「ほんとにシズちゃんの怪力でもダメなんだ?」 「ああ、なんか掴もうとしたら力が抜けてうまく壊せねえ。ったく、手前はいつも妙なことするよな」 「だから俺のせいじゃないって、新羅が……」 「これを嵌めたのは手前だろうが、ああっ?一回頭打って思い出すか?」 俺がようやくシズちゃんの肩から降ろされたのは、薄汚いアパートの部屋へ入れられてからだった。乱暴に投げられたのはいいが、どうやら本人も手錠で繋がってることは忘れていたらしい。 なぜか二人でベッドの上に転がっていた。互いに喚きながら、俺がいつもの化け物の力で壊してと言ったのだが、実際に目の前で試して無理だということがわかる。 頭痛がした。嵌めたら一生外れない腕輪だ。その謳い文句が本当ならの話だけど。 「わかった、喧嘩はやめよう。お互いの為だ」 「一時休戦ってことか?」 「だってそうしないと、俺が死んじゃう。君だって大事な家族とか、弟君に殺人犯になって迷惑掛けたくないだろう?言ってる意味わかるよね」 「チッ、じゃあしょうがねえな。でもむかつく時はぶん殴る」 これだから野蛮な化け物は、という気持ちで視線を向けると、刺すような殺気を感じて俺は肩を竦めた。この分だと数時間ももたないのではないかと思う。 ボコボコにされる未来が見えて、嫌だなあとか痛いなあとか考えていると、突然シズちゃんが立ちあがった。眉を顰める。 「なに」 「トイレだ」 「はあ?それぐらい我慢すれば。俺は君の醜い物なんて見たくない」 「上等じゃねえか、誰が一時休戦だ?手前がその気ねえんだろ。ぶん殴られても文句言えないよなあ?」 「やだなあ、冗談だよ。シズちゃんってこんなジョークも通じないの?心狭いねえ」 おもいっきりバカにしてやると、顔を真っ赤にしてシズちゃんは怒りを我慢していた。こうして見ると意外と楽しいかもしれない、と俺は振り回して遊ぶことを覚える。 ちょっと悪戯してやろう、と思い、早くトイレ行こうと目で訴えた。すると何が起こるのか気づきもしないシズちゃんが歩き始める。 二人の腕輪の間の鎖は数十センチしかない。生活のほとんどを寄り添っていなければいけないなんて、うんざりするがこういう楽しみ方があるのかとほくそ笑む。 「待てよ、一緒に入るのか」 「だってこの長さじゃどう考えても無理じゃないか。俺が後ろから見ててあげるから、早くしなよ」 「うぜえな、クソ」 シズちゃんは一瞬だけ嫌そうな顔をしたけれど、尿意の方が我慢できなくなったのかチャックを下ろす。そしてトイレに向かって用を足し始めた。 「ははっ、シズちゃんって意外と小さいんだねえ。もしかしてそれ一度も使われたことないんじゃないの?童貞とか、あっそれとも会社の先輩と一緒に風俗行った?」 「話し掛けんじゃねえ。しかも今トムさんのことバカにしたよな。手え離せねえからっていい度胸じゃねえか」 わざと苛立つようなことをペラペラと捲し立てて、シズちゃんの反応を見る。童貞というところで体が微かに震えたので、そうなのだろう。これは予想以上に面白い。 もしかして性的なことも知らないのではないか、と思うと笑いが漏れる。二十五にもなってこれでは、一生結婚なんてむりだろうなと、心の中で盛大にバカにしてやった。 「おい俺終わったから、次は手前だ。面倒だから今すぐここでしやがれ」 「なに言ってるの。しないよ」 「ああそうかよ、じゃあ脱がしてやるな」 「へっ?うわッ!?」 ビリッ、という布の破れる音が耳に届いた時になって、俺はしまったと思った。気づくのが遅すぎた。どうやらやり過ぎたらしい。 とっさに腕輪の嵌っていない左手で遮ったが、シズちゃんに勝てるわけがなかった。無残にベルトは弾け飛び、ズボンどころか下着まで強引に引き裂かれている。 おまけに手を洗っていない。汚い。 口であれこれからかった俺に対して、暴力という強制手段に出たシズちゃんに苛立ちが沸いた。すかさずコートのポケットからナイフを取り出す。 