捕虜臨也 サンプル | ナノ

「おい……」
「悪かったね、でもこっちも急いでるんだ。金ならいくらでもあるから、見逃してくれるかな?」

暗くて顔までは見えないが、格好からして相手は軍人だった。この街の者か、そうでないかはわからない。でも俺がぶつかっても全く動じなかったことといい、戦闘慣れしている相手だろうとすぐに判断する。
ポケットから財布を出し札を数枚突きつけるが、そいつは動こうとはしなかった。俺自身も深く帽子を被っていたし、互いに正体はわからないだろうがこんなことをすれば怪しいのは一発だ。

「そんなもんいらねえ」
「あれ?もしかして好みじゃなかったかな。こっちは急いでるから、受け取ってくれると嬉しいんだけど。それとも別のことが、いいのかな?」

金銭に全く興味を示さないなんてこの街では珍しい。それでは他に何をしたら喜ぶか、と瞬時に思いついて札を仕舞うとわざとらしく近寄る。顔は見られたくなかったので俯いたままだが、まるで密着するように傍に行く。
どちらにしろこの男が居る限り、奥へは進めない。一人分しか通れない道だし、ここを通るのが街の外へ一番近いのだ。なんとかして気を逸らすか、退いて貰うしか方法は無い。

「どうして欲しい?俺なら手だけでも数分で出させてあげられるけど」
「……な、っ!?」

男が動揺するのが気配で伝わる。まあ正直これはハッタリだ。今までもこんな風に言い寄って躱したことは何度もある。
そうやって油断させておいて隙をついて逃げてきたので、常套手段になっていた。一度だって男とそういう行為をしたことがなければ、手で抜いてやったこともない。気さえ反らせられればこっちのものだ。

「決めないなら、勝手にするけど」

言いながら相手のズボンのベルトに手をかける。女が誘惑するみたいにわざとらしく甘い声色を出して、壁に体を押しつけようとした。脱がせたところでうまく逃げられる、と確信したのだが予想外のことが起こった。
いきなりそいつが両手を背中に回して、すごい力で抱きしめてきたのだ。一瞬動揺したが、すぐに逃げようと抵抗しようとして青ざめる。

「えっ!?ちょ、っと苦しい……っ」
「顔見せろよ」

男の冷たい声が聞こえてきたと思ったら、顎を掴まれて上を向かされる。そして至近距離で顔をはっきりと見られ、帽子まで弾き飛ばされてしまう。
向こうに俺の表情がわかった、ということはこっちも相手の表情が見えていた。暗いけれども、これなら誰かということは察することができる。そして、心底驚いた。
心臓がドクン、と跳ねて動けなくなる。

「やっぱり、臨也じゃねえか」
「は、ははっ、嘘だろ?シズちゃん?」

こんな所で会うとは思いもしなくて、動揺は隠せない。いや、本当はなんとなく予感ぐらいはしていた。
急いで街から逃げようとした理由も、この街を占拠する為にやってきた軍隊の指揮官を知っていたからだ。訓練生時代に何度もいがみ合っては校内で喧嘩をしていた、よく知る相手だった。
卒業後は軍に入り元から持っていた力のおかげで、随分と高い地位までのぼりつめたのまで知っている。他国に居ても、成果をあげる度に噂は入って来た。そんなの聞きたくはなかったというのに、常に耳に入ってくるのだ。
戦場でたった一人生き残ったとか、街を壊滅させたとか。噂は脚色されているとは思うが、どれも信じられないものばかりだ。知名度は高く、恐れている者は多い。
しかし本人は普通の人間よりも野性的な勘としての戦闘技術と、銃弾や刃物が効かない体で困難を躱してきたのだろう。裏から手を回して取り入らない限り上には行けない俺とは対極にある。だからこそ、羨ましくて憎んでいた。
会った時から。
だけど一方で愛していた。好きだった。恋心を抱いていた。
魅かれていた。
でもそれは過去のことだと頭から追いやり、忘れるようにしていた。もう卒業式前日に顔を合わせて以来なので、随分経っている。懐かしいとは思うけれど、敵対してばかりだったから交わす言葉も無い。
俺が一方的に好意を持っていたけれど、それを態度に出したこともない。伝えようとも思わなかった。だから今更再会しても、何も言いたいことは無い。
ただ恨まれていたから、見つかってしまえば本気の殺し合いが始まるのはわかっていた。ここは戦場だ。
しかも最悪なことに、俺は一番彼の怒りを買う方法で逃れようとした。金を差し出し、体で誘惑しようとしたのだ。そういうのを嫌うことは知っていたのに、正体がわからなかったのだからしょうがない。

