冷たい頬4 | ナノ

言いながらベッドに近寄り臨也の横の布団に入りこんで、小声で告げる。自分でもおかしいことを言っているし、幽霊になったこいつにするべきことなのかと疑問に思った。でも一度知ってしまったら忘れることなんてできなくて、完全に失う前に欲しいと考えるのは当たり前だ。
本当は告白された時に気づいていなければいけなかったことで、俺の記憶がない臨也に言うなんて後で怒られるに決まっている。だけど我慢するという選択肢はなかった。
後でこいつが自分の体に戻ってすべてを知った時に、いくらでも怒鳴られてやろうと決める。もう俺は、臨也が本当は死んでいて幽霊だから成仏してしまえば目の前から居なくなる、という可能性を頭の中から無くした。信じたくなかったからだ。

「あのさ…もしかし、て…?」
「あっためたらなんとなる。体の中からあっためてやればいいんだろ?」
「それ本気…?その前にほら、幽霊と人間っていうのもどうかと思うけど男同士だろ?」

体を密着させるように近づくと、臨也は動揺していた。そのまま逃げるように腰を引いたのでとどめの言葉を告げる。

「俺のこと好きなんだろ、手前」
「…あ、っ!ちょっと、なんでそれ…わかったんだよ」
「顔真っ赤だぜ」
「これはしょうがない、だろ!」

手前が俺に告白したんじゃねえか、とは言わなかった。どうせ後で全部わかることだしその時まで取っておけばいい。最初から本気で抵抗することなくついてきた時点で、きっと臨也は嫌じゃなかったんだろうと信じている。
恥ずかしそうに目を背けて頬を赤く染めている姿に、胸がドキドキと早くなっていく。これが好きということなんだとようやく実感して。

「俺も手前のこと、好きになっちまった」
「えっ?」

遂に本当の気持ちを告げる。自分の気持ちに気づきたくなかったから、臨也からの誘いもメールも無視をするという酷いことをした。結果そのせいで俺の前から居なくなって、あんな寂しい場所でこいつが一人待っていて。
本当に遠回りしてしまったとため息をついて笑った。目の前の驚いたままの冷たい頬に手のひらを擦りつけてはっきり言う。

「今からセックスしてあっためてやるから絶対生き返ろ、いいな」
「なにそれ、っ…でもさあ、俺自分の名前も…なんて呼んでたかも知らないんだけど」
「そんなの全部後でいい。とにかくさっさと脱げよ。っつーか男同士っていうかセックスもしたことねえんだけどどうしたらいいんだ?」
「かっこいいこと言ったと思ったのに…」

記憶が無いことなんて些細なことだと思う。俺さえ知っていれば充分だ。今の何も覚えていない状態の方が素直な臨也を見れるかもしれないとも。
約束を何度もすっぽかしたのに一度も怒らず待ち続けたのは、きっと別れたくなかったからだろう。でもそれが結局互いの溝を深くして、あんな出来事を引き起こしたのかもしれない。あの日待ち合わせ場所があそこでなかったら、本当に終わっていたかもしれないのだけど。
臨也が服を脱いでいる間に俺は台所まで行き、とりあえず目についた物を取って戻る。それは当然料理に使うサラダ油で、こっちを見てすぐに不機嫌そうに睨みつけてきた。

「いくら俺が幽霊でもそれはないと思うんだけど。ハンドクリームとかないの?」
「ねえよ。ぬるぬるしてるからこっちの方がいいんじゃねえか」
「ゴマ油じゃないだけマシってことにしておくよ。次までにはちゃんとしたの用意しておいてよ」
「ああ、わかった」

ようやく臨也自身にも生き返る可能性を考えさせることができてほくそ笑んだ。本人が諦めていたら叶うものも終わってしまうだろうし、その気にさせるのが一つの目的だった。もう幽霊だし成仏するしかないという考えから、まだ体に戻れるのではないかと思わせたのは嬉しい。
きっと大丈夫だと確信した。
全裸になったまま恥ずかしそうにベッドに寝転んでいたので、俺はズボンを脱ぎながら臨也の膝に軽くキスをする。ちょっとした悪戯心で。