「ズボン弁償してくれるんだよね?」 「ああ?誰が手前なんかに払うか。そっちこそ今まで壊したもんの借金払え」 「あのねえ、自分の借金を人に押しつけるなんて最低じゃない?でもそうだなあ、シズちゃんが床に額擦りつけて土下座したら許してやらないことも……ッ!?」 「黙れ、握り潰すぞ」 ズボンを破るだけならまだしも、シズちゃんは強硬手段に出た。あろうことか、俺の性器を掴んで脅してきたのだ。 おもわず体が硬直する。卑怯すぎる。まさかここまでするとは思わなくて、額に冷や汗が浮かんだ。 そういえばあまりシズちゃんに捕まったことがなかったから知らなかったが、俺に対しては平気でなんでもできるのだろうか。殺すこと以外なら、男のあれを握るなんて。 「っつーか、これ手前の方が小せえんじゃないか?人のことバカにしてんじゃねえぞ」 「は、はあ?嘘言わないでよ、シズちゃんの方が小さい」 「大体どうしてこのサイズで比べようとすんだよ。絶対俺の方がでかい、手前には負けねえ」 「ちんこの大きさで張り合うなんて、子供だねシズちゃん」 「先に言ったのは手前だろうが」 あっ、また切れたと我に返った時には遅かった。掴んだままの俺の性器を、信じられないことに手のひらで擦り始めたのだ。 さすがにこれは驚かずにいられなかった。擦りあげてくる右手首を掴んで止めさせようとする。 「わ、わかった、わかったから!ちょっと落ち着いてよ。ほらよく考えて、俺だよ?折原臨也だ。こんなことするなんて馬鹿げて……」 「先につっかかってきたのは手前だ。でも売られた喧嘩は買う」 「はあっ?意味わかんない。これだからシズちゃんのこと、嫌いなんだよね」 切れているシズちゃんに対して冷静になれと言ってどうにかなるとは思えなかったが、俺は必死だった。いくら仇敵同士とはいえ、どうしてこんなことをしなければいけないのだろうか。 どう考えても正論を言ってるのはこっちなのに。本当にやってられない、と大袈裟に肩を竦める。 「俺も手前のこと大嫌いだ」 「そんなのわかってるけど?」 俺の嫌い、という言葉に対してシズちゃんが怒鳴りあげて、凄い形相で睨みつけてきた。こっちも不敵に笑ってみせるのだが、その時とんでもないことが起こった。 「えっ?なに、光ってるんだけど」 「黙れって言ってるだろうが」 「いやだから、腕輪光ってるって!なにこれ、どういうことだよ。ははっ、まさか呪いの腕輪とかじゃあ」 二人の手首に嵌っている腕輪がなぜかピンク色に光り始めて、驚いた。おかしいんだけど、と訴えたのにシズちゃんは相変わらず聞いてはくれない。 こんなの説明書に書いていなかった。とんでもない物じゃないかと焦っていると、一瞬後には全身を鋭い痺れが駆け抜けて右足がカクンと震える。 「あ?どうした」 「な、なにこれ……汗出てきて、っ、息苦しい、ぅ」 さすがに俺の異変に気づいたのか、シズちゃんが手を止めた。俺はなりふり構わずしがみついて、額にびっしりと浮かんだ汗と体の震えを懸命に堪える。 呼吸も乱れてきて、明らかにおかしかった。まだ腕輪は両方とも光っていて、シズちゃんに変化がないのは化け物の力のせいじゃないかと考える。 頭では冷静に考えつつも、体の力が抜けていくのは止められなかった。完全にシズちゃんの胸に顔を埋めて抱きつく。 「はぁ、なんで、どうして?」 「おい臨也、顔真っ赤じゃねえか。どこが苦しいんだ」 「ぁ、っ、息が……」 「息できねえのか?しょうがねえ」 「え」 息が苦しくて全身が熱い、と言いたかったのだが最後まで言葉を発することはできなかった。だって唇が塞がれてしまい、呼吸もままならないぐらいだったのだ。 あまりのことに頭の中が真っ白になる。だが一瞬後には、すごい勢いで口内に酸素が送り込まれてきて、懸命に吸いこんだ。 おもわず咳き込んでしまい、すぐに相手が離れて行く。涙目になって見あげ、困惑な瞳をシズちゃんに向けた。 