「……あんた誰?」 「いきなりナイフ向けんじゃねえよ、びっくりすんだろうが。どこに持ってたんだ」 「人間がこんなところに来るなんて珍しいねえ。よく辿り着けたよ、それだけでも賞賛に値するけれど迷惑だから出て行ってくれるかな」 「起こしてやったのに、礼もねえのかよ」 「起こしてって頼んでないけど」 俺の顔を覗きこんで不機嫌そうな顔をしている男に、素早くポケットから取り出したナイフを突きつけていた。別に本気で殺すつもりはないし、怒っている口調ではあったが実は相手の反応を楽しんでいるだけだ。 ナイフなんてなくても、人間なら簡単に殺せる。そういう特別な力を持った、吸血鬼という存在だった。 「っていうかさあ、ちょっと聞くけど……どうしてこんなに顔が近いの?」 「そりゃああれだ。手前にキスしたから」 「ふーん……えっ?」 互いの息がかかる距離で話しをしていたので疑問に思っていると、とんでもないことを教えられてしまう。あまりのことに表情が固まった。この男は一体何を言っているんだろう、とまじまじと見つめる。 金髪で全身に纏っている服装は黒だ。元から人には興味なんてないので、それ以外の情報なんてどうでもいい。 人里離れた山奥に城を建てて、城内にもいくつもトラップを仕掛けている。すべては誰にも近寄らせない為で、この男はそれらをことごとく躱してきたのだろう。その評価はするが、キスするなんて非常識だ。 大体いくら吸血鬼とはいえ、同姓だ。まさか俺が女にでも見えたのだろうか。 「最低」 「なんだ?もっと騒ぐかと思ったのに、反応薄いな」 「あのねえ、寝起きの相手に何言ってんだよ。それに俺は低血圧なんだ」 「ああっ?吸血鬼なのに低血圧ってどういうことだ、ふざけんな」 口が悪いにも程がある。俺も人の事は言えないが、この男はもっと最悪だ。いちいちすべてを説明する義理はないし、ナイフを出して怖がらないのならもう興味は無かった。 趣味は人間を怯えさせ、驚いた表情や恐怖に震えあがる様を観察することだ。大抵の相手は吸血鬼だと知っただけで顔色を変えるのに、こいつはつまらない。なにより、俺にキスなんてしたのだ。 「ちょっとどいてよ」 「しょうがねえな、手貸してやる」 「なんで?頼んでないけど。いい迷惑だ」 「うるせえな、ほらよ」 「……っ!?」 手のひらを差し出されたので断ったら、突然腰を掴まれて片手で軽々と持ちあげられてしまう。翼は広げてはいないし、浮いているわけではなかった。担がれている、と気づいた時には足が地面に着いていた。 一瞬のことだったけれど、今の行動ではっきりわかる。この男は普通の人間じゃないと。吸血鬼を、男を軽々と抱きあげることができる怪力を持っている。 「ねえあんた、この部屋に来るまでどのぐらいトラップに引っ掛かった?」 「トラップって、なんのことだ?もしかして落とし穴みてえなやつか?」 「そうだけど」 「落ちるわけねえだろうが。なんかめんどくせえ奴だな、って思ってたけどよお、予想通りじゃねえか。そんなに起こされたくなかったのか」 「そうだよ。寝る前に入念に準備したんだ。放っておけばよかったのに、何が目的だよ」 その場で大きく伸びをして、ため息をついた。まだ頭は回っていないけれど、体はすぐにでも動ける。この男がすごい力を持っていて襲いかかってきても、すぐに反撃できるだろう。 挑発するように睨みつけると、向こうも眉を顰めて睨みつけてきた。このままやり合うのか、と思ったが。 「吸血鬼退治?」 「違え」 「じゃあもしかして、眠っている俺に惚れちゃったかな?キスするぐらいだからねえ」 「そうだ」 「そうか、俺のこと好きなんだ……え?」 あまりに普通に頷かれたので聞き逃すところだった。慌てて相手を見ると、冗談ではないようでさっきと変わらずこっちを見つめている。どうやら本気らしい。 そんなバカな、と内心焦りながらも冷静に尋ねる。身の危険を感じたからだ。 「どんな相手かもわからないうちから好きだなんて、一目惚れ?吸血鬼の体を狙ってる人間なんて、怖いもの知らずだねえ」 「なんだよ、好きだったら悪いのか?それに最近は吸血鬼を捕まえる道具も、術も山ほどあるぜ」 「ちょっと待てよ!まさか無理矢理したいの?ははっ、痛いのとか血は苦手なんだけど」 捕まえる、と言われて目を丸くする。一体どのぐらいの間眠っていたかはわからないが、俺が知っている頃よりも吸血鬼を捕えるのは難しくないらしい。始めからこうなることぐらいわかっていた、と言いたげに男は堂々としている。 力でねじ伏せて襲いかかるのが趣味なのか、と肩を竦めた。