it's slave of sadness 29 | ナノ

思った通り一晩眠って朝起きたらすっかり熱は引いていた。元々風邪を引いてもすぐに治りやすい体質だったから、ということもあるけれどほっとする。でもどうやらシズちゃんは声を掛けることなく仕事に行ったらしく部屋の中は一人だ。
汗を掻いた体をシャワーで流そうかと思っていたら、玄関の扉の方からガチャガチャと音がする。まさか、と嫌な予感が頭をよぎって真っ青のままその場に立ち尽くしていたのだが。

「なんだ、起きていたのか?」
「え…?」
「歩けるということは風邪は治ったのか?」

予想外の人物が現れて息をのむ。どうしてと思いながら彼が口にした言葉でここに現れた理由は全部わかってしまう。風邪を引いた俺の面倒を見る為に違いない。
一瞬どう反応を返そうかと迷っていると、無機質な瞳がじっとこっちを見つめる。まるで全部を見透かしているみたいで嫌だと思っていると驚きの言葉を告げられた。

「もしかして、記憶が戻ったのか臨也?」
「な…っ!?」

折原臨也だった時の記憶を失ってサイケとして過ごしている間は一度も津軽にもサイケにも会ってはいない。それにアンドロイドとはいえ人間を見分ける能力があるわけがない。でもはっきりと言い当てられて動揺する。
なんで、どうして、とパニックになっていると静かに口を開いた。

「臨也は知らないだろうが、静雄に黙ってここにサイケと来たことがある。バレないようにコッソリと見たが、その時と瞬きの回数や些細な動きが違う。隠しても無駄だ」
「なにそれ…」
「今日は風邪を引いた臨也のことを面倒みろと命令された。だから治っているのならもう俺は必要ないな」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

いきなり踵を返して帰ろうとし始めた津軽の着物の裾を掴んで止めさせる。とっさに動いたけれど正直どうするかははっきり考えていなかった。だから不審そうにこっちを見つめる視線から目を逸らす。

「離してくれ、サイケが待っている」
「待ってくれよ…ああそうだ、せっかくだからちゃんと俺がメンテナンスしてあげるよ」
「なんだって?」
「パソコンはここにあるし新しいソフトも入れるから君のこと見せてくれないかな?」

いきなりサイケの名前が津軽の口から出て、なぜか胸の奥がかあっと熱くなった。きっとそれはシズちゃんと同じ声と姿だからだろう。相変わらずな態度に隠していた悪戯心と、この場を乗り切る策があっという間に浮かぶ。
口元を緩めて笑いながら、机の上に置いてあるパソコンを指差した。

彼を座らせて簡易コードをパソコンに繋ぐと、鍵をかけていた俺専用のサーバーにアクセスしていくつかの情報を開く。慣れた手つきでいくつか選んで中身を確認した。
それは津軽の記録に関するもので、日付と時間をいくつか遡り俺の姿が映っているものを探す。そして見つけたものを綺麗に削除した。そして本人自身も記憶がなくなったことを悟らせないようにパスワードを入力してロックした。
次に新たなキーワードを入力して、またいくつかの鍵をかける。当然それは俺のことと、今の俺を見た津軽の反応だ。いつもは放置している記憶の部分にもいくつか制限をかけた。
当然それらはすべて、俺が記憶を取り戻していて折原臨也だということを隠す為のものだ。シズちゃんに報告されて知られるのを防ぐ為だ。こんなことをしてもたった数日しかもたないかもしれないけど、まだ傍に居たい気持ちは大きいから。

「代わりにプレゼントをあげるから、ね」

言いながら今度はダウンロードしたばかりのソフトを開く。それは前にサイケに入れたソフトと似ていたけれど、少し違う。一般的知識の向上とは表向きで、アンドロイドには必要がないけれど人間側が欲した時に入れるものだ。
そういう意味で人を慰める行為のことが、津軽の中にどんどん広がっていく。