「こんな所で会うとはよお」
「最悪だね。っていうか、離してくれるかな?」
「手前から寄ってきたじゃねえか。抜いてくれるって、言っただろ」
「っ、はは!誰が君なんかにそんなこと……」

抱きしめたわけじゃなくて、逃げないように羽交い絞めにされたのだ。常人にはない怪力で拘束されれば、全く身動きは取れない。俺だって軍人なので腕は立つ方なのだが、次元が違いすぎる。
腕の中でもがきながら焦った。必死に、どうやってこの危機から脱しようかと頭の中で考える。掴まってしまえば取り返しのつかないことになるのは目に見えていた。
相手がシズちゃん以外ならまだ逃げられるだろうが、執念深く追い回されたことはよく覚えている。捕えられたら二度と戻れないだろう、と昔から思っていた。

「こうやって金渡して、体使って、散々悪事働いてたのか」
「なんのこと、かな?」
「人身売買に麻薬。そういう最低なもんが、この街では当たり前なんだろ?どうりで臭うな、と思ったんだ」
「俺のせいだって?まさか」
「でも関わってたんだろ?だから必死に逃げようとしてんだろうが」

鋭すぎる指摘に黙りこんでしまう。これ以上しゃべるわけにはいかないし、言ったところでボロが出るだけだ。勘だけは良かったけれど、それは今でも変わらないらしい。
口で惑わせて時間を稼ぐこともできなかった。もう他に方法がないのか、と顔を顰めているとわざとらしく近づいてきて告げられる。

「絶対に逃がしてやらねえ、覚悟しろ」
「そう」

しかしそこで、とあることが閃く。身動きは取れないが体を傾けることぐらいはできるだろう。一瞬だけ不意を突ければいい。
逃げれるならなんだってする。それが例え最低な行為だろうと、世界で唯一シズちゃんにだけはしてもいいと思った。
決めると行動は早い。体重をかけるように上半身を自ら押しつけて、そのままに目の前の唇に噛みつくようにキスをした。それで気を逸らすことができれば、後で何を言われようが構わなくて。

「……ん」
「……ッ!?」

ふれあっていたのは本当に数秒だけだった。でも拘束していた手は緩み、素早く体を捩って腕の中から脱出する。そして振り返ることなく来た道とは反対側に向かって走った。すかさず怒りの声が聞こえる。

「待て、臨也ああああぁッ!!」

* * *

「探して……って、もしかして俺のこと探してたの?」

やけに普通の友達みたいに話すので危うく聞き逃すところだったが、探してたと言われて目を丸くする。卒業式の前日以来だからかなりの年月が経つ。まさかその間ずっと、俺の行方を捜していたのが本当なら驚愕の事実だ。

「あー……まあそうだな、探してたぜ」
「へえ、なんで?まさかこうやってエッチなこと強要したかったとか?」

わざと茶化すような口調でしゃべりかけたが、返事は無い。たった数年で性格が変わってしまうことなんてないだろうし、戦場で何があっても揺らがない精神だろうと信じていたのでそんなバカなと思ったのだ。
さっきだって俺が男を誘っていたことに嫌悪を示していたし、まさかそんな体が目的だなんて考えられない。そう思うのに、すぐに返答がないのがやけに気になった。
もし図星だとしたら、どうしたらいいんだろう。

「さあな」
「え?いや、そこはもっと否定してくれないと困るんだけど。媚薬使われて俺が一人で興奮しているのを見て、シズちゃんも興奮するの?」

俺に媚薬を使ったのは、強制的に射精したくなったり性欲が強すぎて何度も吐き出してしまうというみっともない姿を見たいだけだろうと思っていた。あくまで鑑賞したいだけで、そこにシズちゃんは参加しない。
きっと気持ち悪い、とばっさり言ってくれる。そう期待していたのに。

「もう少ししたらわかるだろ」
「だから、それは……っ!?」

その時急に視界が歪んだ。媚薬の事をすっかり失念していたのだが、思い出した。
さっきからやけに動悸が激しかったり汗が出始めていたのは、薬のせいだと。通常では考えられない二倍の量で襲い掛かってくるんだと。

「あ……っ、くっ!」
「ようやく効いてきたか」
「これ、なに……んぐ、ぅ」

一気に汗の量が増えて風邪を引いた時みたいに全身が火照り、小刻みに震え始めた。体の奥から激しい衝動がこみあげてきて、呼吸も一気に乱れる。唇を噛んで耐えるけれど、変な声を漏らさないようにするのが精一杯で何も考えられない。
目の端に勝手に涙が浮かび、シズちゃんが居ることもすっかり忘れて腰をビクビクと跳ねさせる。喉の奥が焼けそうなほどに熱くてしょうがない。