いくらなんでも会って間もない好きな相手に言うことではない。こいつの言う好きは、意味が違うと瞬時に悟る。 「痛くしねえよ。すげえ気持ちよくしてやるから」 「どちらにしろ、俺は遠慮するよ。嫌いなんだよねえ、君みたいな話を聞かないタイプ」 「そうかよ。吸血鬼に好かれるなんて思ってねえから、問題ないぜ」 さっきから嫌味を散々言っているというのに、向こうは怯む様子も無かった。口数は少なそうだが、俺の癪に障ることを度々告げてくる。気に入らない。 嘘をつき不意をついてくる相手は多かったが、この男みたいに堂々と宣言する奴はそういない。何もかもが、これまでの俺の常識を覆してくる。 「ねえもしかして、吸血鬼嫌いだろ?」 「ああ、大っ嫌いだ。殺してえぐらい、憎い」 「なんだ、それが君の本心か。じゃあ始めから、吸血鬼に嫌がらせする為に犯そうとしてるって言いなよッ!」 今度こそ殺意のこもった眼差しを向けてきたので、さっきから手に握っていたナイフで返した。致命傷にするつもりはなく、目くらまし程度だと思っていたが見抜かれていたようだ。 体を一歩引いて躱し、隠し持っていたらしい何かをポケットから取り出し投げつけてきた。こっちもバックステップで避けると、投げられた物が床に刺さる。しかしそれを見て、ハッと気づいた。 そこには見慣れない陣が描かれていて、突き刺さったのは十字架だった。ちょうど真ん中で、俺の体も円陣の中にある。逃げなければ、と思ったけれど遅かった。 「ッ、う……!?」 「先に手え出したのはそっちだからな。吸血鬼野郎がよお」 「クソッ、ぁ……ぐっ、うぅ!!」 青白い光が室内で眩くなり、同時に力が抜けていく。ナイフを投げる前に翼を使って浮いていれば良かったと後悔する。一気に足にまで力が入らなくなって、とうとうその場に倒れてしまう。それでも光りはおさまらない。 このまま根こそぎ力を奪う気だ、と歯軋りしたが視界が霞む。さっきまでの眠気とは違う。意識を飛ばすわけにはいかなかったので、床に爪を突き立てて踏ん張る。だが。 「結構頑張るじゃねえか。普通の吸血鬼よりは、強えのか?」 「そう、だよ……っ、俺は、ハーフじゃない純粋なヴァンパイアだ。本当はお前なんかがさわれるような身分じゃな、い……っ、ぐ!」 「でももう力ねえだろ。残念だったな」 最後に目を開けていられないぐらい光った直後に、全身を襲っていた術が解けた。その場で荒く息をついて、起きあがろうとしたが自力では動けないぐらい消耗している。これでは飛ぶこともできない。 しかし回復すれば、いくらでも反撃のチャンスがある。このまま力尽きた演技を続けようと思ったが、男は床の上に置いていたらしい鞄から何かを取り出した。それを見て青ざめてしまう。 「それ……まさか」 「吸血鬼特製の首輪だ。これならいちいち力奪わなくても、こいつが常に吸い取ってくれるんだ」 「待てよ、っ、吸血鬼の力が無くなったら……」 「人間の血が欲しくなるんだろ?理性も無くなって、体も疼くんだよな。吸血行為の代わりにセックスで人の生気奪えば死ぬことはねえんだ。俺が手前にしてえことといい、ちょうどいいだろ」 「あははっ、そういうこと、か……っ、はぁ」 やめろと怒鳴る前に腕が伸びてきて、強引に首を掴まれて首輪を嵌められる。しっかりとつけられた瞬間全身が跳ねて、説明の通りに術が施されたものだとわかったがどうにもできない。 じわじわと額に汗が浮かび、呼吸が荒くなり体中が熱くなった。この感覚は確かに、血を欲しているのと同じものだ。 俺はバカじゃないので、きちんと計算して食事をしていた。人の血だけではなく、生き物ならなんでもご馳走になる。人間みたいに食べれば微量のエネルギーにはなったので、飢えて理性を失うほど枯渇したことはほとんどない。 何日かに一度人の血を貰うか、毎日食事をし続ければ問題は無かった。外に出ることもあまりなかったし、急激にエネルギーを消費することも無い。人の血だって、昔からの吸血鬼みたいに噛みつくわけではなく、相手を気絶させて手首から飲むのが好きだった。 野蛮な他の吸血鬼達とは違う。俺は人間に近い吸血鬼だったから。人は嫌いだったけれど、化け物染みた行為はもっと嫌でこだわっていたのだ。 なのに今の俺は、吸血鬼そのものだった。これ以上醜態は晒したくない、と意を決する。 「わかった、わかったからもう俺は君を襲ったりしない。だからこれは外してくれないかな?」 「外すわけねえだろ」 「ねえ君の名前は、なんて言うんだい?教えてよ」 「……平和島静雄だ」 さり気なく名前を尋ねて、口にした瞬間笑みが浮かんでしまう。