「んなこと、隠してたのか…?」 「は?」 「今更言われなくても、手前がエロいことぐらい知ってんだよ!さっき寝てた時に、どんだけ俺の股間に顔擦りつけて泣いてやがったか、わかるか!?」 「えっ、はあ?っ、いや、違うって…そういうことじゃなくて!」 さっきシズちゃんに膝枕をされて寝ていた時のことだとは思うのだが、言い方がマズイ。股間とか言われて一瞬で頬が赤く染まり、恥ずかしくなる。いや、寝ている時の仕草なのだから俺にはどうにもできない。 ぽかんと口を開けて呆然としながら慌てて首を振る。だからそういうことじゃないんだと、意味が違うと説明しようとして。 「じゃあ教えてやろうか?俺がどんだけ変態かって、教えてやりゃあ納得するんだよな」 「は…あ?ちょっと、待ってどういう…」 「寝てる手前に勃っちまった。やわらけえもん擦りつけられて、なんか魘されてやがんのに…したくなっちまった。ずっと、こういうことできねえか考えてた」 「……っ、はあっ!?」 唐突過ぎる告白に、頭の中がパニックになるどころかもうついていけなくて呆然とする。そしてやっぱりそういうことをする目的だったのかと、納得しながら睨みつけた。 シズちゃんの口車に乗せられてこんな事態になってしまったのは驚きだったけれど、はっきり体だって言われたら傷つくなと恨みがましく見る。 でも向こうは茶化す素振りどころか、真剣な表情をしていて。何か思いつめているようにも見えてしまう。首を傾げながらも、何か変だなと。 いや、もう俺にとっても夢だと思っていたあの出来事が夢じゃなかったこと自体が奇妙なできごとのように感じていたけれど。 (あぁ、まさか…これも、夢だったりして?) わけがわからなくなったら、こう考えてしまうのが普通だ。俺は逃げるのだけは得意だから。 「なあ、本当に手前は嫌なのか?」 「え……?」 「俺とすんのが、本当に嫌なのかって聞いてんだ」 あまりのことに言葉を失ってしまう。だっていきなり確信を突いてきたようなものだから。ここで嫌だとはっきり答えてもいいのだけれど、だったらさっきの感じ方はどういうことだと問い詰められたら。 さっきからあまりに混乱していて、取り繕うことさえまともにできないのだから。 「え、っと…」 「誰にでも、こんなエロいことをあっさりさせんのか?それとも俺だから、あっさりさせたのか?」 「な、なに…?なん、のこと…?」 シズちゃんの表情が、心の奥までも見透かすように射抜いてくる。逸らすことは簡単だったけれど、俺はそれができなくてじわじわと追いつめられていくような気がする。すごく嫌な予感がするのだ。 額から汗がじんわりと流れて、まだ体は密着したままで。バクバクと鳴り響く心臓の音が聞こえてしまいそうなぐらい、近い距離だった。 これは、危険だと警報が頭の中で鳴り響いている。混乱している風を装って、冷静にどういうことを告げたいのか考える。考えて、もうこれ以上一言も口を開くなと怒鳴りつけようとして。 「さっき俺に抱かれろって言われた時、すげえ嬉しかったんだろ?隠してたつもりかもしれねえが、バレてるぜ」 「……っ、な!?」 もし手が自由に使えていたら、おもいっきり殴りかかって抵抗しているところだ。でもできないからとりあえず暴れようとしたのに、先手を打ってシズちゃんの片手が俺の腕を掴み。 反対側の手が、ズボンのベルトに触れてきた。それが意味することは、一つで。 脱がされてしまえば、一体俺がどう思っているのか、さっきされた淫らな行為に何を思ったのかわかってしまう。一瞬で耳まで真っ赤になった。 「は、離せ、っ…ぅ!」 「なあ、なんつったら伝わるんだ?どうやったら、あの言葉を口にしないで伝えられんだ?」 「は…?え、なに、っ……ん、うぅ、ふ…!?」 慌てて腰を捩らせて逃げようとすると、今度は顔が近づいてきて。しかもこうやって時々俺にはわからない言い回しで何かを必死に告げようとしているのだが、頭で理解する前に唇がまた塞がれた。 肩がビクンと大げさに跳ねさせて、目を瞑って耐えているとベルトの破れるブチンという音が耳に入ってきた。