「うわっ、ちょっとなにやってんだよ!」
「本当にどこも冷てえな。でも俺が居たらなんでも普通にできたんだから、そのうちあったかくなる」
「もうわかったから、っ…早くしようよ」
「待たせたな」

ジャージと下着を脱いでサラダ油を股間のものに塗りつけると、あっという間に大きくなっていく。臨也の照れ臭そうな顔を見ていたら自然と硬くなっていたのだ。男相手にどうなることかと思ったが、これで安心する。
性器がぬるぬるになったところで急かされたので、両足を左右に開かせて体を密着させた。まず位置を確かめるようにぬめる先っぽをそこに押しつける。

「…っ、ねえなんか…もしかして結構大きい?」
「そうなのか?っつーか手前全然勃ってねえな。擦ってやろうか」
「えっ!?いやいいって、俺は必要ないから…」
「遠慮すんな手前のエロい顔見れんなら、いくらでもしてやるよ」

追加のサラダ油を手のひらに塗りつけて臨也自身を握った。すると大袈裟に全身を跳ねさせて驚く。もしかして幽霊だからできないのかと考えたのは一瞬で、軽く上下に扱ってやるとみるみる硬くなり手の中でむくむくと大きくなっていった。
擦りながらも先端をぐりぐりと後ろに擦りつけて、入口を割り開くように執拗に広げる。臨也にとっては前も後ろも同時に刺激されていたのできっとたまらなかっただろう。

「あ…っ、う…ちょ、っと、やだ…これ、その…」
「遠慮しなくていいぜ。それともやっぱ指入れてほぐしてやったほうがいいのか?」
「い、いいって…そんなことしなくても、っ、あ…入る、からっ、あ」
「そうか指で弄られるのは嫌か。じゃあしょうがねえから遊んでやるよ」

右手で握っていた性器を律儀に左手に持ち変えて、体を少しずらすとまず指を一本ほど入口に添えてゆっくりと挿入する。俺の体はやけに熱くなっていたので、飲みこまれた指が冷たく柔らかいものに包まれるのが少し心地よく感じた。

「あっ、あ、あ…!うぁ…く、うぅ、っ…ほんとに、指入って、る、うぅ」
「サラダ油が結構ぬるぬるしてるからな。もう半分まで入ったぜ。これならすぐもう一本入れても大丈夫だな」
「嘘だろ、っ、待って…まだ、だめぇ…あ、んあぁ!?」

まだ余裕がありそうな感触がしたので少し人差し指を引き抜いて中指も思いっきり突き入れる。するとさっきまで以上にそこを締めつけたが、ぬるつく油のおかげで二本目の指も埋まっていく。
臨也は必死に口元を両手で押さえて声を堪えていたけれど、少し力を入れて指二本を同時に動かせば大きな声が部屋に響き渡った。そういえばこいつの姿は他の人間には見えないらしいので、どうせならもっと喘ぎ声が聞きたかった。

「どうせ外には聞こえねえんだから、声出せよ。すげえ色っぽく叫んでみろって」
「い、嫌に決まってるだろ!無理だ、っ…あ、う!んぅ…っ、あ、は…うぅ、ん」

声を出せと強要したが頑なに拒絶したので、仕方なくそれぞれの指を中でぐりぐりと蠢かせて中から快感を与えてやる。するとビクンと腰が跳ねて、それからは激しく小刻みに震え始めた。
左手も動かして性器も弄っていたので余計によかったのだろう。潤んだ瞳でこっちを見ながら繰り返し息を吐き出してなんとかやり過ごそうとしていた。

「我慢してんのもいいけどな、もっと乱れてみろよ…い、ざ…っ」
「んぁ、っ…は、どうした、の?」
「いやなんでもねえ。手前の顔見てたら我慢できなくなっただけだ」

途中でうっかり臨也の名前を呼びかけて慌てて口を噤む。今はまだ言うべきではないだろうとため息をついて、それからもう一度今度は激しく指を出し入れする。すると粘着質な音が聞こえてきて、中は冷たいのに声だけが熱い感情を表すかのように切なく泣く。