こいつは吸血鬼の事を何も知らないらしい。名を教えるということが、どういうことになるのか。 「じゃあ静雄、こっち……俺のこと、見てよ」 わざと誘うような甘ったるい声を出して、真正面から見据える。その時に残っていたありったけの力を使い、瞳が赤く光った。吸血鬼は人間を操る力を持っている。 相手の名前がわかれば余計に操りやすく、わずかな力でも相手は逆らえない。これで危機から逃れられると思った。 「なんだよ。ああもしかしてキスでもして欲しいのか?」 「えっ?」 驚いた。だって俺は目の前の相手を操ろうと魔眼を使ったというのに、全く効いていなかったからだ。力は弱いけれど、効かない人間なんてこれまで会ったことがなかった。 逆転できると確信していたのに、何も起こらなかったのだ。それが大きな隙になってしまい、目を瞬かせている間に何かが唇にふれてしまう。 「んっ!?うぅ……っ、うぅ!!」 キスをされたと気づいて、慌ててもがいた。だがしっかりと肩を掴まれて上半身を床に押さえつけら、びくともしない。その間も口づけは続いていて、あろうことか口内に舌が侵入してきた。 舌先でふれられた途端、全身が勝手にビクンと跳ねてしまう。ただでさえ血を欲しているのに、唾液が絡められて自然と喉が鳴った。一気に理性が吹き飛んで、本能のままに自ら舌を動かし始める。 「ふっ、ん……ぅ、んく、っ、う……」 すると向こうも乱暴に舌を突き出してきて、競い合うように互いを擦らせ口内に溢れ始めた唾液を飲む。おいしい、おいしいと頭の中がいっぱいになってもっと欲しくなる。 そこでようやく気づく。今なら思いっきり噛みついて、血を貰うことができると。一度考えついたら、やらずにはいられなかった。 「……待てよ」 「んっ、え?えっ、どうしたの?なんで?」 「嫌な予感がしたんだよ。手前今俺の舌噛む気だっただろうが。油断できねえ奴だな」 「ち、違う……噛もうとしてないから、ねえキスしてよ、して?欲しい……足りない、喉が渇いて死にそうなんだよ。静雄、しず……シズちゃん」 「シズちゃん、ってなんだよ。俺はガキか」 思いっきり牙を伸ばして噛みつこうと思ったら、その前に舌が出て行ってしまいパニックになる。あと少しだったというのにお預けにされたような状態で、一気に枯渇した。 一滴でも飲めれば充分なので、必死にお願いする。自分でも言っていることがおかしいと頭でわかっていたが、衝動は止められない。指先を必死に伸ばして、相手の腕にしがみつく。 「お願いだから……ね?」 「そんなに欲しいか。じゃあくれてやるよ。ただし血じゃなくて、こっちだけどなあ」 「あっ……!?ちが……しない、やだ!血でいいから、っ……セックスなんて、したくな……!!」 頼めば貰えるんだ、と鈍った思考で考えていたのに、突然首輪を引っ張られて反対側の腕が俺の服を掴んだ。慌てて違うんだと叫んだが、一気に目の前で胸元のボタンが弾け飛んで肌が顕わになってしまう。 性行為で人から生気を奪ったことなんてない。そんな行為は下品だと毛嫌いしていたぐらいだ。 「すっげえエロい顔してる癖になに言ってんだ。してえんだろうがよお」 「嫌だ、やだ、やめろって……!」 「うるせえな。そんなに血が欲しいのか?」 「欲しい!欲しい……くれるの?どうしたら、俺にくれるの?ちょうだい、ちょうだいシズちゃん」 「だから変な名前で呼ぶなって言ってんだろうが」 強引に体を割り開かれる、と思ったら怖くてたまらなくなった。だから懸命に抵抗していたら、言動が一転して突然男が血の話をし始める。脇目もふらずに欲しいと懇願する。 吸血鬼になってから、人には興味が無くなった。だから名前をわざと憶えないようにしていたのに、いつの間にかあだ名までつけていた。まるで自分だけの呼び名みたいに。 「じゃあちょっと待ってろ」 「うん、わかった……ああ、早く欲しいなあ。楽しみだなあ、シズちゃんの血」 やけにあっさりと頷いたので、俺はすっかり気分が良くなる。ニコニコと笑みを浮かべて、血が与えられるのを待った。しかし突然男がズボンに手を掛けて、下着と一緒に下ろす。 そして現れた性器を、顔の前に突き出した。意味がわからなくて、ぽかんと口を開ける。 「な……に?」 「今から血をやるよ。でも少しだけだ。味わって飲めよ」 言い終わらないうちに、性器の真上に拳を作りそこから一滴ほど血がぽたりと垂れた。大きく瞳を見開いて、雫が落ちた先を凝視する。先端に透明な先走り液を滲ませた男性器の真ん中に、血は落ちた。 