慌てて薄目を開けてそこを見ようとすると、歯の間から舌が入り込む。 「ふ、あっ…っ、は、ぁ…ん」 やっぱり狙われていたんだと内心舌打ちしていると、舌が絡まれて同時にベルトを押しのけてズボンに手が潜り込んできて。そのまま下着まで一気に侵入される。 待ってくれと叫ぶ間もなく、口内の動きに翻弄されているとすぐに大きな手が俺のそこにふれてきて。そのまま手のひらに握りこまれたところで唇が解放された。 「ん、ぷはぁ、っ、く…」 「あれ?てっきりさっきので汚しちまったと思ってたが、違ったか?」 「や、め…っ、は、はなし、て…」 キスをされたことで少しだけ力が抜けていたし、死にたいぐらい恥ずかしくて漏れた声は随分と弱々しいものだった。しかもまた目の端に涙が浮かんでいて、女々しい自分を殴りたくなる。 でもこの状況でスラスラ言い訳を口にできるほど、自信は無い。だって今まで恋心を隠して生きてきたし、こんなことにも陥ったこともない。まさかシズちゃんに一方的に振り回されるなんてこと。 「嫌だったら、もっと本気で嫌がれよ。泣き喚いてなりふり構わず逃げようとしろよ!できねえんだろ!」 「…っ、う」 「俺の事を最低だって罵ればいいだろ!死ね、とか殺すとか言ってみろよ!!」 そんなの言えるわけがない。だっていつものように、何でも無い振りを装えないから。今日シズちゃんに会ってからずっと、俺らしいことなんて一つも言えていない気がする。 巧みに躱そうとするのに、一歩及ばずにこんなギリギリまで追い込まれてしまった。いつもと、何もかもが違う。圧倒的にこっちが流されているなんて普段と逆だ。 根本的に俺の方が負けているような、でも何か腑に落ちなくて。俺の知らない、俺自身さえも知らない俺の何かを知られているような奇妙な気分で。 遂にはその言葉を口にしていた。 「ねえ…誰だよ。君は誰?俺の知ってるシズちゃんじゃない。こんなの、知らない、おかしいッ!!」 きっと驚いた表情をしながら、怒鳴りつけてくると思っていた。そうしていつものように殴ってさえくれれば、そこで俺もいつもの俺に戻れるのにと期待したというのに。 表情はピクリとも動かなくて、でも瞳の奥では静かに怒っているようなそんな風に見えて。 「またそうやって逃げんのか。あん時だって、俺の言葉遮って叶えるつもりもない約束して」 「ふ、あっ…!?い、いた…っ、いって」 流石に頭にきたのか俺自身のそこを軽く握ってきて、でもそれは俺にとって結構な強だったので顔を顰める。そうして息を吐きだしていると、少しだけ力が緩められた。 でも今度はもっと下を掴もうともぞもぞと動き出して、そのくすぐったさに身震いする。もういくらなんでも、俺だってわかっていた。知らない奴らだったら、ここまで反応しない。 いくら体が淫らになっていようと、こんなにも顕著に現れない。シズちゃんの手に包まれたそれが、ビクビクと震えたりしないのだ。 (どうしよう、好きって…言いたい、言えたらいいのに…) 朦朧としながら喉まで出かかる。さっきは一生伝えるつもりなんてないと決めたのに、あっさりと崩れてしまいそうで頭を左右に振る。それをしたら終わりなのに、言ってしまいたい衝動が強くて。 もやもやと行場のない気持ちが、せりあがってくる快感と一緒に全身に浸透してしまいそうだ。こんなにも意志が弱かったのかと驚きながら、俯いていて。 「そりゃ知らねえよな。あの後どんな気持ちで、何があって、俺が…」 「ねえ、さっきから…っ、なんのことを言ってる、の?」 胸を上下させて興奮を隠さないままそう尋ねる。もっと俺にわかりやすく説明してくれればいいのに、でもきっとそうしてはくれないだろうなと思いながらダメ元で言ったのだ。 返事なんかないだろう、なくてもいいと思ったのに。顎を強制的に掴まれて上を向かされると、気を失いそうなほどショッキングなことをはっきりと返してくれた。 「手前の話だよ…手前の好きな奴の話だよ」 「は…?」 「俺は…手前が誰を好きか、知ってんだよ」 その瞬間、思考が止まって。 「えっ、え…ほ、んと…?」 今までと違った意味で、胸が酷く痛んだ。 text top |