「うぁ、あ、っ…は、げしっ、うぅ…もう、やだぁ、あ、ねえ…っ」
「なんだどうした?」
「このまま、だと出る、から…お願い、っ、もう入れて?」

臨也はいきなり腕を伸ばして縋るようにしがみついて、とんでもないことを言った。まさか自分からねだってくるなんて、あまりのことに呆然としたけれど口元を緩めて笑い指を引き抜く。そしてさっき押しつけていたものを再び当てて、腰に力を入れると躊躇いも無く中に捻じ込んだ。

「はあっ、あ、あああぁ!うぁ、あ…っ、お、っきい…っ、うぅ」
「すげえ冷たくて気持ちいいな。面白え」
「あ、つい…っ、体温とか、わかんなかったのに、ぃ…あ、ぁ、すっごい、これ」

慣らしていたおかげで意外とすんなり中に入りこんでほっとする。臨也はもう形振り構っていられないようで、目の端を潤ませながら声を抑えることなく激しく叫んだ。それが楽しくて体重をかけながらゆっくりと押し入っていくと、冷たい感触に包まれ中が擦れた。
俺はやけに冷たく感じて、臨也は熱く感じているらしい。それはそれでよかったが、次は二人共同じ熱を感じられたらいいのにと思う。

「くそっ、よすぎて我慢できねえ…っ、動くぞ」
「えっ、ちょっと、はやい…んっ、はぁ、あ…!」

まだ全部受け入れていないというのにしっかりと腰を掴むと前後に揺らした。すると互いの足がぶつかりあって派手な音をたて、ガクガクと臨也の全身が派手に震える。悶え喘ぐ姿を真上からしっかりと見下ろしながら、一心不乱に動く。
本当はもっと優しく抱いてやりたかったのに、心地よさに酔ってしまって我を忘れてしまう。煽るように耳まで赤くした臨也の頬から一筋涙がこぼれていた。

「やだあっ、あ、んぁ…なんで、っ、こんなに、うぅ、あ」
「気持ちいいんだろ?ここイきそうになってるぜ」
「言わない、でよ…っ、あ、しょうがない、からぁ、あ、こんなの、よすぎてぇ…だ、め」
「じゃあ遠慮なく出していいぜ。俺も中に熱いの出してあっためてやるからよ」

一瞬だけ目的を見失い行為に没頭していたが、達してしまいそうに震えるのを見て本来の目的を思い出す。俺は臨也に中出しをして、体の奥から熱を取り戻させるのだ。そんなことできるかわからないけれど、熱い精液をたっぷり注げばなんとかなるのではと本気だった。

「ふぁ、あ、もう…っ、でる…ぁ、ああ、だして、い?」
「すげえエロい声出せよ」
「んあっ、あ、ひぅ、く…も、くるし、っ、あ、あぁあ、は…だす、よ、っ、あ、んああ、あ、はぁああっ…!!」

互いの肌をぶつけ合い淫猥な音をさせながら、最後の瞬間念を押すように告げた。すると首を左右に激しく振ってシーツを握りしめながら、背中を仰け反らして達してしまう。お腹に白濁液を吐き出しながら俺のを締めつけたので、限界だった俺もつられて中出しする。
数秒遅れただけでほぼ同時に射精して、それがなんだか嬉しくなった。奥深くに刻みたくて体を密着させ圧し掛かるように胸に倒れこみながら注いでいく。臨也はとっくに終わっていたが、俺は最後の一滴までしっかりと出しきってようやく顔をあげる。

「これで、っ…元に、戻れるかな?」
「ああ心配すんな。でもそうだな…もしかすると足りないかもしれねえから、たっぷり中からあっためたほうがいいぜ」
「…っ、えっち」

ぼんやりと虚ろな瞳で眺めていたけれど笑っていたので初めてのセックスに酔っているだけだろう。すぐに次をしようとさりげなく提案したら、舌っ足らずな口調でかる口を叩かれた。まるで記憶を取り戻したように見えて幸せに思う。
でもやっぱり互いの名前を呼びあえないのが辛くて、早く臨也が掠れた声でシズちゃんと訴えるのが聞きたいと願った。

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