もう一滴ぐらい流れ落ちないかと見守っていたが、それ以上は垂れてこない。錆びた鉄の匂いが濃厚に漂ってきて、勝手に舌を出して息を荒げる。 「あっ……血が、っ、はぁ……ぁ、欲しい、舐めたい」 「おい犬みてえに舌丸出しになってるぞ。はしたねえ奴だな」 「血飲みたい、飲みたいの、に……そんなとこ、舐めたくない。もう一回俺の口の中にちょうだい?」 「誰が手前の言う事聞くか。折角血やったのに、これいらねえのか?」 「あっ!?待って、わかった、舐める……一緒に舐めるから、っ、あ……ふぁ」 躊躇したのは、男の、シズちゃんの性器の上に落ちたからだ。いくら好物とはいえ、他人のものを舐めなければいけないなんて気が引ける。せっかくの血をしっかり味わいたいのに、これでは別の嫌なものまで味わう羽目になってしまう。 真剣に考えた。どうすればいいのか。だけどシズちゃんが手を伸ばして血を拭おうとしたので、慌てて顔をあげる。残っていた力を振り絞って性器を掴んで、とうとう口に含んだ。 「んっ、う……ぅ、ぁ、んぁ、っ、ちゅ、んぅ……おいひ」 「そうか、そんなに俺のちんこはうまいか?」 「はぁ、あ、体熱い……たりないっ、もっと、血欲しい、んっ、あ……んぐ」 「しっかりそれ舐められたら、また血やるよ。噛んだらもう二度とやらねえからな」 「舐め、る……ん、うぅ、わかっらぁ」 口内の奥までしっかりと吸いついて、舌を使いべろりと血を舐め取る。舌の上で味わってから飲み込むと、全身がかあっと熱くなり力が戻った。だけど首輪のせいですぐ元に戻り、結局はただ発情しただけだ。 仕方なく上目づかいで、もっと欲しいとねだる。まださっきの名残が残っていないか、舌を這わせて先端部分をべろべろ舐めた。しかしもう残ってはいない。 おぞましい男性器を口で奉仕している、なんていう考えは無かった。アイスクリームを食べた後の棒部分を舐めているような感覚だったのだ。だからちゃんと舐めろと言われても、抵抗感はなくなっていた。 「ふっ、んぅ、く……っ、はぁ、んぐ、ぅ……これ、でいい?」 「さっきの方が上手かった。ダメだな、必死さが足りねえ」 「え?なんで、っ、ダメなの?血くれない、の?やだぁ、っ、ちょうだい……ねえ!!」 意識して舌を伸ばして、亀頭や裏側を丹念に舐め取ったが、さっき血を味わった時みたいに我を忘れているわけじゃない。僅かに羞恥心も残っていたので、躊躇した。だがそれが伝わったらしい。 「じゃあいいもんやるからよ、舌出せ」 「舌って……これで、いい?」 「じっとしてろ」 一体何をするのかわからなかったが、血が欲しくてしょうがないので従う。舌をおもいっきり出して首を傾げると、相手はポケットから何かを取り出した。 驚きで固まっていると、反対側の指で舌を引っ張られる。おもわず呻き声が漏れて焦ったが、動揺しているうちに舌に強烈な痛みが走った。 「ふっ、ひゃ、め!?しょ、れ、っ……んっ、んんっ、ぐ!!」 「この薬はよお、打たれると口にするものすべてが血の味に変わるんだ。吸血鬼にとったら、最高のもんだろ?」 「んぐっ、うぅ……うひゅ、な!んはぁ、っ、は……あぁ、っ、んうぅ、く!!」 取り出したのは小さな注射器だった。舌に直接針が突き刺さり、ピストンを押されると薬液が注入される。あまりのことに全身がガクガク震えて、呂律の回らない叫びが響き渡った。でも止まるわけがない。 どういう薬なのか嬉しそうに説明しながら、どんどん舌の中に流し込まれた。説明通りの都合のいい薬なんかあるわけない、と思うのだが否定しきれないのが怖い。すべての粘液が血の味に変わってしまうのなら、とんでもないのは間違いなかった。 「っ、はあっ、はっ、は……最悪っ、うぅ、く」 「そんなことねえ。手前にとったら、最高の薬だろ。ほら舐めてみろって」 「ちょっとま……うぅ、っ、ん、ぐっ、ふ、うぅんんっ!?」 ようやく針が引き抜かれ解放された瞬間息をついて、おもいっきり睨みつけた。痛みのおかげか意識が戻り、血を貰えるからととんでもないことをしてしまったと悔しくなる。 しかし休む間もなく顎を掴まれて、強引に性器が口内に入れられた。こんなにもすぐ薬が効くわけない、と思った途端覚えのある味を舌に感じて我を忘れてしまう。 「んちゅ、っ、ふぁ、あ!……なに、これ、っ、ぁ……血の、味が、する……うそっ、んぅう、っ!?」 「美味しいだろ?」 「や、らぁ、っ、んぅ……ちゅ、うぅ、じゅ、く、っ……なんれ、っ、おいひ……ふぁ、んっ、んぐ」 血の匂いは全くしない。なのに口内に広がったのは、間違いなく大好物の人間の血だった。