もう最初に媚薬を飲ませてから一週間は過ぎようとしていた。毎日毎晩新宿の臨也の家に通いつめて、同じような手口でセックスを迫っていた。 さすがにそろそろいいだろうと頭では思っていたが、なかなか抜け出せることができなかった。 体を重ねる度にあいつの体はどんどんエロくなっていき、もう俺たちの体の相性は抜群だと公言できるぐらいにまで発展していた。 こんなつもりじゃなかったんだと迷いながらもエスカレートしていく行為と気持ちが抑えられなくて、遂にここまできてしまった。 「…………」 臨也の家の扉の前に立ち入ろうかどうしようか一瞬だけ思案したが、結局はドアノブを回し中に入っていった。 鍵は最初から開いていた。朝方ここを出た時に開けっ放しにして、そのままの状態で残されていた。当然部屋の中も片付けてはおらず、散らかったままで残されている。 キョロキョロを周りを確認して誰も来ていないことを確かめると、奥にある寝室の扉をゆっくりと開けた。 「んッ!んーーーうぅ、ぐうぅぅん、ん!!」 すぐに篭った声が耳に届いたのでそちらに目を向けると、臨也があられもない姿で縛られてベッドの上に寝転がされているのが見えた。当然それをしたのは俺だった。 手を後ろで縛られ、足は大きく開脚された状態で少し長い棒のようなものに括りつけられてきっちりと固定されている。 目は黒い布のようなもので完全に視界を塞がれ、口には猿轡がはめられて完全に体の自由は奪われていた。極めつけに後ろの穴には極太のバイブが埋められていて内側から刺激していた。 嘗め回すように見ていたがさすがに扉を開ける音と気配で誰かが来たことを察知したのか、必死に声をあげて助けを求めるように全身をガクガクと揺らし始めた。 しかたがないので傍に近づき無言のまままず目隠しを外してやった。 「ん、うぅ…ん、んううぅぅッ!?」 するとすぐに驚愕の瞳を俺に向けて声を荒げた。そのまま猿轡も外してやると、怒涛の勢いで言葉が紡がれた。 「はぁッ…っ…な、なんでシズちゃんがここに来てるの!まさか俺のことを助けに来たとか言うつもりなの!?助けてくれたのはありがたいんだけどさ…こんなの最悪だよ…」 疑問の言葉を俺のほうに投げかけているうちに、冷静な表情のまま足と手とすべての戒めをあっさりと引き千切って解いた。 さすがに突っこまれているバイブにはさわらなかったが、すぐじ自由になった手で引き抜き床に叩きつけるように投げ捨てた。そして肩で息をしながらそのままうずくまって頭を抱えだした。 「あ、はははっ…どこで俺がこんなことになってるのをどこでかぎつけてきたのか知らないけどさ、まさか天敵のシズちゃんに助けられるなんてね。まだこんなことをしたレイプ犯がシズちゃんでしたって言われるほうが納得できるよ。俺のこと殺すんじゃなかったの?ねぇなんで助けてるの?」 壊れたような笑い声をあげながら捲くし立てるように次々と恨みの言葉を告げた。傍から見たら痛々しい姿だったが、すべてのことを知っている俺にとっては最高におもしろい状況だった。 「あー…とりあえず落ち着け。なんか水でも持ってきてやるよ」 狙い通りまさか俺が本当に犯人だなんて思ってもいないようだったので、いつもの様子を装いつつ部屋から出た。 台所に向かい適当にコップに水を汲んでその中に、ポケットから取り出した小瓶の中身を数滴垂らした。一日中あんなものを入れられて体は疼ききっているだろうが、記憶を消すのを目的にそうした。 きっと一日中誰かに拘束されていたことはきっちりと記憶に残るだろうが、誰が助けに来てなにがあったかはこれで忘れてくれるだろう。 本当に都合がいい薬だなと思いながらコップを持って再び臨也の居る部屋に戻った。 するとさすがに全裸は嫌だったのか、布団を体に巻きつけて体を隠すようにしながらベッドに座っていた。 媚薬の入ったコップを差し出すと俺の顔を見ることなく受け取り、そのまま一気に喉の奥に流しこんで深いため息をついた。 「……はぁ、なんで俺一番会いたくない相手に助けられてんだろ。ほんと意味わかんないよ…もうすっかり弱っちゃってるのかなぁ?なんかシズちゃんがかっこよく見えちゃったんだもん」 必死に普段の調子を装っていたが、さっきから一向に視線は合っていなかった。内心は焦りと不安と怖さと疑いが渦巻いていてドロドロのはずだろうに、取り繕っている姿が随分と滑稽に見えた。 あんな姿で何時間も過ごしたはずなのに、別になんでもないような嘘を貫き通せるのはある意味褒められることだった。 どんな気持ちで俺が来るまでの間を過ごしたのか考えるだけで、どす黒い笑みが口に浮かんできそうなぐらい楽しい気分だった。 「ねぇさっきから返事がないんだけど話聞いてる?もしかして俺のこと同情したりなんかしてるの?そういうのやめてよね反吐がでるよ。かわいそうな奴だなとか思ってるんなら、今すぐぶっ殺すけどいいよね?」 「別になんとも思っちゃいねぇよ。自業自得なんだろ?」 本気で殴りかかってきそうなぐらい殺気立っていたので、煽るようなことは言わなかった。 そういえば最近は夜以外全くといっていいほど会わなかったので殴り合ってもよかったが、基本的に暴力は嫌いなのでそれはやめておくことにした。 あり余った力を使ういい方法がみつかったのだから、そっちに使わないのは勿体無い。 「ふーんそう…シズちゃんなら俺の腕で泣いてもいいぞ、ぐらい言ってくるかと思ったんだけどねぇ。つまんないの」 「どっちなんだよてめぇは」 言いながらさり気なくベッドの横に腰掛けたら、明らかに違和感があるぐらい大げさに肩を揺らして反応したのでじっと瞳をみつめた。 その反応の理由はわかっていた。そろそろ媚薬が効きはじめている頃なのだろう。 知ってはいるがあえてそれは隠して、なるべく刺激しないように声を掛けた。 「どうした……?」 「あ、いや…あのさそういえばなんでここに来たのかまだ聞いてなかったよね?誰に聞いたの?それともたまたま気まぐれで来ただけなの?それとも……」 さっきまでの態度と比べるとやけに自信がなさそうで、声のトーンも落ちていて最後のほうは聞き取れないぐらい小さな声になっていた。 目線は未だに合っていないが瞳の奥には困惑の色が浮かんでいるのがわかりきっていた。 「……って、うわッ!……シ、ズちゃん……?」 ベッドの上に右足を乗せると同時におもいっきり手を伸ばして強引に臨也の首を掴んだかと思うと、そのまま自分の胸に押しつけた。 驚きに声を荒げながら怪訝そうに俺の名前を呼んだので、どん底に突き落とすための言葉を吐いた。 「あぁ…俺の腕で泣いてもいいぞ。ただし別の意味での啼くだけどなぁ臨也?」 そこでやっと口を歪めて微笑んだ。最近ではすっかりこれが定着していて、随分と悪者になったよなと思っていたが笑うのをやめられなかった。 text top |