「あ、つ……ぅ、あ」
「じゃあさっきの、身体検査の続きするか」
「え……?」

早速意識が朦朧としかけていたので、何を言われたのかよくわからなかった。だけど煙草の火を消して携帯灰皿に仕舞うと、おもいっきり上着を左右に開いておもむろに胸の辺りに手を伸ばしてきたのだ。
やろうとしていることの意味が全く理解できなくて、怯えてしまう。嫌な予感が駆け抜けたが遅く、親指と人差し指で胸の先を摘まんだ。

「っ、あ、うぁあ!?ちょ、っと……なに、してるんだよ!」
「だから、手前がまだ何か隠し持ってないか調べてんだって」
「ふ、ふざけるのも大概にしてよ!これのどこが検査なんだよ!っていうか、こんなことして楽しいの?俺には全然、っ、う!?」

やたらと真剣な表情をしながら、人の乳首を弄ぶなんて信じられない。やたら偉そうな態度のオッサンが下心丸出しでやるような行為を、シズちゃんがしているなんて自分の目を疑ってしまう。
でも間違いなく刺激を加えていて、びっくりした。右側の胸の辺りも撫でると、そっちも引っ張り同時に痛みが走る。

「引っ張ってるだけなのに、気持ちいいのか?」
「違う!やめろ、って……こ、んな、っ、あ、ぐ……!!」
「これじゃわかんねえな。ちょっと舐めてみるか」
「舐め、る……な、何考えて、ぁ、ぅ……んぅ、う!?」

俺は男だというのにこんなことをして何が楽しいか全くわからない。いくら嫌がらせだとしても、胸を弄るなんて普通じゃないのだ。妙な不安を感じて戸惑うが、いきなり舐めると言い出してもっと驚いた。相手が女性ならそういう趣向なんだと理解できるが、大嫌いで貶めたい相手にここまでするだろうか。
しかも俺自身は、シズちゃんが好きだった。まだ好きなんだとさっき自覚したばかりだというのに、冗談じゃない。酷い屈辱だ。
せめて少しでも逃れようと腰を捩るが、先にシズちゃんの顔が近づいてきた。そしてざらついた舌でおもいっきりべろりと舐められてしまう。

「……ぁ、あ……っ、き、もち悪いから、それ、やめろって!」
「そうか?あんま嫌がってるように見えないぞ」
「目がおかしい、んじゃないの、っ……ふぁ、う、く」
「なあ、乳首勃ってきたんじゃねえのか、これ。本当は気持ちいいんだろ?」
「ち、がうって……!薬の、せい、だから、ぁ……やめろ!!」

* * *

「嫌だッ!やめてよ、っ……やめて、って、シズちゃん!!」
「しょうがねえな」
「え?」

おもいっきり叫んだ直後に大袈裟にため息をつく声が聞こえてきて、まさかと期待する。しかし望んだものではなかった。
カチッちう音が耳に届いた時には激しい衝撃が全身を襲っていた。

「あっ、ぁ、あぁ!?っ、あ、まさか……スイッチ、いれた、の……んっ」
「一時間頑張るんだろ?まだ五分も経ってないぞ」
「っ、はぁ、あ……卑怯者っ、あ、は……これ、とめて、よ」
「卑怯者か。手前だけには言われたくなかったな」

バイブのスイッチが入れられたのだとすぐにわかり、全身がガクガクと震えて止まらない。力も抜けて本格的に抵抗することができなくなり、そのままずるずると引きずられてとうとう扉の外に出る。
確か地下室だったと記憶していたので、廊下の奥には階段があった。声を抑えないときっと聞こえてしまうだろう。なのに、コントロールが効かない。

「いやだ、ぁ、っ……んっ、う、やめてぇ、よ……熱い、あつ」
「また昨日みてえにいい顔するようになったじゃねえか。思い出したか?気持ちいいって散々よがったこととかよお」
「し、らないっ、覚えてない、から……っ、やめろ、バイブ、抜いてよ、ねえ!」

なんとか玩具を抜きたくて手を伸ばそうとするのだがそうはさせてくれない。体の前で両手を拘束されているので後ろまで届かないし、動けなくなった俺の上着を掴んで引きずっている。強制的に階段の前にまで連れて来られて、頭を振った。
何も考えられなくて、ただ滅茶苦茶に嫌だという意志だけをこめる。もうさっきの約束のことなんて、今はもうどうでもよかった。
耐えられたら性行為を強要するのを、今日はやめてくれる。でも失敗すれば酷いことをする、なんて既にもう俺の中で酷いの限界を超えていた。きっとこれ以上の屈辱なんてないと。

「大声出すと誰か来るかもしれねえぞ?」
「……っ、あ」
「ほら上から声聞こえねえか?さっき下りて来る時に扉を開けっ放しにしてきたからな。絶対気づくだろ?」
「い、嫌だ……本気で、やめて、くれ……っ、あ、んあぁっ!?」」
「やめて下さい、だろうが。口の利き方には気をつけやがれ」