さっき口にしたばかりで、全く変わらない。 慌てて確かめるように性器に唇を押しつけ、音を立てて吸いあげながら舌でも味わう。どんなに飲んでも、喉の奥で味わっても、さっきまでとは違う。欲しているものだった。 「でも本物の血じゃねえから、体は疼いたままだろ?俺のちんこ舐めてるんだからな」 「ふっ、うぅ……ち、がう、んっ、く……これ、血だからぁ、っ、おいしい、の、当たり前で……はぁ、んく」 「涎だらだら垂らして、吸血鬼が人間のちんこ舐めてるだけだ。もう手前に血なんてやらねえ。精液飲ませてやるからよ、こぼさす飲み干せ」 「んっ、ぷうぅっ!?んぐ、っ!んうぅ、っ、ふ……!!」 好物の血を飲んでいるのに、喉の奥は満たされずいつまでも口から性器を離せなかった。男は俺に対し、性器を舐めてるだけだと現実をつきつけてくるので、違う違うと抗う。 ごくごくと喉を鳴らし続けているのに昂ぶりがおさまらず、息を荒げたまま吸いついていると今度は腰を前後に動かし始めた。勢いよくそれが出し入れされて、頭が激しく揺さぶられる。 「すげえ食いついてて気持ちいいな。これならすぐ出ちまいそうだ」 「っ、うぅ、っん!?んっ、うぅ、く……んぐ、ぅ、ぅうっ、ん!」 「ほら手前の大好きな精液だぜ!」 「ぐっ、うぅ、っんぅ、う!!んぐっ、うぅ、ぢゅうぅっ、く、んっ……ふぅ、っ、んぐ、んっ、く……んぅ、はっ、うぅ!!」 わけがわからないままごりごりと固い塊が喉奥や、口内の壁を擦り続けた。あまりのことにえづきそうになりながら、瞳の端に涙が浮かぶ。こんな激しいフェラチオに耐えられるわけがない。 最悪だと思いながらも、しっかり喉は震え唾液を飲み込んでいく。おいしさにうっとりしていたが、それどころではなかった。宣言されてすぐに勢いよく精液が吐き出されて、口内でいっぱいになる。 こぼすな、と言いつけられてはいたが目の前は真っ白で、本能のままに飲み干していくことしかできなかった。味は勿論大好物な人間の血で、牙から吸いこんで飲むよりも甘美だった。漂ってくる匂いは違うのに、濃厚で美味しくてたまらない。 「んっ、うぅ、ふぅっ……あ、はぁ、っ、んぐ、っ、ぢゅ、ううっ、ん……ちゅっ、うぅ、んぐ、ふぁ、はっ、あ」 「おいそこ垂れてるぞ」 「えっ?あっ、んぅ、ちゅ……勿体ない……んうぅ、っ、ふぁあ、あ」 随分と長い間射精は続き、その間ずっとこぼさないように飲み干した。そしてようやく終わり、性器から解放された瞬間大きく息をつく。放心状態のまま、指摘された精液を舌でぺろりと舐めて余韻に浸った。 相当の量を飲んだというのに、普段みたいに満たされない。食事をしたらお腹いっぱいになるのに、まだ全身は火照りもっともっとと望んでいる。そんなの当たり前だった。 「すっかり可愛くなったじゃねえか。吸血鬼の癖によお」 「ねえ、まだ……足りない……っ、疼いてる」 「じゃあ俺の生気をやるからよ、セックスしようぜ」 「で、も……」 「なあ手前は人間の生気を食ったことねえのか?吸血鬼にはうまくてたまらなくて、一度味わったら忘れられなくてはまっちまうって聞いたことあるんだけどよお。セックスはじめてなのか?」 「うん……」 素直に頷いてしまったことには、暫く気づけなかった。吸血鬼になってから、自分に決めていたのだ。 人の生気を奪う行為だけはしないと。気持ち悪くて、卑劣で、動けない相手を蹂躙するなんてもし自分がしてしまったら許せないだろう。 でもそこでふと、考える。こっちが襲う側ではなく襲われる側の場合は、どうなのだろうかと。しかも人から襲われているのだから、簡単に生気を奪える。チャンスではないのか。 「食ってみろよ。俺の生気」 「俺はっ、血が欲しいだけ……で、セックスなんて」 「わかったよ。もう手前には聞かねえ」 「……っ、あ!?」 生気を奪い逃げるという最大のチャンスだとは思ったが、やはり躊躇われた。頑なに譲らないでいると、とうとう痺れを切らしたのか首輪をおもいっきり引っ張られ全身が跳ねる。 動揺している間に、男が両手で俺のズボンを強引に引き裂いた。人間とは思えない怪力で、乱暴にビリビリと。やはりこいつは只者ではない、とびっくりしているうちに下半身が顕わになる。 「なあ、ここ勃ってるぜ?やる気なんじゃねえか」 「これは、っ……ただの生理現象で」 「欲情すんのは人間の俺らと同じってことなんだろ?」 「違う!疼いてるけど、セックスしたい、わけじゃ……っ、あ」 首輪のせいで強制的に快感が高められていれば、勃起しているのは当然だった。人は生殖行為を目的にセックスをするが、吸血鬼は生きる為にするのだ。