「な、んで……っ、んぐ、ぅ!?」 しかし文句を言う前に、また口づけるように唇を押しつけられて、吐息が口内に満たされる。どうやら人工呼吸でもしているのだろう。シズちゃんにとっては。 あまりにも無茶苦茶で、意味を成していない。それでも必死なのは伝わってきたし、どうにか急激な息苦しさだけはおさまっていく。 「はぁ、は、っ、もう……いい、から、大丈夫」 「嘘つけよ大丈夫じゃねえだろうが。すげえ顔真っ赤だぜ、なにやってんだ」 「だから、これだって。突然腕輪が光って、体が熱くなって、なんかおかしくなったんだ」 「腕輪?……おい、本当に光ってやがる」 今頃気づいたなんて、鈍感、バカ、と頭の中だけで毒づく。正直俺には口にするほどの元気は残っていなかったのだ。 くらくらと眩暈もしていたし、とんでもなくみっともない格好だったが気にしていられないぐらい切羽詰まっていた。意識も朦朧としている。 「汗掻いてるぞ。っつーかマジで体あちいぞ、手前」 「はは、困ったなあ。ほんとに、苦しいっていうか、はぁ……なんだろう、これ」 「なあ、おい」 「……ん?なに」 俺をしっかりと腕に抱いたシズちゃんが、前髪を掻きあげて額にふれてくる。自分でも体が火照っているのは理解していて、どういうことなんだろうと顔を顰めていたら。 突然あからさまにシズちゃんの顔色が変わった。そしてなぜか俺の下半身の辺りをジロジロと見るのだ。 「どうした、の……っ、え?なに、これ」 「さっき俺が擦ってやった時全然勃たなかったのに、どうして今頃勃ってんだ手前」 ああなるほど、とその時俺は妙に納得した。荒い吐息、火照った体、朦朧としている意識。それらを総合して、どういう症状になるか。 さっきの光りのせいだとは思う。だって急激にこんなことが起こるわけがない。いくら人では思いつかないような想定外の事が起こる腕輪だとしても、ここまで最低なものとは俺の予想を遥かに超えていた。 催淫効果があるなんて。どうしてそれが急に発動したのか、俺にだけ効いているのかは不明だ。 「多分そういう、効果なんだ。性欲が高まるとか、卑劣極まりない腕輪だねこれは」 「じゃあ手前今、欲情してんのか?」 「そうだよ。呼吸困難じゃなくて、悪かったね……っていうか、どうして俺だけ、なんだよ」 「ああっ?聞こえねえよ」 さっきまでの俺なら、シズちゃんのファーストキス奪っちゃってごめんね、と嫌みを言ったに違いないが、そんな気分にはなれなかった。目を細めてため息をつくだけで、体に襲い掛かる性欲に流されそうになっていたのだ。 人外の力だからこそ、怖い。いくら理性を保とうとしても、俺では無理だろうと本気で思った。 「だから、苦しいって……ッ、は」 「しょうがねえな、とりあえず出るぞ。ベッド連れてってやるから」 さすがにシズちゃんも俺の尋常じゃない様子に驚いたのか、軽々と腰を掴んで抱き上げるとトイレから出る。俺もかなり意識が朦朧としていたので、腕を伸ばしてしがみついた。 他の事なんて気にしていられなかったのだ。揺れる度に全身が小刻みに震えて、熱いため息が漏れてしまう。みっともないどころの話ではない。 「おい、生きてるか?」 「な、んとか……っ、ぁ」 ベッドの上に転がされて、シズちゃんが俺の体に覆い被さるように見つめてくる。目を細めて窺うような表情に、驚きで息が止まりそうになった。 口は悪いしこっちの言う事なんて全く聞いていないのだが、瞳だけは優しげだったのだ。そんな感情をシズちゃんに対して抱いてしまうなんて、俺はおかしくなってしまったのだろうか。 「ねえ、ちょっとあっち行っててよ」 「あっちってどこだ。っつーかこれ外れねえから無理だろうが」 「そうだった」 疼き始めた体をどうにかしたくて、どこかに行ってくれと言ったのだが、腕輪の存在をすっかり忘れていた。元はといえば、全部腕輪のせいなのだ。腹立たしい。 しかし離れられないなら、どうすればいいのだろうか。