it's slave of sadness 8 | ナノ

こういった危機的状況はこれまでにも幾度となくあった。その度にギリギリのところで逃げ切ることができていたので、今回も例外なくそうだと思っていた。
しかし瞳を開いた時に最初に見たもので、かなり動揺してしまった。その瞬間に逃げられないのだと、確信した。

「なんで……っ」
「お、情報屋さん起きたみてえだな?」

たまたま俺の目の前に立っていた男が即座に覚醒したことに気が付いて、声を上げた。すると少し離れた場所に群がっていた男達とその中心にいた者が、こっちを振り返った。
さっき見た姿ではなくいつもの白いコートに、耳にはトレードマークのヘッドフォンをつけた相手がパッと表情を明るく変えて声を掛けてきた。

「臨也くんっ、大丈夫!?」
「大丈夫なわけがないだろう……」

サイケのあまりにも間抜けな一言に全身が脱力した。けれど実際に体がだるくて動かすのも億劫な状態ではあった。さっき嗅がされたスプレーの匂いのせいだけではないのは明らかだった。
でもまさかこんなゴロつきみたいな奴らが薬の類を持っていたのは驚きだった。頭を振ってなんとか意識をはっきりさせようとする。
すると男達の真ん中でぐちゃぐちゃに犯されていたサイケがゆっくりと立ち上がって、心配そうな表情をしながらこっちに近づいてきた。

「ごめんね、もしかして薬効きすぎちゃったかな?量は加減したけどはじめて使ったから跡もできちゃって…」
「え?これサイケが打った…の?どうして…?」

唇の端から唾液を、後孔からは白濁液を盛大にこぼして太股を汚していたがまるで気にも留めずに、俺の右腕を掴んできた。そこには確かに注射針のような傷跡が残っていた。
だからますます混乱した。これが全部男達に強要されてやったというのならまだわかるが、まるで悪びれた様子もなかったので嫌な予感がした。

確かにアンドロイドなのでそういう武器の類やそういうものを隠し持たせてはいて、当然体に害はない媚薬も装備していたはずだった。

「だって臨也くんだってはじめての時に俺の体の感度をわざとあげててくれたじゃない。だからそうしてあげたほうがいいかなって」
「なんで、俺がそんなことしないといけないのさ。こいつらに犯されたいなんて思っちゃいないよ」

確かにはじめてサイケが男達に犯される時にプログラムの感度をわざとあげていた。敏感にさせて自分から中を濡らすぐらいには淫らにした。
しかしどうしてそんな話になるのか、おおよその予想はついたが正直当たっては欲しくなかった。

「ねえさっき臨也くんも見たでしょ?俺の体を使って静雄さんを……」
「あはははっ!やっぱりそういうことか、君はどんな汚れた体でも誘えば相手は乗ってくる、だから津軽も好きになってくれるっていうのを証明したくてあんなことをしたんだ?」

あまりにもシンプルな答えに笑いが起きた。シズちゃんとサイケの二人の間に何かの関係があったとか、そういうことではなかった。
もやもやした気分が晴れるぐらいには、あっさりとしていた。

「それで、俺も同じ能力を身につけたらシズちゃんを落とせるかもしれないっていうことかな?実に単純で愚かな考えだよ」

思いっきり睨みつけてやるが、向こうは全く意に反さないようだった。反論しないのは俺に逆らえないだけであって、本当は己の信念を貫き通したいと目が訴えていた。
しかし俺からしてみれば純粋な想いが暴走した結果なのだ。それに自分のマスターの為だからと言ってこんなことをするのは、普通に考えてありえない。

「大きなお世話だよ。俺は今の関係で満足しているし、こんな奴らを練習台にするぐらいならもっとマシな方法を…」
「でも俺はうまくいったんだ!だから絶対に臨也くんだって静雄さんに迫ればきっと両想いに…っ!」
「君達みたいな簡単な関係じゃないんだ、俺たちは。だから無理だ」

きっぱりと言い切ってやったが、サイケの諦めの悪さは相当のものだったようだ。ぶんぶんと首を振って必死に呼びかけてくる。
もしここでわかってくれていたら二人で逃げられたというのに、そうはいかないようだった。悔しさに歯ぎしりをする。ただこいつは男達に利用されているだけなのに。

「そろそろ話しは済んだか情報屋?まぁ俺達は生意気な手前を犯せればなんでもいいんだよ」
「最低な奴らだな」

サイケのすぐ後ろに立っていた、俺にスプレーを吹きつけたリーダー格の男が最悪なことを言ってきたので汚い言葉で返した。
しかしそんなことでこの状況を抜け出せることなどできない。

「あの、ちょっと待って下さい!臨也くん…マスターははじめてだから俺が…俺がちゃんとしてあげますから。練習しないといきなり実践なんてできないのは知ってます」
「な……ッ!?」
「なんだ同じ顔同士でやり合うっていうのか?そりゃおもしれえな」

突然何を言い出すかと思えば、俺の体の話だった。驚きの表情のまま固まってしまった。本気でそのつもりなのだと、今更になって覚悟を目の当たりにした。
そんなの冗談じゃなかった。だからやめろ、と命令をしようとしたのだがタイミングよく告げられた。

「どちらにしろ臨也くんに打った薬って三日ぐらい持続するから、苦しいのは解放してあげないといけないんだ」
「どういうこと、だよ!俺の断りもなくなんてことを……ッ!!」
「だって絶対に拒むと思ったから……こうでもしないと受け入れて貰えないのはわかってたから」

やっぱりサイケに自分の知識を分け与えたのは間違いだったと、やっと後悔した。
マスターが起きる前に薬を打てば後から拒否しても、その時にはもう何の意味もないという抜け穴のような方法は、まさに俺が考えそうなことだった。

「苦しい、よね?怖いよね?でも俺が優しくするから、きっと臨也くんにもできるよ」
「やめろ……っ、てサイケ!!」

必死に叫ぶ俺のことなど無視して、衣服に手を掛けてきた。ズボンのベルトをゆっくりと外して、下着ごとはぎ取られる時には混乱していた頭が少しだけ冷静になっていた。
けれどそうなったところで、なにもかもが遅かった。腕に打ったという媚薬の効果は長く続くみたいだし、観念して流された方がいいと結論は出ていた。
利己的に考えればそうなるのだが、感情はそれだけでは納得しない。仕事でこういう男に襲われそうになることだってあったが、そんなの死んでも嫌だと思っていた。
男が好きだったけれど、別に体の関係なんて求めてもいなかった。知りたくなんてない。

「緊張してるよね?でもきっとすぐによくなるから。臨也くんにもきっと同じ素質があると思うんだ」
「はっ、なにを馬鹿な…俺は自分でもほとんどしないし性行為なんて興味ない」
「はじめは、俺もそう思ってたけどすぐに気持ちよくなったんだ。だから教えてあげる」

やがて下半身の服はすべて取り去られて、勝手に半分勃起していたモノが晒されてしまった。周りの男達がざわざわと話していたが、無視をした。
全く自分では動けなくなってしまった体を呪いながら、サイケに抱きあげられて床にうつぶせになるように座らされ、四つん這いの恰好にされた。

「……チッ」
「この体位が一番腰に負担がないし楽にできるから、ね?」

あまりにも屈辱的な姿に、舌打ちしながら手をついて怒りが通り過ぎるのを待っていたら、優しく囁かれた。
元から歌を歌うことに特化している彼の声が、ひどく魅惑的に心に響いてきていた。一瞬だけ自分の状況を忘れて、聞き入った。

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