階段の一番下の段に座らされ、僅かな灯りと時折聞こえてくる話し声に怯えてしまう。もし誰かが来たら、見られたら、そのことが噂になったら。考えるだけで卒倒しそうなぐらい最悪だった。
あまりにもそのことで頭がいっぱいになり、呆然と床を見つめていると突然激しい刺激に堪えていたあえぎが響き渡ってしまう。どうやらシズちゃんの靴が俺の股間の下のバイブを蹴っていて、深く体の中に押し込まれたようだった。
慌てて逃れようとするが、鎖に阻まれてジャラジャラと鳴らすだけだ。パニックになった頭では、避ける方法が思いつかなくてバカみたいにその場で悶えた。

「はぁ、あっ、あ……!それ、嫌だぁ、あ、っ、やめて、よ……くるし、い、っ、熱い、あつ、ぁ」
「そうか?本当は嬉しいんじゃねえか、手前のそこガチガチに勃ってるしすげえ震えてんぞ」
「違うっ、はぁ、あ、く……しょうがない、だろ!媚薬、とバイブでぐちゃぐちゃ、ぁ、んあ……やらぁ、なか、掻きまわさないで、っ!」
「すげえエロくていいぞ。これならすぐイけそうじゃねえか」

ニヤニヤと厭らしい目つきで眺めながら靴先だけを動かす。激しい震えと奥まで入りこんで擦れているのが段々と心地よくなってきて、内心ではヤバイと思っていた。
また昨日みたいに意識が飛んでしまうなんて、もう嫌なのに抗えない。さっきまで頑なに拒絶していたことも忘れそうなぐらい、快感の飲まれそうになっていた。

「イったら、お仕置きだよな?」
「っ、あ、嫌だ!う、くぅっ、は……ぜったいに、我慢する、っ」

しかし唐突に我に返って、靄がかかり始めていた視界がはっきりして鋭く睨みつけた。流されたらとんでもないことになって、きっと戻れないと言い聞かせて唇を噛んだ。
そして、シズちゃんはまるでそれを待っていたかのように足を離す。そして俺の首輪を鎖で引いて、屈みながら顔を寄せてきた。

「我慢だ?そんなのできるわけねえだろうが」
「できる、って言ってるだろ」
「じゃあ本気でしてやるよ。ああそうだ、これ以上大声出したら間違いなくバレるからな。覚悟しておけよ」
「嫌だ、っ、んぐ……っ、んぅぅ!?」

次に何をされるかある程度予想していたので唇を閉じていたのだが、顎を掴まれ無理矢理舌を捻じ込まれては抵抗できない。息苦しさに胸を上下させ唾液を垂らしてはいたが、懸命に腰を捩って後ろに倒れとにかく逃げようとした。
しかし後孔の周辺にシズちゃんの指が添えられたのに気づいて、青ざめた。これ以上の衝撃を受けたら、と思った時には全身に電流が流れたかのような振動が伝わる。

「ふっ、んっうぅ、あ……!!んぁ、っ、ひぁ、んぐ、っ、うぅ、んっ!?」

どうやらまだバイブの振動を強くすることができたらしく、煩いモーター音を響かせながら蠢いた。あまりのことに足を大きく開いた格好のまま背筋をビクビク跳ねさせて、盛大に悶えてしまう。
我慢するとさっき言い聞かせたばかりなのに、再び意識が朦朧とし始めて口内を動き回る舌も無抵抗で受け入れるしかなかった。あまりの心地よさに、このまますべて吐き出してしまいたいと思うぐらいで。

「っ、はあっ、はっ、んぅ……ぁあ、やだぁ、あつい、もうむり、っ、ぁ、あ!」
「だから我慢できねえって言っただろうが。無駄な努力だったな」
「ちがうっ、いやだぁ、いやなのに、っ、はぁ……くるし、い、だした、い、ぁ、ああぁ、っ」
「出したいだろ?じゃあ早くしろ、な?」

唇が離れた途端に頭を左右に振って悶えた。苦しくて、気持ちよくて、薄らと目の端に涙を浮かべながら切実に出したいと訴える。理性なんてもう残っているのがおかしいぐらい、媚薬と玩具のせいで全身が熱い。
気持ちを吐露した途端、シズちゃんの口調が優しげなものに変わり立ちあがると俺の性器に靴先をつきつけてきた。ふれてはいないが、そのまま少し力を入れられると踏まれてしまう。

「ひっ、あ、ぁああ!やだぁ、ふまないでぇ、いや、っいやだ……シズちゃ、っ!!」
「ああ、踏んで欲しいって意味だろ?」

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