さっきから熱くて仕方がないし、だからといってシズちゃんの見ている前で抜くなんて。 「なあ、それいいのか。すげえ辛そうだぞ」 「わかってる、よ……ッ、は、でも、どうにもできないだろう」 「抜けばいいだろう」 「嫌だよ。シズちゃんに見られながらなんて、死んでも嫌だ」 シズちゃんは俺の性器をジッと眺めている。やめてくれ、と蹴りたいのに足は動かない。今は気力だけで堪えられているが、手を伸ばしてそこを握って性欲を吐き出したかった。 早く早く、と頭の中では急かすように快感が膨れあがっている。こんな状態が長くもつわけがなかった。 わかっているけれど、ギリギリまで堪えたい。ただでさえみっともない姿を晒しているのに、シズちゃんの前で自慰をするなんてとんでもない。 「じゃあ俺が抜いてやるよ。さっきの続きだ」 「はぁっ!?なんでそんなこと」 「嫌がらせだ」 突然とんでもないことを言い出したシズちゃんに殺意を向けると、平然と答えられて頭痛がした。嫌がらせだ、と言われたら、ああそうだよねと納得してしまう。 冷めた瞳を向けていると、なぜか怪訝な表情になった。不満そうだ。 「嫌そうじゃねえな」 「別に」 嫌というかもうただ呆れてしまって、必死に堪えようとしていた気持ちまでも、どうでもいいのではと思ってしまう。シズちゃんに嫌がらせをされるのは日常茶判事で、特に珍しいことではない。 イレギュラーなことが起こってはいるが、いつものことだと気づけばなんてことはない。そういうことだ。 だから別にシズちゃんの手で抜かれても嫌がらせだから俺は平気だし、と心の中で思う。必死に自分を納得させようとしていた。 「じゃあ抜いてくれってお願いしてみろよ、手前」 「一体誰に言ってるの?これだから、シズちゃんのこと嫌いなんだよね……ッ!?」 意味の解らない事を言ってくるので、誰が言う通りにするか、と鼻で笑ってやった。そしてもう一度はっきり、シズちゃんが嫌いだと宣言したのだが。 その瞬間体の奥が鈍く疼いて、さっきの腕輪が光るのが視界の端に見えた。どうして、と慌てる。 「また光ってんな」 「どうして、っ、あ、ぁ……いや、だ、っ……ぅ、く」 折角やり過ごせるかと思っていたのに、予想以上に腕輪の呪いは一度目よりも強かった。血が滲むほど唇を噛んでも、何もかもすべて吹き飛ばしてしまうほどの快楽が襲ってくる。 もうこれは耐えられないだろう、と諦めた途端瞳からぼろっと涙が溢れた。本当は何もかも曝け出して喚きたいほどの衝動を、嗚咽で隠そうとしたのだ。 「あっ、はぁ、クソッ……ぅ、う、んぐっ」 「なんだまた苦しいのか?じゃあ」 「ッ、やめろよ!苦しく、ない、っ!!」 シズちゃんが何をするのか先が読めたので、声をあげる。冗談じゃなかった。また人工呼吸でもするつもりだろうか。 二度目は嫌に決まっていた。だって、俺の唇とシズちゃんの唇が重なり合ってしまうなんて。 キスをするなんて。 「意地張るんじゃねえッ!」 「ひ、ッ!?」 その時シズちゃんが声を張りあげて、俺の性器をおもいっきり握りこんだ。あまりにもびっくりしすぎて、情けない悲鳴が漏れる。 凄い形相で睨まれていて、迫力があった。きっと俺のあそこは一瞬で潰されてしまう、と本気で覚悟したのだが。 「大人しくしてろ」 「なに、っ……脅す、つもり、なの」 しっかりとペニスを掴んだまま、なぜかシズちゃんは布団を捲った。何をしているのだろう、と見つめていたら取り出されたものがある。俺はそれを凝視して固まった。 液の入ったボトルで、中身は透明だ。それが何かなんて、問わなくてもわかる。 「それ……」 「ローションだ」 「なんでそんなもの」 「自分でする時使わねえのか?変な奴だな」 自慰する時にローションまで用意してするなんて、そっちの方がおかしいんだよとは言えなかった。呆気にとられていると、手慣れた様子でボトルを開ける。 