「な、んだそりゃあ?愛おしいと好きってのは違うのか?」 「好きは一方通行の想いだけど、愛おしいっていうのは存在やその人間すべてを包み込むぐらい深い気持ちだと認識してるけど?」 「全然わかんねえ。もっとわかりやすく言えよ」 「だから好きになれるかはわからないけど、愛することならできるかなって。君の存在を認めてあげるよ」 俺が説明しているとみるみるシズちゃんの顔が歪んでいく。きっと意味を理解できなくて苛立っているのだろう。そういう風にわざと言ったのだ。 さっきから煽っているのだ。 犯したいとか言いながらいざふれようとしたら怖がっている獣を。他の男達が俺にしたように、暴力や憎しみに快楽だけをぶつけてきたらいいのに、何を戸惑っているのかと。 「くそっ、なにが言いてえんだ手前」 「わからないなら、言わせてみればいいじゃないか。力づくで」 口の端を吊りあげてニヤニヤ笑いながら挑発する。するとますますしかめっ面をしてこっちを睨みつけた。でもまだ手は出てこない。 つまりはそういうことだ。決意はあったのかもしれないし、俺への想いというのは本物なのかもしれない。だけど最後の一歩が踏み込めない臆病な男なのだ。 優しいのとは全然違う。慰めて欲しい時にふれられないだなんて、弱いだけだ。シズちゃんは思っていた以上に鈍感で情けないというのがわかって、がっかりした。 そのまま数分沈黙が続く。シャワーが流れる音だけが浴室内に響き渡り、そそり勃っていたそこも段々と萎んでいくのが見えた。意気地なし、と心の中だけで呟いた。 「…っ、そういうことはしたくねえんだって言ってるだろうが」 「がっかりしたよ、シズちゃんには。さっきはキスまでして俺の中の精液まで掻き出したのに、いざ自分が入れようと思うと不安になるなんて。それは優しさでも同情でもない、君がただ怖がってるだけなんだよ」 「うるせえな!ベラベラわかんねえことばっか言いやがるから…っ」 「そうやって俺のせいにして逃げてるだけだ。本当は怖いんだろ?セックスしてしまって汚れるのが。最低な行為をしてしまったら戻れないって、心のどこかでわかってるんだよね」 「違う、っ…好きだから、大事にしてえって思ってんだ」 決して語ろうとはしないシズちゃんの胸の内を代弁してやると、意味が解らないと首を振った挙句にありきたりな言葉を口にした。その瞬間すっ、と俺の心が冷めてしまう。 そんなものはいらないと。大事にするとかそういう普通の気持ちなんかいらなかった。もっと衝動的な何かで気持ちを乱されないと、男達との行為を忘れることなんてできない。 俺が求めているのは好きとか、愛とかそういうものではない。 平和島静雄の衝動的な気持ちなんだと。 「もういい。いいよ、帰る」 「あ…?なんだと、おいちょっと待て!まだ体洗ってねえ…」 「やっぱり俺は君なんて嫌いだ。大嫌いだ。二度と顔も見たくない」 一方的に口汚く罵ると痛い体を叱咤して、バスルームの出口へと向かう。これが最後の賭けだ、と思いながら口元は緩んでいた。自分が求めていたものが、ようやくわかったから。 初めて顔を合わせた時からずっと求めていたのは、俺の予想をすべてひっくり返す化け物のシズちゃんだったんだと。 手に入れようとしたけれど思い通りにはならなくて、今まで悔しい気持ちになることもあったけどそれでよかった。だからこそ深く心に刻まれて化け物として愛おしくなった。 ありきたりな人間なんかもういらない。何もかも食い尽くす化け物が欲しかった。 「待てよ、っ、待ちやがれ臨也ッ!!」 「…っ!?」 「俺はなあ…本気で手前のこと大事にしてえって思ったのに、今それを踏みにじりやがったよなあ?」 「だから何?悪いことしたなんて思ってないけど?」 「ふざけんなッ!!」 背後から肩を掴まれ、叫び声があがった瞬間に凄まじい衝動と共に体が傾いて床に倒れこむ。それは予想通りだったけれど、両足首を掴まれて左右に開かされたのには少し驚いた。 さっきまで最後の一線を越えるのを躊躇っていた相手とは思えないぐらい乱暴で、俺の心は喜びに弾んだ。 「もう知らねえ。手前のことなんか、考えてやらねえ。最低なことされて傷ついたから、俺も同じことを返してやるよ!」 「あははっ、いいよそれで。よかったね、俺を犯す理由ができて」 優しくされたり大事にされたって、きっといつかは満足できなくなるだろう。だって始めからシズちゃんにそんなことは一つも求めていなかったから。