一度火がつけば簡単に性行為の虜になるのはよく知っている。 血を吸うことよりも、人間の生気を奪い続けて自滅した吸血鬼だっていた。だから同じになりたくない、俺は吸血鬼でも他の奴らとは違うと信じていたのに。 悔しくて唇を噛んでいると、目の前の相手は全く話を聞かずにまたポケットから何かを取り出した。さっきの注射器の件もあったので警戒する。 「これはローションなんだけどよお、少しだけ俺の血も混じってる。下の穴からでも血を吸収できるんだろ?」 「血、だって?そ、それ……瓶ごと俺にくれればいいから!ねえ、ちょうだい?」 「じゃあ手前の名前を俺に教えろ」 「な、まえ……っ」 わざとらしく目の前で瓶の蓋を開けて、煽るように顔の前まで近づけてきた。体が動けば奪うのだが、今の俺はちょうだいとお願いすることしかできない。 さっき少しだけ味わった、濃厚な血の匂いが漂いくらくらする。思考能力が低下して、飢えた獣みたいに急激に理性が吹き飛んだ。だから言ってはいけないことを、口にしてしまう。 「臨也、だよ」 「イザヤ?変な名前だな、人間みてえ」 「早くそれ、口の中に入れてよ!シズちゃん、シズちゃん、ねえ、ねえっ!!」 「しょうがねえな。じゃあ瓶ごと下の口に突っ込んでやるよ」 「え、っ?」 一瞬意味がわからなくて目を見張ったが、直後に足首を掴まれて片膝が折り曲げられる。そして男が俺の尻を掴んで腰が少し浮くと、前ぶれもなく瓶の先端を後孔に押し込んだのだ。 「っ、あ、あぁああっ!?な、にっ、なんで……っ、あ、ぁあ!!」 「ちゃんとローション入れてやるだけマシだろうが。まあ後ろで血を飲んだ吸血鬼がどうなるか、見たかったんだけどよお」 「ふぁっ、あ、あ?あ、あつい……んぁ、っ、どろどろ、して……血、おいし、っ、うぅ」 驚きで悲鳴をあげて喚いたが、男は笑っていた。そして悟った。こいつは俺の知っている吸血鬼よりも卑怯で、最低な奴だと。殺したいぐらい憎い、と。 だが憎悪はすぐに、ローションに含まれていた血のせいで薄れてしまう。体の中に入れられてしまえばきっと吸収できるとは思っていたが、実践したいわけじゃなかった。一気に欲求が高まり、腰から下を自ら震わせながら体の奥に取りこんでいく。 普段であれば喉から飲み込んでしまえば満たされて終わりなのだが、ローションに混じっているのだからじわじわと伝わっていく。どうせ数滴しか血は入っていないだろうが、長く味わえることに頬が緩む。 「やっぱり気に入ってんじゃねえか。勝手に腰振りやがって、淫乱吸血鬼が」 「これ、すっごい、っ、んぅ……もっと血、ちょうだいよぉ、んっ、く」 「血は終わりだ。俺とセックスするんだ、臨也」 「……っ!?」 突然名前を呼ばれて、大袈裟に肩が震えた。血のせいで朦朧としていた意識が一気にクリアになり、激しく唇を噛む。動揺しただけで、名前を呼ばれて嬉しいなんて思っていないと心の中で言い聞かせた。 吸血鬼になってから、当然本当の名前なんて教えることはなかった。必要以上に人とも、吸血鬼とも接触しなかったので、まともに話しをしたのだってそういえば随分久しぶりだ。 寂しいなんて思っていなかったけれど、動揺したということは、強がっていただけという証拠だった。こんな最低な人間なのに、俺は誰でもいいのかと笑ってしまう。 「覚悟したか?」 「君の生気がおいしいか、試したくなった。し……シズちゃん」 「だからなんで勝手に変な呼び方するんだ」 「いや、その……嫌がるのが楽しいから?」 誰でもいいわけがない。だから俺は、この男を、平和島静雄とセックスをするんだと決める。さすがに男の名前をいきなり呼び捨てにするなんて、照れくさくてできなかったので思いついたあだ名で呼んだ。 するとあからさまに嫌がられたので、これなら悪くないと思う。どうせ力を取り戻す為に、するのだ。愛とか恋とかそういう感情的なものは存在していない。 名前を呼ぶときに眼力を使ってはみたが、やはり目の前の相手には効かなかった。なにか特別な術でも使っているのかもしれない。こっちは何の準備もなく圧倒的に不利な状況だ。生気を吸い取ってでも逃れて、復讐してやらなければと決める。 「捻くれてるよな、手前」 「吸血鬼相手だからって卑劣なことをする君に言われたくはないよ」 「なに言ってんだ。好きだから、誰も手つけないうちに俺のもんにしてえだけだ」 「シズちゃんはさあ、好きっていう言葉の意味を間違えているよ。そろそろ気づいたら?」 「うるせえ、黙れ。さっさと俺のぶちこんで、喘がせてやるよ」 怒りと殺意を顕わにして睨みつけると、同じ眼差しで睨み返される。