静雄×臨也+サイケ 静臨前提でブラックでヤンデレなサイケが電子ドラッグを使って臨也を襲い静雄が助けに来る話 サイケは臨也が大好きで静雄が嫌い 臨也が割と酷い目に遭います 「臨也くん、何見てるの?」 「何でもいいだろ。仕事の邪魔だからあっちで大人しくテレビでも見てろって」 無邪気な声がすぐ傍で聞こえて、つい不機嫌な表情になってしまった。せっかくの楽しみが奪われたような気がして、テンションまで下がり深くため息を吐いた。 しかし相手はその場所から一切動こうという気はないらしく、じっと俺の方を眺めてニコニコ笑っていた。そうして。 「当ててあげるよ!ねえシズちゃんでしょ?」 「え…?」 「シズちゃんの映像が送られてきたから、それを見てたんでしょ?」 一瞬ドキッとしたが、すぐにあぁそうかと納得した。俺の前に居る俺と全く同じ顔をしながら、似ても似つかない子供らしい笑みを浮かべているそいつは、人間ではなかった。 ロボットやアンドロイドと言われる存在で、そんな奴とどうして一緒に住んでいるかというと、これを作った者から譲り受けたのだ。 まだ試作段階でほとんど世には出回っていないそいつは、人間とほぼ同じ姿をして感触や声だってそっくりだ。つまりは、性格以外の見た目は俺と同じなのだ。 このアンドロイドの作成者に協力する機会があり、その時に俺の生体データを一通り渡し、ぜひとも出来あがった時は援助を惜しまないと言ったのはいいが、こういうことになったのだ。 ここまでそっくりに作らなくてもいいのにと思いながら、他には絶対渡したくなかったのでこっちで引き取ることにしたのだ。性能を観察するという意味でも承諾は得たのだ。 だが元々人間以外に興味は無かったし、身の回りの仕事を全部任せるぐらいしか使い道は無かったのでそうして過ごしてきた。 メンテンナンスさえすれば人以上に正確にこなしてくれることや、膨大なデータによる考察や計画には大いに役に立ってくれた。便利だと思ったのはしかしはじめのうちだった。 「臨也くんはシズちゃんが大好きだもんね。あーあ俺も会ってみたいな」 「残念だけどここにだけは来ることはないから、その機会はないよ」 性格がまるっきり違うのはいいが、正直言って鬱陶しかったのだ。確かに素直で純粋で、かわいい奴ではあるのだが、こうしてたまに鋭いことをしてくるのが嫌いだったのだ。 人ではない癖に何がわかるんだと言い返してやりたかったが、そうすれば俺とは別の切り口で言葉が返ってくるので止めた。 見た目以上に優秀なのだ。こいつに人を殺す機能をつけたら、それはもう無敵なぐらいに仕事をこなしてくれるだろう。しかしそれはアンドロイドの掟で禁じられているので、できなかった。 アンドロイドは人間を殺してはいけない、逆らってはいけない、とあらかじめ擦りこまれているのだ。だから、こいつがシズちゃんを殺すこともできない。 「いい加減に素直になっちゃえばいいのに。嫌いじゃなくて、本当は好きなんだって言えば楽になれるよ?」 「だから、誰が誰を好きだって言うんだよ!お前にはこの話は関係ないし、仕事も今は無いんだから話しかけるな!」 「やだなあもう照れちゃって、かわいいね」 それこそシズちゃん以上に性質が悪かった。どんなに罵倒するような言葉を投げかけても、軽く受け流して傷つく素振りなどしない。辛いなどとはあまり感じないのだ。 感情は人と同じようにあるけれど、大雑把なところでしかまだ作られていない。だがそれがたまに人間の目で曇って見えがちな真実を、ズバリと言い当ててくる。ほとんどが俺に対してのことなのだが。 「寂しがり屋な癖に人を遠ざけて、どうして素直にならないの?」 「サイケ!何度言えばわかるんだ!!」 「はーい」 サイケと呼ばれたアンドロイドは舌をぺろっと出して明るい声をあげて返事をして、すぐさま走り去って行った。台所に向かったようだったので、お詫びのコーヒーでも入れてくれるだろう。 俺は深いため息を吐き出して、ディスプレイに映っていた動画を消した。