「しかし本当に都合よく数時間だけ記憶が抜け落ちてるなんてありえるのか…?」 タバコの煙をぼんやりと眺めながら呟いていた。 あれから何回か臨也のことを犯した。媚薬を盛ったのは一応俺だし最後までつきあう義務があるだろうとは思っていたが、結構大変だった。最終的に奴が気絶するまで続けられてすっかり体は疲れきっていた。 さすがにこのままではいろいろマズイと思ったのでシャワーを浴びる時にあいつも一緒に洗ってやり、部屋の中もとりあえず片付けソファの汚れも落とした。 しかし独特の匂いは窓を開けてもまだしっかりと残っていたので、休憩がてらタバコに火をつけたのだ。服はすっかりを着替えていて、あいつも服を着せてソファの上に寝そべらせてある。 臨也は少しぐらいなら物音を立てても起きないぐらいには寝入っていて、そうとう疲労しているのが遠目にもしっかり感じられた。 とりあえず自分がしたであろう証拠は全部消した。コーヒーカップも洗い、俺にしては相当慎重に残骸を消した。 だがもしあいつの記憶が抜けたとしても残っているものが一つだけあった。 それは誰かに陵辱されたという体中の痕だった。 行為の最中に思わずひっかいてしまった爪跡や強く掴みすぎてできた手の跡などだ。こればかりは隠しようがない。 明日の朝目覚めた時、あいつはどう思うのだろうか。どんなショックな顔をするのだろうかと気になったが、さすがにそれを目の前で見るわけにはいかなかった。 もう充分今夜だけでいろいろな表情の臨也を見たのだ。それでもう満足すぎるほどだった。 正直な話後悔は全くしていなかった。バカなことをしちまったとは思っていたが、後悔はなかった。 セックス自体は激しかったがかなり満足していたし、快楽に溺れる臨也を征服するのが楽しくてしょうがなかった。 大嫌いな相手であるからこそ、楽しめたといえただろう。 普段の性格から考えれば女にこんな手酷いことはしたくないし、男とやりたいなんて死んでも思ったことはない。 だからこれは例外中の例外だった。殺したいほど憎んでいる奴を貶めるためならなんでもする、ということに当てはまるだろう。 それが思いのほか快楽も得られて心の底から謳歌できるとは思ってもいなかったが。 「外道だな俺も。まぁでも臨也相手なんだからしょうがねぇか」 無理矢理自分を納得させた。もう今となってはそうすることしかできなかった。 万が一の為にといいながら証拠を全部消して帰るぐらい卑怯なくせに、すべてを臨也が悪いということにしてその場を去った。 「おい話がある」 「え?なにシズちゃんどうしたのって、勝手に家の中に入らないでよね!!」 仕事帰りに昨日とほぼ同じ時間、俺はまた臨也の家を訪ねていた。昨日のことを確認するためと、もう一つの目的のために。 普通にチャイムを押して呼び出し扉がわずかに開いた瞬間に体をすべりこませて、奴がうろたえている隙をついて無言のまま家の中にあがった。 すぐにパタパタと足音が後ろからついてきたので、どうやら慌てて追いかけてきたようだった。そちらに振り向きもせずに昨日行為をしたはずの部屋のソファに腰掛けた。 「ちょっと急になに!なんなの!?」 「茶ぐらい入れろ」 「はぁ?なんでそんなに偉そうなの、わけわかんないよっ!もう余ったコーヒーぐらいしかないけどいいよね?」 困惑しながら真正面に座った臨也にそう言い放った。文句をブツブツ呟いていたが、どうやら要望どおりにしてくれるようだった。ここまではほぼ昨日と同じだった。 席をはずした隙にソファ周りをキョロキョロしてみるが、当たり前なのだが昨日の痕跡は全く残ってはいなかった。ほっと胸を撫で下ろしているとすぐに二人分のカップを持って戻ってきた。 「確かシズちゃんブラックだったよね、はい」 「あー悪い、俺最近砂糖とミルクを入れるんだ」 「え?嘘?そんなの初耳だよ。しょうがないなぁ」 コーヒーカップを受け取りながら昨晩と全く同じ事を告げたが、顔色を変えることなく砂糖とミルクを取りにいった。 (やっぱり覚えてねぇのか、狙い通りだ) ほくそ笑みながらズボンのポケットからまた小瓶を取り出して、数滴中身を臨也のカップにたらしてすぐにそれを隠し何食わぬ顔を装って座りなおした。 「さっき言ってくれればよかったのに、まったく…今の間に部屋のものとかさわったりしてないよね?」 「あぁ」 普通の表情をして砂糖とミルクを受け取りながら、心の中がどす黒い感情で塗りつぶされていくのを感じていた。 「で…話なんだが……」 「……?急に改まってなに?昨日池袋で会った件をまだ怒ってるとでも言うの?」 含ませるようにゆっくり言った後暫く黙っていると、沈黙に耐えかねた臨也がカップに口をつけて中身を飲んだ。 それをしっかり確認してから話をきりだした。 「てめぇ昨日の夜になにがあったか覚えているか?」 だいたいの答えを心の中で予想しながら尋ねた。 text top |