時間は深夜、もうそろそろ日付が変わってしまうという寸前の池袋の街を歩いていた。最近はこんな時刻になるとほぼ人通りはなくなり、昔に比べて随分と静かになったものだった。 昼間はあんなにも人で混み合っている大通りはすっかりもぬけの空だ。まだ通りを横に一本入っていったほうがマシなぐらい見事に誰もいない。 つまらないな、と思いながらポケットに手を入れて歩いていると急に後ろから誰かの気配が迫ってきているのを感じた。 振り返らなくても相手のことはわかっていた。こんな距離まで存在を気づかせずに接近できるのは一人しかいない。 あくまで平静を装って振り向き、名前を呼んだ。 「あれ?どうしたのシズちゃ……ん?ん、ぅッ…!?」 いつも俺には全く想像できない行動をしているが、今日はあまりにも突拍子すぎていた。 あろうことか不機嫌な表情のまま胸倉を掴む勢いで懐に飛びこんできたかと思うと、キスをしてきたのだ。 驚きに目を見開きながら体をよじって必死に逃れようとしたが、ものすごい力でがっちりと押さえつけられていて顔を動かすことさえままならなかった。 どうやって逃げるかを考えているうちに強引に唇がこじあけられて、生あたたかい舌が侵入してきた。 そのまま一気に奥まで進んでいき、喉の奥の壁を撫であげてきた。 「む、ぅ……ん…ッ……!」 それから何度も何度も針のように尖らせた舌先をぐいぐいと押しつけられて、正直少し痛いぐらいだった。 けれども苦痛の表情だけは晒したくなくて、必死に我慢した。 その反動なのかはわからないが、ズクンッと体の奥底になにか響いてくるような感覚がわきあがってきた。 もやもやと胸の内にまでそれが伝わってきてむず痒いぐらいだった。 「っ……んう……ぅ…」 妙なものに気を取られている間に、今度は舌全体が移動して俺の舌に絡みついてきた。勿論加減などは無い。 まるで押し潰すかのように力強く接触してきて内心イラッとした。わざと感情を煽っているのかと思ったが、シズちゃんにそんな小細工ができるわけがない。 ムカつくな、と苛立ちをおぼえながら俺も同様に舌を伸ばして対抗した。このまま押されっぱなしというのは絶対に嫌だった。 「ん、ぐぅ……ッ!」 すると明らかに狙っていたかのように舌と上の歯の間に挟まれて、強烈に前へ引っ張られた。 さすがにこの痛みには耐えられなくて、くぐもった声をもらしてしまう。生理的な涙が薄っすらと目の端に浮かぶほどだった。 一瞬本気で歯を突きたてられのを想像して身震いしたが、そこまではならなかった。 誘導されるかのように挟まれた舌が口の上側に押しやられて、擦り潰されるかと思うぐらい下から突かれたうえに引っ張られてえづきそうになった。 (この馬鹿力が…!殴り合ってる時と全然変わらないじゃないか!!) 心ではそう思っていて最悪の気分のはずだったが、さっきからどこかが疼いてしかたがなかった。 それがどこかなのかは考えたくなかったが、腰より下であることは間違いなかった。 まだシズちゃんの腕から逃れるのを諦めてなどいなかったのに、どうしてか両足がぶるぶると震えて今にも崩れ落ちそうだった。 「ん、ん……うぅ…っ…」 自分の声までもが次第に勢いを失って、頭がぼんやりとして思考がままならくなってきていた。 すると途端にこの行為そのものがどうでもよく思えて、全く見当違いなことが気になってきてしょうがなかった。 (こんなに広い道の真ん中で…誰かに見られてもいいのか?見せつけようとしてるのか?) ただシズちゃんが何も考えていないで行動した可能性のほうが高かったが、朦朧としかけた頭ではこの行動にはなにか意味があるかもしれないと考え始めていた。 そして考えれば考えるほど、呼吸が激しくなり頬が熱くなっていった。 「う……あっ…?」 しばらくして我に返った時には唇は離れ、腰に回されたシズちゃんの手に支えられる形で体を預けていた。 すっかり熱のこもった瞳で見上げて呆然としていると、信じられない一言を告げられた。 「こんなので感じるなんてイザヤくんは……変態だな?」 「な…ッ!?」 わざと名前を呼ぶなんて、皮肉以外のなにものでもなかった。 そしていつの間にか完全に反応していたそこを、ズボンの上から手のひらでねっとりとさわられて肩が大げさにビクッと震えた。 勝手にそんなことになっている自分の体があまりに恥ずかしくてかっとなり、いつもはスラスラと出てくる嫌味が全く口から出ることは無かった。 「しょうがねえこのままどっか入ってヤってスッキリするか。近くで空いてそうな場所あるか?」 「シ…ズちゃん……いくら俺が情報屋だからってホテルの空室情報なんかわかるわけがないだろ」 「それもそうだが穴場ぐらいは知ってるだろ。いいからさっさと吐け。じゃねーと今ここで襲っちまうぞ?」 言いながらすっかり勃ってしまっていた俺の先っぽをわざと強く手のひらの腹で押して強烈な刺激を与えてきた。 「ッ!わ、わかった…よ」 かろうじて妙な声を出すことだけは遮られたが、そこまで言われては首を縦に振るしかなかった。 text top |