「や、やだよ…っ!これ、はなせ、って…!!」 「悪いことを知らねえガキには、きちんと言ってやらねえと直らないんだよ。しかも盗みなんて、最低だからな。よく覚えておけ」 両手を頭の上で固定させ、そこに首輪のベルトを嵌めてやる。簡単に外れないようにわざときつく締めてやると痛そうに顔を歪めたが、そんなものは構ってやらない。悪いことは正す。 それが子供にとって必要なのだ。特にこういう子供のあどけない顔を装い人を騙して金品と盗ろうだなんて、将来碌な大人になりやしない。 床でゴソゴソともがいてる姿を軽々と片手でつまみ上げて、そのままベッドに軽く投げてやる。すると顔ごと布団に突っ込んで、短く悲鳴をあげた。 「うわっ…!シズちゃん、こわい顔してるよ…っ?」 「俺の顔は元からこんなだよ、余計なお世話だ。とにかく覚悟しろよ、あと名前と住所も言え」 「それはダメ。知らない人に教えたらいけないって習ったから」 「勝手に人に変なあだ名つけておいてそれか?もうお前と俺は、知らない者同士じゃねえだろ。責任とって躾けてやろうって思うぐらいには、怒ってるからな」 相手がまだ幼いというのに、全く気にせず話をした。半分以上もこいつはわかってはいないだろうが、そうしないと怒りがおさまりそうになかったからだ。 もともと俺はキレやすい性格で、か弱い女や子供には手をあげないつもりだったがこいつは例外だ。そこら辺にいる子供とは何かが違う、と直感で感じていたから。 「さておしおきの定番っつったら、これだよな?まあ加減してやるから我慢しろよ」 「え…っ、なに!?」 ベッドの上でもがいている体の横に手を乗せ、固定させると一気に履いていた半ズボンを下着ごと引き下ろしてやる。一瞬のできごとだった。 抵抗すらもなくて、行為の意味をわかていないのかもしれない。そういうことを受けたことがなさそうな気がなんとなくしたから。 容姿や身なり、一人暮らしをしていると言っていた態度から、俺とは違うところで生きているのだろうと察することができる。それはもう甘やかされるか、逆に放置されて育ったのかもしれない。 「まあはじめてだろうから、泣くのぐらいは許してやるよ。十分反省しろッ!」 直後に部屋の中にパンッという乾いた音が響いた。そしてこいつが悲鳴をあげだしたのだ。 「なにを…っ、うわあっ!?あっ、い、いたいっ…いや、いやだ…!!」 「嫌じゃ、ねえよ。ごめんなさいって言うまで、ぜってえ止めてやらねえからな」 「えっ、いたあっ!こ、こわい…やだ、やだ、うあっ…!」 立て続けに二度肌を叩いてやると、すぐに涙声になってきて今にも泣きそうなぐらい頬も赤く染まる。もしかしてこれが恥ずかしい、ということぐらいは知っているのかもしれない。 だって俺は小さな尻をむき出しにし、そこに手を叩きつけてお仕置きをしていたからだ。悪い子には尻を叩く、なんて普通のことだ。多分。 「ほらさっさと謝れよ。じゃねえと尻が真っ赤になるぜ」 「あ、っ…やだ、いやだ、やだよぉ…っ、いたいっ、ひどい、こわい、うぅ、ふ…」 しかし手のひらを加減して叩けば叩くほど、声は弱々しくなっていく。でもなかなか涙を見せずに、ギリギリのところで唇を噛んで耐えている姿が少し健気だと思った。 さっきまでのふてぶてしい態度じゃなくて、こういう顔をしてりゃいいのにと。人を苛める趣味なんて俺はないが、こいつはいいのかもしれないと少し楽しい気分になる。 「おい手前呼びづらいから、名前だけ教えろ」 「ひっ…うぅ、いや、だあっ…!」 「教えてくれねえなら、今からノミ蟲って呼んでやるよ」 そう言いながらわざとそいつの顔を覗き込んでやると、目の端にじんわりと涙が溜まっていた。瞳の焦点は合っていなくて、必死に我慢しているのがわかる。 こういう方がやっぱり似合ってるなと、さっきまでの大人びた言動や態度を見ながら納得する。早く成長したいと焦る時期には早いような気がするので、今の表情が本来のものなのだ。 俺はこいつに興味を持ったので、もう一度名前を教えろと告げた。でも従う様子はなかったので、適当に最低なあだ名をつけてやる。他にも、もやしというあだ名が浮かんだ。 「ノミ蟲くんは、こうやって尻叩かれて恥ずかしいと思わねえのか?実はおしおきされんのが好きなのか?」 「ちがうっ…そ、んなのちがうに、きまってるだろ!それに、っ…むし、じゃない!!」 「じゃあさっさと言えよ、名前」 引く気なんてさらさらなかった、どうしても俺はこいつの名前が聞きたかったから。 「…っ、う…誰にも、しゃべらないでよ?」 「あ…?まあ、いいぜ黙っておいてやる」 さすがに何度も叩いたせいで尻は赤くなっていたので、観念したのかもしれない。か細い声でそう告げてきたので、俺は手を止めて顔を寄せた。 すると眉を顰めた後に、ゆっくりと告げて。 「おれの名前は……イザヤ、だよ」 「イザヤ?変わった名前なんだな」 「べつに、いいだろ…!とにかく、ぜったいに…他の人にはいわないでね」 誰にも言うな、と秘密にする意味がわからなかったが誰かに自慢したいわけでもない。だからすぐさま頷いた、するとイザヤは少しだけ安堵したような表情をしてほっとため息をついた。 そして思いもよらないことを、あっさりと口にした。 「ごめん…なさい」 「なんだと…?」 一瞬聞き間違えかと思い、慌ててイザヤの瞳をじっと見つめる。でも真剣な表情だったから、さっきの謝罪は本物なんだと知る。 「シズちゃんのお金とって…ごめんなさい」 「謝れるじゃねえか、手前」 さすがにこれ以上叩き続けるとこいつが痛いだけじゃ済まなくなるのもわかっていたので、安心した。別に暴力がふるいたいわけでも、嫌がらせをしたいわけじゃないから。 小さいうちにきちんと善悪を教えてやって、イザヤには正しい道を進んで欲しいから。俺とは違って。 「痛かったよな?悪かった。だからもう我慢せずに泣いていいぜ、イザヤ」 「…っ、うぅ…シズ、ひゃ…っ、う、わ、あああああッ!!」 諭すような優しい口調でそう言うと、急に体を寄せて俺に飛び込んできて泣き始めた。かなり大きな声で驚いたけれど、怖い思いをさせたことを少しだけ悔やんだ。 弟でもないのに、普通こんなことはしない。ここまで相手のことを思いやって行動することなんて今までの俺には考えつかなかった。そもそも寄ってくる相手もほとんどいなかったのだから。 俺はいつも一人だった。 そして多分こんな時間まで家に帰らずに、大人にも誰にも頼らずにこんなことをしたイザヤも一人なのだろうと。 (そうか、俺はこいつのことが気に入ってんだな) まだ声をあげて泣き続けるイザヤの頭を撫でてやりながら、ふとそう思った。 text top |