it's slave of sadness 10 | ナノ

「は、はぁ…は、っ、うぅ……」

肩で必死に息をしながら、気がついた時には頬を生あたたかい水でぐっしょりと濡らしていた。ほとんど放心状態で、わけもわからずされるがままになっていた。
これから散々に犯されるというのに、後ろに入れられただけで勝手に達してしまったことや、出したばかりなのにもう反応してしまっているとか、そういうのは考えたくなかった。
全部を打たれた注射の所為にして、本当はこんなことがしたかったのではない、と言い訳するのは簡単だった。
セックスなんか好きじゃないし、気持ちよくて感じることなんてしたくなんかない、と心の中だけで反芻する。

「どう、お尻でイくのよかったでしょ?確かに俺の責めが上手いのは当たり前なんだけど、臨也くんのさっきから吸い付いて離れないよ…すごいね」
「あぅつ、ひ…ん、うぅ、は……はっ」

純粋な言葉が返ってきて、それではまるで俺が気持ちいいことが好きで好きで、入れた途端にイくほど気持ちがよくて、離れるのが名残惜しいと言っているようなものだった。
サイケの言っていることは、全部が全部当たっていた。だから余計に怖かった。
いくら言葉を取り繕うとしたところで、はじめからこんなに淫らで感じきっているなんて薬のせいにしても信じたくない。こうなることはわかっていたけど、素直に認めるなんて無理だった。
なにもかもが頭の中でごちゃごちゃになってわけがわからなくなりかけた時、いきなり冷水を浴びさせられたかのように強制的に目覚めさせられた。

「でもごめんね…俺の小さいから…静雄さんのに比べたら断然小さいからこうやってテクニックで責めるしかないんだ」
「は、ははっ…あ、ぁ……さ、いあく」

シズちゃんの名前が出てきた途端に、全身にもっと火がついていくのがわかった。媚薬のせいでまともな考えができないことぐらい知っていたが、考えずにはいられなかった。
もっと俺が淫らな体になれば、シズちゃんと体の関係を持てるかもしれない可能性を。

「あ…っ、あ…そ、れは……」

あんなに無理だとさっきは言った癖に、悩み始めると止まらなくなった。自然と力が抜けて、途中まで入りこんでいたペニスが徐々に中に入りこんでいって、奥の奥までようやくたどり着いた。
気持ちよさに打ち震えている間も、どのぐらいの大きさで感じることができるのだろうかと、してはいけない想像をしてしまった。
目の前の何人もの男に犯されることはもう逃れられなかったから、じゃあどうせなら本当にこの体でシズちゃんに迫ってやろうかと、そういうところまで考えた。

「ふ、あぁ……っ、は、ひぁ、あ、ああああ…!」

考え事をしていたタイミングでいきなり律動が開始されて、それ以上は深く想像することができなかった。
熱い塊が体の中を出たり、入ったりするだけで焼かれるような感触が広がり、まとまりかけていた思考が離散した。
はじめはどこがいいのか探しているような動きだったが、すぐに感じるポイントを見つけたようでそこばかり執拗に突き始めた。

「んぁ、は、ぁああ…うぅん……っ、やら…そこ…」

舌ったらずな口調で告げたのだが、そんな誘うようなことで解放してくれるほどサイケはバカではなかった。少しくらいはマスターのことを聞けばいいというのにだ。
ぼうっとしている間にどんどん追いつめるように、真上から体重を掛けられながら貫かれて再び限界に向けて腰が震えだした。

「ん、ひぁっ…や、めろ、って…やだ…やあ……っ、んうぅ」
「臨也くん…無理に拒絶しなくていいんだよ。気持ちいいんだから、隠さなくていいんだよ?」

最後の理性が吹き飛びそうだったので、必死に繋ぎ止めるように言葉を繰り返していたら、優しい音色で諭すように言われた。
あたたかい言葉がすっと心の中に入っていくようで、危険だと気がついた。

「エッチでいいんだよ、エッチな自分を認めてあげないと…壊れちゃうよ。だから怖がらないで全部受け入れて……」
「そ、んな…の…っ、あ、はぁ、あああ」

歌を歌うしか特技のなかったはずなのに、言葉がすんなりと中に入りこんで流されてしまえとサイケが囁いているようだった。傷ついている人間にほど効く機能でもあるのだろうか。
さっきから胸がひどく高鳴って、しょうがないのだ。
結合部から入りきらなかったローションの名残がこぼれ落ちて、虚ろな瞳からは涙を、唇の端から涎を垂らしていつのまにか微笑んでいた。
なんの笑いなのかは、もう自分でもよくわかっていた。
そうして遂に、この事件が自業自得だと言われるに値することが起こってしまった。
右耳の近くに唇を近づけてきて、これまで聞いたことのないような、蠱惑的に誘惑するような声で衝撃なことを告げてきた。