本当に求めているものが欲しかった。 さっきまでとはまるっきり違う獣のような瞳で睨みつけられ、背筋がぞくりと震える。体の中心でさっきまで指が入っていた部分に、硬く熱いものが押し当てられた。 「遠慮はいらねえよな?」 「どうぞ?」 ここまできてわざわざ尋ねたのがおかしくてクスリと笑ったが、余裕があったのはそこまでだった。だって俺自身は男達との性行為を覚えていなかったのだから。 「んっ、う…ふ、ぁ、あああっ…!?」 先走りでぬめった塊が強引に捻じ込まれた瞬間、頭の中から何もかもが吹っ飛んだ。目の奥がチカチカと光り起こったことに対処できないまま、バカみたいに口を開けて喘いだ。 相手はシズちゃんだし自分から誘いこんだから、という縛りがなければきっとみっともなく泣いていたと思う。目元に浮かんだ涙を堪えることだけに集中した。 「やべえ…セックスって、こんなに気持ちい、いものなのか?」 「はぁ、っは…んぁ、あ、く…あっ、あ、ああぁ、あー…」 問いかけに答えることなんてできなかった。肩を上下させてはしたない声を出し覆いかぶさってきた体に腕を伸ばして掴む。他に縋る所がなかったからだ。 まだ先端が入っているだけなのに、こんなにも激しいものなのかと動揺が隠せない。中を洗い流したとはいえ散々行為を強いられてそこはすっかり受け入れる準備ができていたのだろう。 難なくシズちゃんのが奥へ奥へと進み、その度に内側から擦られてこれまで知らなかった快感が体の奥から熱を生み出す。 「こんなの、っ、抑えられねえ…くそっ!」 「うあっ!?あ、あ、ぁ、奥ま、で…っ、入って、ぇ、あ、う!!」 それなりの太さの肉棒が一気に押し入られて、喉から掠れた声が漏れた。そこからはわけがわからないまま激しい律動が始まって、腰が前後に揺れだす。 するとガクガクと全身が揺さぶられて、それに合わせて食いつくように中が締めつけられるのが感じられる。そんなつもりなんてないのに、もっと欲しいとねだっているようで首を振って嫌々と現す。 「そうだよなあ、っ、こんなにすげえんじゃあ手加減なんてできねえ。すぐ、出してえ手前の中に」 「っ、は、あ、ぁあ…あつ、いっ、ぁ、あ、はげし、いってぇ…む、り」 「無理って、中出しは嫌だよなあ。でも後でまた掻き出してやるからいいだろ?」 「ちが、っ…そう、じゃなくて、あ、ぁあ、こし、とまんなっ、い…やぁ、あ、なんでぇ…っ、は」 歪み始めた視界の端で金髪頭が見えていたのに、相手がシズちゃんだということはすっかり抜け落ちていた。ただ揺さぶられる度に体の中に刻まれた感触を思い出していく。 男達にされた行為のことを。だけどそれも一瞬で、腰を引いて再び奥まで叩きつけられれば浮かんでいた映像がぼやけて消える。浸るほど待ってはくれなくて、次々と気持ちが昂ぶっていった。 「もう出る、っ」 「…え?」 唐突に宣言されて面食らってしまったが、少し強く腰を掴まれてこれまで以上にガツガツと真上から叩きつけられる。あまりのことに涙がぼろっとこぼれて頬を伝う。 まともに呼吸もできないままされるがままに揺すられていると、より一層体重をかけるように密着しその途端体の中に熱のようなものを感じた。 「えっ、あ、ああぁ、でてる…っ、あ、うそ、だされて、る、あ、うあっ!?」 あまりのことに驚いて唇を震わせながら呆然としていると、凄い勢いで白濁液が注がれていく。その間中シズちゃんはずっと身動きせずに顔を歪めてすべてを吐き出していたが、結構長いと思った。 ようやく終わったのか全身から力を抜いて軽く息をついたので放心状態のまま見あげた。すると目が合って、急にぎょっとしたように表情を変える。 「え?おいなんで泣いて、んだ…?」 「…っ、泣いてない!これは、っ、シズちゃんが激しかった、からだろ…!」 慌てて取り繕うように叫んだが涙はまだ止まっていなかったので、恥ずかしさに頬が熱くなる。こんなつもりじゃなかった、と心の中で毒づいているといきなり笑い始めた。 「ははっ、そうか…始めからこうしてりゃあよかったのか。さっきまでのわけわかんねこと言ってるより、よっぽどいい顔してんじゃねえか」 「はあっ!?なに、失礼なこと…っ、あ!」 「まだ一回じゃ終わらねえぞ、臨也」 ニヤニヤと上機嫌に笑いながら告げられて驚いた途端に隙間から精液がこぼれてタイルの床を汚した。 text top |