一瞬空気が張りつめたが、すぐにシズちゃんが体の上に跨ってきたのでハッとした。 とっくに瓶の中身は無くなっていたので、強引に抜かれる。はしたない声は出したくなかったので堪えたが、間髪入れずに代わりのモノが押しつけられた。 「……っ、なにそれ?」 「なに、って入れるんだろうが」 「あははっ、ちょっと大きすぎない?君ってさあ、人間っていうより吸血鬼とかそういう化け物の類に近いよね。よく言われない?」 「手前らと一緒にすんじゃねえッ!!」 さっき口内に入れられた時は大きさまでわからなかったけど、俺のと比べて改めて見たら随分と違っていた。しかもさっき一度出している癖に、全く衰えてはいない。そういう意味では、人と呼ぶよりは化け物なんじゃないかと本気で思った。 この男は変わっている。普通じゃない。今までと違った意味で興味を魅かれた。 しかしまともにしていられたのは、そこまでだった。瓶がなくなりローションが僅かに滴る入口に性器が宛がわれて、そのまま一気に挿入されてしまう。 「んっ、あ、ぁああっ!?はっ、ぁ、いきな、り……っ、なんて、ぇ、んぅう!」 「遠慮なんてするか。さっきみてえに、腰振っていいんだぜ?」 「い、やだぁ、あ、っ……あつ、い、んぁ、あ、中掻きまわすな、っ!血が、ぁ……こぼれ、る、んぅう、く」 ぬるつくローションが、性器が奥まで進むのを手助けしてみるみる埋まっていった。だがそのせいで隙間から血が混じった大事なローションが溢れそうになってしまう。 シズちゃんが腰を揺らしているのが悪い。だから仕方なく自ら力を入れて、こぼれるのを塞き止めようとした。 「っ、おいすげえ締めつけてんじゃねえよ。はじめての癖に俺の精液絞り出す気か?」 「違うっ、うぅ、はぁ……俺は、ぁ、血が欲しいだけ、でぇ、んっ、はぁあ、あっ!」 「手前の口は血だろうが精液だろうが、構わねえ癖によお。すぐたっぷり出してやるから、待ってろ」 「誰が君の、なんかぁ、ぁ……んぁ!やめろ、って、ぇ……ひっ、うぁ、あ、動くなぁ、あっそれ、やだぁ!!」 精液が欲しいわけがない。俺が求めているのは、血だけだ。だけど相手は訴えを無視して、両手で腰を掴むとガツガツと真下から突きあげてくる。 体は血を欲しているのに、前後に揺さぶられると考えないようにしていた快感が高まっていく。認めたくなかったのだ。 ローションを使われたから、飢えていて欲望が剥き出しになっているから、生気を搾り取る為に吸血鬼が人間より淫らになりやすいから。そんな理由で気持ちよくなり始めている自分を、決して許したくは無かった。 「これで手前は俺を忘れられなくなる。こんなところで暢気に寝てられなくなるぜ」 「だから、っ、ぁ、ああ……だす、なってぇ、言って、る、うぅ……んぁ、あっ、ふぁ!」 「俺の生気は欲しくねえのか?」 「……っ、あ!?」 「忘れちまってたな。ガキじゃねえんだから、覚えとけよ」 「ふっ、うぅ、く……俺の方が君より、っ、年上だ、から……バカにする、な、あ、ぁああっ!!」 今すぐにでも中出ししそうな勢いだったので、激しく抵抗した。なにより、このまま出されたら血が溢れてしまい勿体ないことになる。俺は血さえあれば、性行為なんてしたくないんだと瞳で訴えた。 すると生気を吸うことが目的だったのではないか、と指摘されて頬が熱くなった。忘れていたのだ。 逃げるよりも、目の前の血に飢えていた。吸血鬼の本能に流されて気持ちよくなっていたことも恥ずかしく思えて、悔しさに歯噛みする。 「おい臨也」 「な、に……っ、んぅ!?」 その時突然名前を呼ばれたので、見あげた。すると唇を塞がれて、驚きに心臓が跳ねる。舌が口内をまさぐり、唾液が絡み合った途端背筋が震えて目元が潤んだ。 さっき打たれた薬がまだ効いていたので、こくんと喉を鳴らす。濃厚な血と同じ味が広がって、急激に意識が朦朧とする。 「んぁ、っ、ふぅ、く、んぅ……はぁ、あっ、んぐ、っ、うぅ……!」 「キスしたらすぐ大人しくなったな。このまま出してやるから、しっかり受け取れよ」 「あっ……はぁ、あ、やだ……んっ、うぅ、く……ふうぅ、っ、んぐ、うぅ!!」 折角抵抗できていたのに、キス一つで何もかもが崩されて掻き混ぜられている箇所が熱くてたまらなくなる。こんなの卑怯だと思うのに、理性を失った体は勝手に震えてしまい、まるで出すのを誘導しているようだった。 出し入れする速度があがり、そろそろ限界なのではと思っていると背中に手を回されてしっかり抱きしめられる。