「サイケ自身は忘れているだろうけど、きっと体は覚えているから優しくしてあげなよ。そして絶対に離れないように…」

その瞬間頭に浮かんだのはシズちゃんとサイケの行為のことだ。あんなことを二度とさせない為に、津軽にしっかりとサイケのことを体も心も掴んで貰わないといけない。
この間は時間がなくてそこまで頭が回らなかったけれど、もうこれなら大丈夫だろうと思う。彼の頬に手を伸ばしてふれてあげながら、瞳を閉じインストールが終わるのを待つ姿を眺めた。
しかしそこで突然玄関の扉を激しく叩くような音が響き渡る。慌てて用意していたコートを掴んで立ちあがる前に告げた。

「津軽がサイケを大事なように、俺もシズちゃんが大事だから。あと少しだけだとしても一緒に居たいんだ。だからこんなことしてごめんね」

完全にすべてのデータが転送されるまで時間がかかるだろうけど、帰って来た時には終わっているだろう。急かすように何度も激しく扉を蹴ってきたので、慌てて小走りで玄関に向かうとドアノブに手をかけて開いた。

当たり前のように迎えに来た男達に車に乗せられ移動した。車内に連れ込まれてすぐに薬を打たれたので、目的の場所に着いた時にはすっかり意識も朦朧として自分の力でまともに歩くのも苦しいぐらいだった。
今日はきちんと撮影して映像を残すと言っていたので、どこかの部屋のベッドに降ろされた時にはカメラを構える男達が増えていた。割と本格的なんだとぼんやり思いながら、そいつらの手が勝手に服を脱がしていく。

「あんたを利用して金儲けするとヤバイのがわかったからな。これ撮って買い手が見つかったらさっさと売ってやるよ。嬉しいだろ?」
「っ、あ…ぅ、からだ、あつい、あつい、くるし…はやく、はやくセックスしたい…」

随分酷いことを言われているのはわかっていたけれど、抗う力もなければ体が思い通りにならなくて勝手に言葉が口をついて出てくる。シズちゃんと居る時はほとんど忘れていたけど、もう思い出していた。
大勢の男達に囲まれて犯されて、悦んで、性行為をするだけが自分の使命だと思いこんでいた時のことを。そして数日後には、またそこに戻ることも。
悲しくて心が痛かったけれど、結局いつかはこうなる運命だったのだ。完全に自分のしたことから逃げるなんて、できるわけがない。一時の救いがあっただけでも奇跡みたいなものだから。

「覚えてるよな?綺麗に撮ってやるから、しっかり奉仕しろよサイケ」
「っ、はい…わかっ、んぅうん!ふぐ、ぅ、んぅ…は、あ、っ」

服をすべて剥ぎ取られてベッドの上で四つん這いにさせられると、すぐさま顔の前に男の性器をつきつけられた。迷わずに唇を開いて口に含もうとしたが、先に激しく突き入れられて息苦しく感じる。
でも左右から掴まれた両手にもペニスを握らされたので、気がついた時には無意識に舌を伸ばして必死にしゃぶりついていた。当然後ろにも男達が群がっていた。

「相変わらずエロい体してるじゃねえか。やっぱりこうやって俺らの前で喘いでんのがお似合いなんだよ。もう普通に生きられるわけねえんだ」
「ぷあっ、は、ぁ…おいし、っ、んぅ、ちゅ、ぐ…うんぅ、く、ふっ」

両手をしごきながら舌を巧みに動かし唇の端から唾液を垂らし懸命に吸いつく。普通に生きられるわけがない、という言葉が一瞬だけ胸を抉ったけれどそれだけだった。
シズちゃんは俺を好きではないのに、きっと自分に責任を感じて受け入れてくれた。セックスをしてくれて恋人同士として振る舞ってくれていたけれど、あんな偽りの関係がそう長く続くとも思えなかった。
何も考えなくていいから、と繰り返し言われていたけれど知ってしまったらこれまでみたいに振る舞うことなんてできない。ただの同情で俺につきあってくれているのがわかるから、きちんと考えれば虚しいことなんだと理解できる。
そんなのもあと数日で終わるのだと思えば名残惜しく、煩わしいことなんて考えずに昨晩だってキスを強請れた。

