恋のはじまり6 | ナノ

「どうやってするかわかってるの?」
「あ…?」
「いや、まあこうなるだろうって思ってたけどね」

ため息をつきながらポケットから小さなボトルを取り出す。それはさっきケーキを買いに行く前にコンビニに寄って、お金をおろすついでに買った乳液のボトルだった。
女性の一晩お泊りセットに入っていたが、残りのものは邪魔だったのですぐゴミ箱に入れて捨てた。俺だって男同士のやり方は知らないので一瞬だけコンドームも買うか迷ったがやめておく。
万が一知り合いにでも見られてしまえば、言い逃れができないからだ。幸いなことに今日は誰にも会っていなかったけど。

「なんだそれ?」
「…セックスするには準備が必要なんだよ。俺もはじめてでわかんないから時間掛かるかもしれないけど。ねえちょっとあっち向いててくれる?」
「あ?見てたらダメなのか?」
「ダメだよ。指突っこんでほぐすの見られるなんて恥ずかしいから」

乳液の入った瓶に興味を示したが、後ろを弄っているのを真正面から眺められるのは嫌だったので指示をする。薬のせいで俺の言う事を聞くシズちゃんが従って、と思っていたのだが不機嫌な表情になった。
そこで少し違和感を覚えて、どうして言うことを聞いてくれないのかと首を傾げる。そろそろ薬の効果が薄れているのだろうか。

「俺は恥ずかしくねえぞ。見てえ」
「シズちゃん、言うこと聞いて…」
「じゃあ俺の指突っこんでほぐしてやろうか?」
「は?」

明らかに俺の言うことを無視していて、一瞬額に汗が浮かぶ。だけど瞳は真剣で、もしかしたら興奮しきっているのかもしれない。だから言葉がまともに頭に入っていないだけなのだろう。
厄介だと目を細めていると、持っていた瓶が簡単に奪われてしまう。驚いて取り戻そうと手を伸ばしたら、はっきりと言われた。

「優しくやってやるから。いいだろ、なあ?」
「なんで…」
「俺が大事な恋人の手前に、してやりてえんだ。わかるだろ、そういう気持ち」
「シズちゃん」

大事な恋人の為にしたい、と言われて納得した。折原臨也の命令を聞くことよりも、恋人を喜ばせるという意志が優先しているのだ。なんだか本当に結ばれてしまったみたいでむず痒く感じたが悪くない。
本心では恥ずかしい場所を晒すなんて嫌だったが、こんな風に頼まれたら断れない。逆に胸がいっぱいになるぐらい、あたたかさに包まれた。

「しょうがないなあ、もう」
「悪いな」
「悪いって思ってない癖に」

唇を尖らせて嫌味をいいつつも、表情は笑っている。ここまで押されたら断ることなんてできなかった。シズちゃんだから、好きな相手だから、大事だから。
今日だけだから。最初で最後の恋人の為に、俺も折れるしかないと決めた。

「ズボン脱ぐからちょっと待ってて」
「おう、手伝ってやろうか?」
「それはセクハラって言うんだよ」

さすがに服を脱がすことまでは許さず、てきぱきとベルトを外してズボンと下着を男らしく一気に引き下ろした。本当は照れくさくてしょうがないけど、態度にはおくびにも出さない。

「うーん、どうしたらいいんだろ。どうやったら一番楽なのかな…」
「指入れてこれで濡らすんだよな?足開いてそこに寝ればいいんじゃねえか?ほら」
「えっ…」

一番楽な方法を考えていると、再び床に倒されて強引に足を左右に開かれた。抵抗はしなかったが、太股の間にシズちゃんが入りこんできてパニック状態になる。
いくらなんでもこれはない、と叫ぼうとしたのに右足の付け根を掴まれて腰が浮いた。思ったよりも素早い行動にこっちが動揺してしまう。

「ちょ、っと…!?」
「驚かせたか?でも、こうするんだろ?」
「冷た…っ!」

上半身を起こして止めさせようとしたが、先に瓶の蓋が開いて中身がいきなりそこに垂れ流される。突然の冷たい感触に悲鳴があがったが、すぐさまシズちゃんの指が押し当てられてしまう。
ぐちゅぐちゅとそこから音が聞こえてきて、指の腹で擦られているのがはっきり見えた。好きな相手に、シズちゃんに、後ろをさわられていると。