片手だったので開けにくそうだったが、蓋を取るとおもむろに中身を傾けてローションを垂らした。勿論俺の性器に向かって。 「あっ、ぁ!やめろ、って!」 「そうか、臨也君はオナニーする時ローション使わないのか。っつうか、これが気持ちいいの知らないのか」 さすがに俺も青ざめた。勢いよく冷たい粘液が性器に垂らされて、逃げようにも逃げられない。 ただでさえ体の疼きが強くなって泣いてしまったのに、ローションなんかで擦られたら。腰を引こうにも、ガッチリ固定されているので何もできない。 「知らなくていい、っ、あ……シズちゃん!」 「覚悟しろ」 「嫌だぁ、っ、ンッ!!」 グチュ、と粘着質な音が聞こえてきてシズちゃんの左手が性器を擦った。その瞬間想像以上の心地よさに、思考が一瞬で吹き飛んでしまう。 しっかりと堪えて閉じていた唇から、荒い呼吸が漏れ始める。人の精神を停止させて欲望のままに腰が動いてしまう。 「あ、ぁ、あッ、ンぁ、あ、はぁ、あ」 滑りの良くなったシズちゃんの大きな手のひらが、ペニスを往復して絶妙な刺激を受ける。きっと催淫効果のせいで、どんな乱暴な指使いでも感じてしまうのだろう。 決してシズちゃんが上手いからとかそういうわけではない。だらしなく開いた唇を閉じたいのに、できなかった。 涙の量は増えている。こんなにも強い心地よさを感じたのは、俺もはじめてのことだった。 「うぁ、っ、あ、んぁ、は、あっ、あ、ぁあ、あ」 「手前泣くと、すげえ子供っぽくなるんだな」 「ッ、ぁ……死ね!」 「死ぬわけねえだろうが」 人の事を煽る様な言い方だったので、瞬間的に殺意を向けて睨みつけた。しかしそれだけで、すぐに頭に靄が掛かったみたいに鈍くなり、体が勝手にシズちゃんの動きに合わせて震える。 嫌なのに、何もできなかった。本当に情けない。 絶対に抗えないものだとしても、シズちゃんなんかの手で射精するわけにはいかなかった。そうなったら絶対に舌を噛み切って死んでやる、と思ったのだが。 「そういうこと言う奴には、こうするしかねえよな」 「なに、っ……あ、うぁ」 「イっちまえよ」 急にシズちゃんが身を乗り出して、顔を近づけて間近で低い声が聞こえる。体の奥がズクンと響いて、戸惑っていると鋭い痛みが走った。 そして滅茶苦茶に頭を振り乱しながら叫ぶ。腹の辺りに生あたたかい液体が振りかかった。 「うぁっ、ぁ、あ、んぁあッ!んぁ、あふぁ……あーあっ、あぁ、うぁ」 抵抗する間もなかった。ちょっとだけ強くシズちゃんに先の方を握られただけなのに、派手に射精してしまったのだ。勿論しっかりと掴んだままの手のひらは汚れていて、腕輪と鎖、俺の手にまで少量飛び散っている。 これは夢なのではないか、と本気で思ったがもし夢だったらとっくに目が覚めているだろう。最悪だ。もう死んでしまいたい。 本気で落ち込んでいるのに、体はガクガク震えて暫く射精を続け、ようやく止まった時には放心状態だった。欲望を吐き出したことですっきりはしたが、自分のしてしまったことに頭を抱える。 「すっげえエロい顔だな」 「はぁ、は……ッ」 返事なんてできなかった。口答えする気力もない。俺のみっともない姿を見て、嬉しそうにしているシズちゃんが本気で憎い。 憎いのに睨み返す力すらない。もうどうだっていい、と投げやりな気持ちになった。 「ちょっと握っただけで簡単にイきやがって、早いんだな」 「……っ」 「なんだ、悔しくねえのか?」 悔しいに決まっている。どうしてわからないのだろう、と呼吸を整えながら目を細めて見つめる。 だが黙っているのを別の意味に受け取ったシズちゃんが、握っていた手を離す。そしてそのまま、ローションと精液まみれの指をぴとりとそこに押し当てた。 鎖が擦れる音が微かにする。俺の右手も引っ張られて、妙な恰好をさせられている状態だった。 そこで今日一番の爆弾発言をした。 「ここ解したら、セックスできるよな」 「……え?」 「いいだろ?」 top |