口づけも深くなり、奥まで抉られたと感じた途端熱い何かを受けてしまう。 「んぁ、あっ、ぁあ!?はぁ、あ、やだ、やっ……血っ、血が混ざってぇ、だめ……んぁ、あ!」 荒い息をつきながら、精液と混じりあった血がこぼれるのを止めようとする。だがその時、これまでと違う不思議な感覚が背筋を駆け抜けていき首輪のせいで失われていた力が一瞬で戻った。 そこでようやく、精液を吐き出される瞬間に生気を奪うのかと知る。こぼれていく血なんてどうでもいいぐらい、全身から力が迸っていた。 「あっ、ぁ、あ、これ……っ、はは!戻った、これで、っ……力が、っ……ん、う?」 今なら魔眼で操ることができる、と思い喜んだがすぐに異変に気づく。力は戻ったというのに、まだ相手の射精は止まっておらず自らの腰も震えて隙間から溢れた精液が二人の間を汚していた。 「えっ、あ、もういらない!これ以上いらない、っ、て……離せ、っ、ぁ、ああ、生気もう、いらな、っ、んぁ!?」 「たっぷりやる、って言っただろうが」 「なんで、っ!?もう体いっぱい、っ、んぁ、熱い……どいて、っ、抜いて、抜け!力が、っコントロールできない、っ、ひぁ!」 「しょうがねえから次は後ろからするか」 「え!?」 器に入りきらない生気が熱に変わって襲いかかり、自分でうまく力をコントロールできなかった。それどころか、さっきまで以上に体中どこもかしこも熱くて、快感を吐き出したいと思ってしまう。 シズちゃんは出したけど、まだ俺は出せてはいなかったからだ。まるでそれを見計らっていたみたいに、片手で軽々と腰を抱かれると繋がったまま体が反転する。 「あっ、んぁあっ!?やらぁ、っ……こんな、格好、いやだ、っ!」 「手前まだイってねえのか。やっぱり下の口だけでイくには早えか」 「さ、さわるな!やめろ、やめ……っ、んぅうう!?」 床の上にうつぶせにされ、足を折り曲げ這いつくばった状態で後ろから犯されていた。最低な体位に喚いたが、それよりも俺の股間に指が伸びているのが見えて戦慄する。 堪えていたというのに、性器をさわられてしまったらあっさり出してしまうだろう。そしたら更に酷い状態になって取り返しがつかなくなる。本能的にそう感じた。 「ほら、出せよ」 「擦るな、ぁ、ああ、はあぁ!やだ、やあっ、あ、だめぇ……でる、っ、んぁ、たえられ、な、ひっ……!?」 相手が従ってくれるわけがなく、性器の竿部分を握られて上下に動かし始める。達するわけにはいかなかったので懸命に堪えたが、先走りがとろとろ溢れていきとうとう先端を弄られてしまう。 親指の腹で軽く押された後に、爪を立てるようにおもいっきり力が加えられた。すると頭の中が真っ白になって、気づいた時にはあられもない声をあげて射精していた。 「いっ、あ、ぁ、あああっ!んぁ、あっ、はぁ、あ、んぁあ、うっ、く……ひっ、ひぅ、う、く!」 「なんだ、泣いてんのか?吸血鬼の癖に人間にイかされて、どんな気持ちだ?」 「あっ、ぁ、ああ……ふぁ、あっ……」 床に白い粘液が飛び散り、ボロボロと感極まった涙を流していると尋ねられる。今の気持ちなんて、答えられるわけがなかった。 「そういやあ手前に言ってなかったけどよお、俺は昔から吸血鬼だとか化け物の類の力が効かねえんだ」 「はぁ、あ……え?」 「生気吸い取って力が戻ろうが、手前の力は俺には効かねえ。満足するまで、つきあって貰うからな」 強制的に吐き出されたせいで息があがり、ぐったりとしているとさっきから疑問に思っていたことを唐突に告げられる。驚きのあまり、少し残っていた精液が先端から溢れて背中が跳ねた。 まさか吸血鬼の力が通用しない人間がいるなんて、思わなかった。力は相変わらずコントロールできず、意識も定まらない。 「わ、ざと……生気、吸わせたのか、っ、あ……わかって、て」 「悔しそうにしてる顔が見たかったんだけどよお、予想以上だったな」 「ひきょ、っ、あ、んぁああ!腰揺する、な、ぁあ……はぁ、あ、うぅ、く……さいあ、く、っ、ひぁ、う!!」 こんなにも無力感を覚えたことは、今までない。圧倒的な力に押さえつけられて虐げられることなんて、なかったからだ。吸血鬼にまでなっても、こんな目に遭うなんて思っていなかった。 こいつには力は使えない。それどころか、容量以上の生気にのまれ、普通に逃げることさえもできないなんて。きっと同じ人間同士であれば、一方的にされるがままになることもなかったはずだ。 「気失うまでしてやるよ」 「ひ、っ……ぁ!?」 背後から圧し掛かられて、耳元で囁かれる。人が本気で怖い、と思ったのははじめてだった。 top |