「ん、っ……」 口づけは一瞬で、瞼を開くと既にシズちゃんの姿は目の前に無かった。そのことに驚いたが、行為をやめたわけではなくエッチな玩具の入った籠を掴んで中身を探っていただけだ。 ローションを手にして振り返ったのを見て、胸が高鳴る。鋭く射抜くように見つめる視線が、早くしたいと興奮しているように感じられたからだ。 「脱がしてやろうか?」 「いやいいよ。それよりも、シズちゃんも脱いで。早く…その……したいから」 「え?」 欲情しているのはシズちゃんだけじゃなかった。俺だって、好きな相手としたいと気持ちが昂ぶるのは当たり前だ。男なのだから、顕著に反応が出てしまう。 手早くズボンだけを下ろしていると、シズちゃんも同じように脱いでいく。焦っているのか、ズボンの生地が裏返り乱雑に投げ捨てられる。 「手前がそんなこと言うとは思わなかったな」 「だってしょうがないだろ。前の時は途中でやめて、俺にだけエッチなことしたの忘れたの?」 「忘れてねえ。よく我慢したなって自分に褒めてやりてえぐらいだ」 ボトルを上下に振り中身を手のひらに乗せてあっため始めて、ようやく俺も腰から下を晒した。照れ臭さや恥ずかしさは当然あるが、目を細めてうつぶせになる。尻を高く掲げて、言った。 「後ろ慣らしてよ。恥ずかしいから、このままで」 「あ…?なに言ってんだ。こっち向いて足開けよ」 「嫌だ、っ…どうせすぐ終わるだろ?」 「……そうかよ」 最後は不満げに言葉を吐き出されたが、俺の言う通りに後孔にローションを塗り始めた。ひやり、としたがすぐに手のひらで広げられてむず痒い感触に襲われる。 二度目だったけれど、やはり慣れない。両手で拳を作り刺激に耐えるが、自身は既に勃ちあがり先走りが床に落ちている。 「…ん、っ…う」 「どうだ、痛くないか?」 「うん、っ」 指の腹で入口付近を数回往復し、時折ぐりぐりと先を押しつけてくる。すると徐々にそこから緊張が解けていって、中にローションを入れる動作を繰り返した。これなら大丈夫そうだと返事をして。 「じゃあどんな体位でしても、いいだろ?」 「えっ?ちょ、っと…うわっ!?」 「顔隠すんじゃねえ、見せろよ」 「な、っ…」 その時突然腰を掴まれて、なぜか勢いよくベッドの上に仰向けで寝転がされる。驚いているうちに足の間に割り入られて、左右に広げられた。素早い動きに対処できず、困惑する。 しかし顔を隠すな、と言われて頬が熱くなった。やっぱり気に入らなかったんだ、と。シズちゃんの視線はしっかりと俺の顔をまじまじと見つめていた。 「だから恥ずかしい、って言って…っ、あ!ねえ待って!」 「別に恥ずかしくてもいいだろ。俺は顔見ねえなんて、許さねえからな」 「そりゃあシズちゃんはいいだろうけど、こっちは…」 「早くしたくねえのか?」 「…っ…クソッ」 あまりにもストレートなことを言われて赤面する。早くしたいと言ったのは確かに俺だったし、我慢してきた分だけお互い辛いのは同じだった。せめて後ろを慣らす間だけは顔を隠して痛い、という願いは却下される。 「もう指入れるぞ」 「…わかったよ…っ…んっ、あ!」 低い声でボソリと言われたので頷こうとしたのだが、後ろに添えられた指はそれよりも早く挿入される。だけど動きはゆっくりで、早く性行為をしたくて焦っている割には気を遣ってくれているのがわかった。 「前よりすんなり入ったな。もしかして自分で弄ってたか?」 「そんなことするわけないだろッ!…ぁ、はぁっ…前は無理矢理だったけど、今日は違うから…だろ」 かなり失礼なことを言われたので怒鳴ったが、確かに一度目よりは指をきちんと受け入れている。気持ちがいいとすら思った。