう。 それには少し腹が立った。 「俺に襲って欲しいって思ってるのは手前のほうなんじゃねぇのか?」 「はぁッ!?ち、違うよなにくだらないこと言ってんの、もう知らない!!」 怒りながらそう言うと背を向けて落ちていたズボンなどを引っつかんで、脱衣所のほうに向かって行った。 からかったのはそっちだろ、と思いながら改めてソファに座りなおしてもう一本煙草を取り出して火をつけた。そしてさぁ今夜は襲ってやるかどうしようか、と考え込んでいた。 text top |