「な、んで…慣れてる?」
「あ?違えよ、前に手前が嫌がらせで俺の鞄に入れたエロビデオで…っ、その」
「シズちゃんの鞄……って、あれ一年の時じゃないか。まさか見たの?」
「捨てられねえし、しょうがねえだろ。だから責任取れ」

微かな疑問を口にしたら意外な答えが返ってきて目を見開く。まさか一年の時に嫌がらせでシズちゃんの鞄に入れたエッチなビデオを見ただなんて思わなかった。
きっとこれが本物の彼であれば、俺に対して絶対に口走ったりしなかっただろう。嫌いな相手に渡されたエロビデオを見てしまったなんて。ビデオにセックスの仕方が懇切丁寧に載っていたのだろう。
入口を丁寧に撫でながら乳液を擦りつけ、指の先が軽く入りそうになっている。充分に滑っているので、そろそろかもしれないと思っていると案の定指先が挿入された。

「……っ、あ!?」
「ゆっくりするからな。痛かったら言えよ、臨也」
「うん…っ、わかった」

優しく声を掛けられたので心配を掛けまいと微笑む。未知の恐怖はあったが、あからさまに態度に出したりはしない。本気で俺はシズちゃんとしたい、と思い始めていたから。
性行為には興味はない。だけど真剣な表情でそこを覗きこみながら気遣ってくるので、どうせなら楽しみたいと気持ちが変わってきたのだ。
痛みには慣れているし、きっと大丈夫だからと自分に言い聞かせてゆっくりと口を開いた。

「もっとそれ垂らして、指…奥まで入れて?」
「おう、待ってろ」
「ねえ声出してもいい?」
「いいぞ。喘いでるエロい声聞きてえ」
「変な声、とか…女みたいとか言わないでね……んっ、あ」

俺がお願いするとシズちゃんはきちんと乳液をもう一度そこにこぼし、奥まで人差し指を強く押しこみ始めた。さすがにまだそこで感じたりはしないが、明らかに快感を自覚する。
指が埋まっている部分が熱くて、ため息をついていたがとうとう喘ぎ声まで漏らす。始めは控えめだったが、段々と声が大きくなっていく。

「そろそろもう一本入れるか?」
「はぁ、あ…いいよ。多分大丈夫…んっ、くぅ!」
「すげえな、さっきよりあっさり入ったぞ。気持ちよくなってきたか?」
「ふっ、ぅ、は…シズちゃ、んが…優しくしてくれたから、ね」

半分以上指が埋まったところでもう一本指が挿入される。思った以上にあっさりと受け入れて、目の端に薄らと生理的な涙が浮かんでいた。だけど気持ちがいいから、じゃない。
シズちゃんだからここまで何もかも受け入れられるんだと、そう感じることができた。本当に嬉しくて本人には絶対に言わないことばかりを口にする。自分からねだるような真似をするのも、みっともない声を出してしまうのも。
本物のシズちゃんじゃないから、もう終わりだから曝け出せる。

「おいどうした痛いか?泣きそうな顔してるぞ」
「そう、かな…っ、あ、はは、嬉しいんだよ。もうすぐ、君と…セックスできるから」
「泣く程嬉しいってことか?」
「そうだよ俺が、ぁ、っ…泣くなんて、滅多にない。シズちゃ、だから…」

二本目の指が半分以上埋まったところで、抜き差しが始まる。ほぐすように内壁を擦ると、始めは突っかかっていた指がどんどん速度をあげていく。
乳液のおかげで随分と楽に慣れていって、声にも艶が増してくる。必死にしゃべりながら喘いでいると、不意に指が引き抜かれた。

「じゃあ泣いていいぜ」

そう言ったシズちゃんは体を起こしてズボンに手をかけると、ベルトを外して下着を取る。そこはもう完全に勃起していて、準備はできていた。
もう終わってしまうのか、と寂しさが一瞬だけ胸を駆け抜けたが誘うように最高の笑みを作る。声は緊張の為か少し震えていた。

「泣かせて」

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