こういうパソコンや電化製品のデータを瞬時に読み取り、中身を選別するのも仕事の一つだった。 だから送られてきたものが、シズちゃんに関するものだと気がつくのは一瞬だっただろう。そのことを失念して苛立った自分自身に対し、やってしまったと脱力した。 「やっぱり最近疲れてるのかな」 このところ仕事がどんどん舞い込んできて、それはほとんどサイケの働きのおかげだったのだが、休む暇がほとんどなかった。ようやく一段落ついたところだった。 だから当分池袋にも行っていない。体を動かさないとなまってしまうので、久々に運動でもしてくるかと決意すると、椅子から立ちあがった。 「あれ?臨也くん出掛けるの?」 「そうだよ。帰って来たらそれ頂くから。あぁそうだ、ずっと調べてる例のウイルスの件がわかったらすぐに連絡しろ」 「うん、わかったよ。行ってらっしゃい、シズちゃんと会えるといいね」 「一言余計だ」 短く吐き捨てると乱暴に扉を開いて、わざと音を立てながら閉めた。 確かに過去に俺がシズちゃんに対してしていたことを調べて、それが恋愛感情からしていることだと指摘したのはサイケだったが、認められずにいた。 ただでさえ他人から教えられるだなんて俺らしくない、と思いながらここ最近はずっと流されっぱなしだった。顔を合わせた瞬間に胸は高鳴り、どうしても意識せずにはいられない。 そんなつもりなど全くないのに、話す言葉の一つ一つが気になって、そうして投げつけてくるナイフのような鋭い言葉を躱せなくなったのはいつ頃からだろうか。 「俺だけ、弱くなるなんて…そんなの」 苦々しく口にしながら早足で歩き始めた。けれどもその足取りが、いつもより軽いことに自分自身では気がついていなかった。 でもその日、これまでとは違うことが起きてしまった。 「なに…?」 「だから、時間ねえかって聞いてるんだよ」 「いや待ってよおかしいよね?俺今シズちゃんに追いつめられてるんだよね?そんなこと尋ねてくるなんておかしくない?なんからしくない…」 たまたま逃げ込んだ場所が行き止まりで、背後から凄い勢いで襲い掛かってきたバーテン服の金髪男に、壁に縫いつけられるように両手を押さえつけられていた。 表情は険しくて、明らかに怒ってる雰囲気を醸し出していたのだが、口から吐き出した言葉は予想とは違うものだった。 「うるせえ、いいから黙ってついて来いよ。実家から大量にみかんが送られてきて困ってんだよ」 「はあ?みかん?えっと、全くわからないんだけど俺と君がこたつでみかんでも仲良く食べるっていうの?」 「俺の家にこたつなんかねえよ、悪かったな」 完全に困惑していて、自分が口走っていることすらもおかしいと感ずいていた。しかしそれよりも、向こうの方が何倍も上を行っていて、頭が痛くなりそうだった。 意味が分からない事態に心底困っていると、突然携帯のメロディが鳴りだして、慌ててポケットから取り出して迷うことなく耳に当てた。 「サイケか?どうした?」 『さっき言っていたウイルスの件でわかったことがあるんだけど、今大丈夫?』 「あぁじゃあすぐに帰るよ」 短く返事をすると通話ボタンを切った。そうして目の前の相手に向き直ると、とりあえず悲しそうな顔を作って言った。 「いやあごめん、急用ができたみたいで。またの機会に」 「なんだよ、邪魔しやがって…もう二度とねえよ!うぜえから池袋にも来んじゃねえ、せっかく手前が来なくて平和だったのによお!!」 「……そう」 あっさりと両手を解放されて俺に背を向けながら吐き捨てるように言ってきて、声にわずかな怒りが含まれていることを知った。さっきまで、声だけはいつもより優しいように聞こえたのに。 一応無表情を作り出して喉から声を絞り出すと、もう振り返ることなく反対方向に向かって走り出した。 俺のせいじゃないのに、なんでと頭の中で何度も繰り返しながら、夜の闇を駆け抜けて行った。角を曲がる寸前突き刺さるような視線を感じたが、気づかない振りをした。 その深い意味なんて考えたくはなかった。 text top |