「素直になればいいんだよ臨也くん。気持ちいいんだって認めればもっと楽しめるし、最高の体を持っているんだから…それを使って静雄さんをを手に入れるんでしょ?」
「は、はは……っ、あ、ははははっ…そういう、ことなんだ」

本格的に笑いが止まらなかった、その言葉は当然覚えがあるもので、俺がサイケに対してわざわざ直接通信してまで告げたことだった。
サイケが俺に対して復讐している、ということではない。彼はただ純粋だから、自分が言われたことを俺にも同じように言っているだけだった。
あの時は、サイケの体の最後の一線を越えるための一言だったけれど、それがこうして返ってくるとは思わなかった。
今ならわかる、あの言葉は的確だったと。素直になって気持ちいいことを認めることが、これから行われる惨めな行為を乗り越える最適の手段だと。

「っ、はは…あぁき、もちいぃよ…すごくかんじる、し…ッまたイきそう…ううぅん」

試しに口に出して言ってみると、心がすうっと軽くなっていくように感じられた。これまで頑固に抗っていたのがまるでバカみたいで、すんなりと心の中に染み込んできた。
薬を打たれて全身が蕩けるように熱くなって、疼いて、でもそれは悪いことではなくて、楽しいことなんだと。

「わかって、くれた?ねえいいでしょ?素直になると気持ちよくて、それで…」
「んあ、あああっ…は、っは、も…これ、だめ、いい……きもちいぃ、よ、もっと…ん、ぁは!」

大声で叫びながら、頭を振り乱して快感をはっきりと露わにした。周りの男達の笑い声が聞こえてきた気がしたが、構わなかった。羞恥心はもうなくなっていたからだ。
サイケは解放に向けて突く速度を早めながら、最後の最後まで俺の感じる場所やイイところばかりを重点的に責めてきた。
まるでそこが気持ちいいところなんだよ、と教えてくれているようだった。最初からこんなに愉悦に溺れそうになるぐらい疼くなんて、もう誰にされようとこんな風になってしまうのかもしれない。
性行為なんて興味なかったから、はじめてはシズちゃんがよかったとかそういうことはなかったけれど、感極まる寸前に浮かんだのは、やっぱりシズちゃんの顔だった。

「んは、っ…は、ああ、も、むりっ、でる……っ、は、あああああぁぁ、うぅんんんんっ、はぁは、は……!!」

自身から二度目の精を吐き出した瞬間に、体の中にも熱い迸りを感じて目を見張った。出しながら白濁液を注がれるなんて経験は、想像すらしていなかった。
でもすぐに体は順応して、搾り取るように収縮を繰り返しながらすべてを受け止めた。
あたたかくてドロッとした粘液が結合部の隙間からこぼれて、床を白く汚すのを息を整えながらぼんやりと眺め続けた。

「…っ、臨也くん…これで、もう怖くないでしょ?」
「ん、ぁ…っ、は、はぁ…は…?」

小声でそう囁いてきたので後ろを振り返ったら、ちょうど中からペニスを引き抜いてサイケが離れていくところだった。そうして代わりとばかりに、別の男が後ろに立っていた。
俺の周りにいる男達もすぐ傍まで寄ってきて、怪しい雰囲気なのはわかっていた。これからが本番なんだと、そこで思い出した。

「情報屋も随分かわいくなったもんだな、こりゃ犯し甲斐があるな」
「残りは俺達が教えてやるよ、男にねだる方法とかたっぷり仕込んでやるからよお」

口々に適当なことを言っていたようだったけれど、どれも耳を通り抜けていっていた。そうして頭の中は、シズちゃんのことでいっぱいになっていた。
目の前の男達がシズちゃんだったらよかったのに、と思った。
けれどもしこの人数を相手にして終わった時、サイケと同じぐらい淫らになった体で、サイケと同じように誘惑したらシズちゃんともセックスができるのだろうと確信していた。
その為になら、どんな技術でも習得して驚かせてやろうとそういう気持ちになっていた。

「じゃあ、はじめようぜ」
「んっ…っ、あ、は、あ、あああああんぅっ……!?」

真後ろの男の合図と同時に体の中にペニスが遠慮なく挿入されてきた。俺は口元に薄い笑いを浮かべながら、されるがままに感じ続けた。

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