「……殺したいほど憎い相手になに言ってるんだろ、俺……ははっ、ほんとにバカだ」 自嘲的に笑いながら、握り締める腕はぶるぶるとやけに震えていた。自分自身への悔しさなのか、純粋に俺のことを恐れているのかはわからなかったが切羽つまっているのは確かだった。 本当にコイツは俺を何度も楽しませてくれる。今日はいつもの媚薬を使うつもりは全く無かった。 もうそんなものを使わなくても充分に淫らな体になっているし、あえて記憶を残して苦しませようという魂胆だった。もちろんこんなことをしているのが俺だとは絶対に気がつかせない。 どうせこっちから話して証拠をつきつけてやらなければ信じないぐらい、俺に対しての警戒心がないのだ。バレるわけがない。 「でも……おれ、なんでもするから……さ」 そこまで言うと急によろよろと立ちあがり、おもむろにベルトを外しはじめてズボンをゆっくりと膝の位置まで下ろした。 「これ、やぶって…くれないかな?」 「なんだこれ?」 必死に顔を背けて恥ずかしさに耐えながら、それを俺に見せてきた。なにかはもうわかっていたのだが、あえて問いかけた。 「あ、のね…これ多分鍵つきの貞操帯だと思うんだ。しかも特注でナイフでも破れなくて、外れないしほんと困っててさ……とにかくこれ以上のことは聞かないで破ってくれさえすればいいから」 臨也の言うように貞操帯はちょうど後ろの部分を覆うかのようにがっちりと固定されていて傷一つついていなかった。 それだけならまだここまで隠したがる必要は無い。だが後ろの部分から出っ張りのようなものが膨らんで見えて体の中になにかが埋まっていることを現していた。 「これ後ろになにか突っこまれてんのか?だからさっき急に喘いだりしたのか」 「う…くっ、そうなんだよ…だから早く取って…よ」 確かめるように言うと、苦々しい表情を浮かべながら足をそわそわと動かした。もちろん前部分は完全に勃ちあがっていて、快楽を感じていることを残酷に物語っていた。 そうやってコイツが恥ずかしがったり、悔しそうにするたびにどんどん高揚感が高まっていった。どす黒い感情もとまらない。 充分に臨也を上から下に眺めながらなんでもないのを装ってポケットに手を入れて、バイブのスイッチを最高値まであげた。 「うぁッ!や、っ…なに、なんで…うぅ、こんな時っ…にぃ…っ」 すぐに電流が全身に走ったようにビクリと体を震わせると機械音が静かに響き、すごい勢いで足をがくがくと揺らし始めた。 目を見開いて驚愕しながら口から熱い吐息を漏らす。すぐに体の力が抜けたのか俺の手から離れてその場にうずくまり、悶えながらも必死に振動に耐えようと背中を丸めた。 俺はバイブを止めないままポケットから手を出してしばらく淫悦によがる臨也の姿を鑑賞しようと思った。 「ふぁっ…は、げし…ッ、おく…あつい…んうぅ…」 数分も経たないうちに唇から淫猥な言葉が紡がれ、焦点の合わない瞳にはなにも映っていないかのように見えた。今朝からずっとあんなものを嵌められていては、こうなるのもしょうがなかった。 体の内でくすぶっていた疼きが一気に解放に向かってのぼりつめているのは明確だ。 遂には完全に前方に体を倒しまるで俺の足元で跪くように寝転がって悶えた。仰向けになって俺のほうを眺めていたが、それを冷ややかに見下ろした。 外道な言葉でもかけてやりたいところだったが、我慢した。 あくまで今の俺は、臨也に唯一手を差し伸べられる人間のうちの一人だからだ。 「あ、ぁ…っ、も…んうぅ、み…ないで…はぁあ、あっ、ああぁ……!」 最後の瞬間に顔を手で必死に覆いながら、そのまま果てた。熱い迸りが飛び散り、ほんのすこしだけ床を汚していた。 荒い息づかいとまだ内側で刺激を与え続けているバイブ音が、静まり返った部屋の中で存在を主張するように響いていた。 「…ぁ…ん……ぅ」 糸が切れたように動かなくなった腰が、ぴくんと少しだけ跳ねた。まだ蠢いているおもちゃに反応したのだろう。 まだまだ苛めてやりたい思いはあったがこれ以上は不審に思われるのでやめることにした。 顔色を変えずにしゃがんで臨也の尻に触れて貞操帯を押さえ、右手で力任せにビリビリと引き裂いた。そして中に埋まっていた極太バイブを引っ張り出して床に派手に叩きつけた。 「事情はわからねぇが、とにかくムカツクな。クソッ!!」 そして心底憎らしいという表情をさせて怒りをあらわにした。こんなことをしたのは俺だというのに、とんだ正義の味方気取りだった。 だがそんな俺を見て正気を取り戻したのか、もう怯えもなく顔をほころばせて普段よりもやわらかく悪意もなく微笑んだ。 「ごめんね…こんな気持ち悪いところ見せて…」 「謝る手前のほうが気色悪いんだよ。気にすんな」 目の端に薄っすらと涙が浮いているのを複雑な気持ちで眺めながら、内心は犯したくて、泣き叫ばせたくてたまらなかった。 どす黒い感情がぶすぶすとくすぶっているのにどこまで耐えられるだろうと思いながら、そっと目線を反らした。 text top |