それは多分、今日は互いの気持ちを伝えたった後だからだろう。 意図がわからずに襲われるのと、繋がるという目的でするのとでは全然違った。だから拒絶することなく、前よりは簡単に挿入されたのではと思う。 「そうか。嬉しいから、ってことか?」 「…っ、いちいち聞かなくてもいい…んぁ、っ、は…んぅう、く」 「俺はすげえ嬉しいぞ。手前が、その…ちゃんと喜んでくれてるってわかるのは」 「シズちゃ…ふぁ、あ!やだぁ、っ、そこ…前にも弄って、ぇ…んぁ、っ、あ!!」 本当に嬉しいのか、声が弾んでいて指も合わせて早くなる。そしてかなり奥まで受け入れたところで、ある箇所を中心にぐいぐいと突き始めた。おもわず腰がくねって、喘ぎ声が漏れる。 目の端に涙がじんわりと浮かび、先走りの量も増えていく。指はもう全て挿入されていて、前後に擦り始め振動が伝わってくる。 「ああ、ここ弄ってたらイったよな?覚えてるぜ」 「言わなくて、っ…いいからぁ、あ、もう…んぁっ、あ、は…やめ」 「今度はちゃんと俺ので、ここ弄ってやるからよ」 「へ、っ?んあぁ、あ…っ!?」 当然シズちゃんも覚えていたみたいで、速度があがっていく。ローションのせいでぐちゅぐちゅと淫猥な音をし始めて、恥ずかしいのも忘れてシーツを掴んで耐えた。 背筋を仰け反らせてビクビクと震わせていると、一気に指が引き抜かれる。もう充分だと思ったのかもしれない。 「シズ、ちゃ…?えっ、っと…もうするの?」 「だって手前ここ、すげえじゃねえか。また一人でイかせるわけにはいかねえよ」 「そうだ、けど…あのさ」 「痛かったらすぐやめるし、セックスの仕方だって調べたんだ。どうやって臨也とするとか、どんな顔するんだろうって、ずっと考えてた」 「え?」 「無理矢理連れ込んだのは悪かったと思うが、本当に俺はそればっかり…考えてた」 突然シズちゃんが真剣な表情をして話し始めたので、目を見開いて驚く。多分俺が気を失ってしまい、この部屋に連れて来られて起きるまでの間にあれこれ考えていたのだろう。 今目の前に居る相手とは別人なぐらい強引で、まともに話しができなかったのも頷ける。本当に俺のことが好きで、それしか考えていなかったのだろう。 「俺だって…」 「どうした?」 「卒業アルバムのメッセージを見てから、まだシズちゃんが俺のことを好きでいてくれたら…したいなって思ってたよ。君だけじゃない」 「臨也…」 「大丈夫だ、って言ってくれたら…全部任せるよ。信じる」 シズちゃんの気持ちは痛い程伝わってきたので、俺も言った。思い悩んでいたのは一人じゃないんだよ、と。 すると突然背中の下に手を入れて、強引に上半身を起こされる。そして少し大袈裟なぐらいぎゅっと抱きしめられた。 「わかった。俺に任せろ」 「…うん」 監禁した直後は強引なぐらい迫ってきたのに、それ以降全く無理強いしなくなったのは我に返ったからなのかもしれない。衝動的に俺を閉じこめ襲ったことを、後悔していたのだろう。 だからこそ恋人ごっこをしようという誘いに乗ったり、枷を外し逃げてもいいと言ったのだ。俺も追いつめられていたけれど、無意識にシズちゃんも追いつめていた。 互いに臆病になって、簡単なことを見失っていた。 「先に俺が出ちゃったら、ごめんね。でも何回でもするからさ」 「いや…無理させるつもりは…」 「怖いのは始めだけだと思うから。ねえしたいだろ?」 「手前は…」 自分から体重をかけるように胸に顔を埋めて、言った。照れ臭すぎて俯きながらじゃなければ口にできなかったけれど。 「そんなこと言われたら、我慢できなくなるじゃねえか」 「知ってるよ。君が我慢できない性格ぐらいね」 text top |