「ここすげえ震えてるぞ。これならすぐ入れられるな?」
「はぁ、あ、いれて…おっきぃおちんぽ、はやくぶちこんで、なか、せいえきで、いっぱいに、して?」

背後から男が棒を入り口に擦りつけてきたので、目線だけ後ろを向けて笑いながら告げた。薬は充分に効いていたので、入れられたら我を忘れるぐらい気持ちよくなれるだろう。
好きだとか、恋人同士とか言ったけれど、結局こうして男達に迫られたら誰が相手だろうと従ってしまう。そういう体だし、一度はすべてを放棄して記憶を無くすぐらい望んだことだったから。
快楽に溺れて、折原臨也が平和島静雄を心から好きだという事実を消す。きっとまたそれを願ってしまうんだろうなと予感していた。

「ひっ、んぅ、あ、んあああっ!あっ、あ、やぁ、あ、もう、イっちゃ、あ、う!!」
「おいまだちんこ入れただけなのにイってやがる。そんなにだらしねえ奴だったか?」
「きもち、い、っ、あ、ごめ、なさい…んぁ、あ、うごくからぁ、あ、がんばっれ、ちゃんと、するから、っ、あ、は」

体の中に異物が入りこんだ途端に全身が震えて自身から精液を吐き出していた。肩で息をしながら余韻に浸る間もなく自ら腰を振って男を追い上げていく。口や手も素早く擦り舐めあげて、それ以外のことを考えるのをやめた。
くらくらするほどの快感に自ら浸り、少しの間だけシズちゃんのことを考えたくないと思うのは俺が本気で好きだから。折原臨也だと知られる時が実は怖くてたまらないなんて、認めたくなかったから。

「やべえぐらい締めつけてんじゃねえか、はは。やっぱりお前すげえな、仕込んだだけあるぜ」
「体にぶっかけられるのも好きだったよな?久しぶりに精液駆けてやるから、喜べよ」
「んあっ、あ、ほし、い…なかだして、っ、いっぱいかけれ、サイケのこと、ぐちゃぐちゃに、してぇ」
「しょうがねえな、マゾで変態なセックス人形が」

待ちきれないのか周りの男達もズボンを下ろし最低な笑いを浮かべながら勃起した性器を取り出した。濃厚な臭いが充満してきたが、なんだか懐かしくて胸が熱くなる。全身を駆け巡っていて止まらない衝動が、欲しいと望んだ。
腰を振り乱しながら喉奥にペニスの先端を押しつけられ、ごくりと喉を鳴らしたところですべてが爆発した。

「はあっ、あ、んああああっ!ううぁ、あ、つ、い、いっぱい、ざーめん、すご…ふぁ、あ、んぐ、うぅ、ぢゅ、う、ふ」
「しっかりだらしねえ顔を撮ってやるからな。ほらこっち向いて笑いながら飲めよ」
「むぅ、うぐ、んぢゅ、う、ぐ…んぁ、は、あ、これ、おいひ、っ、んぁ、あ、なかも、だされて…っ、しあわせ」
「よかったな、ちんぽぶちこまれて中出しされてザーメン漬けにされて。でもこれからが本番なんだぜ。いっぱい愛してやるからよ」

体の奥や、肌や口内すべてに白濁液が注がれてどろどろの粘液が頭からかかる。ぽたぽたと雫が滴りベッドが汚れていくのをぼんやり眺めていたが、顎を掴まれて上を向かされた。その先にはレンズがあった。
しっかりと見据えて見ている相手が喜びそうな言葉をしゃべる。強要されなくてもやるべきことはわかっていた。

「もうひとりに、しないで、っ、みんなで…あいして」

俺には始めから偽りの愛しかなかったんだと、その時になってようやく気づいた。もう心から喜ぶことなんて絶対にないだろうなと、瞳から一筋の涙をこぼしたけれど瞬く間に精液と混ざって消えて。

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