それから数日して、やっと事務所に戻れた時にやったのは例のビデオを揉み消す為の手はずだった。気は進まなかったが、頼める相手は一人しか居なくて、だから仕方なく連絡したのだが。 当然のように代償を求められてしまい、戸惑っていた。 『よく撮れてたじゃないか。折原のエロい姿に、俺はかなり興奮したぞ』 「いい加減にしろ!いいから約束しろ、指定した日にすべての証拠を消去するって…」 『だから今からそこで俺の為にオナニーしてくれたら、言う事を聞いてやろう。ほら前に送ったバイブもまだ持っていてくれるんだろ?』 「くそっ、変態ストーカーが…」 携帯を握りしめながら、手が怒りでブルブルと震えていた。唇を噛みしめながら、こいつが九十九屋じゃなければとっくの昔に切っていたのにと舌打ちする。 でも現時点で俺がそれなりに信頼していて、事情を察して頼れるのはこいつだけで。ただ以前から変なアピールをしている変態ではあったのだが。当然のように、シズちゃんへの気持ちは知っている。 知っていてわざと嫌がらせで俺にエロい冗談を言っていると思っていたが、前に怒らせた時に送られてきた卑猥な玩具を見てそうではないと確信した。こいつはただの変態だ。 『いやあなかなかあのビデオは最高だったな。あんなにも静雄のことを求めながら乱れる姿に、切なさで胸がはちきれそうな仕上がりになっていたぞ。これを、本人に見せたらきっとすごいことになるだろうな』 「今度はお前が脅すのか」 『当たり前だろう。連絡が無くても、こっちからしてやるところだったからな。こんなにおいしいネタを逃すわけがないだろう?』 「最低だな、本当に」 嫌悪感を顕わにしても、向こうは待った動じない。それが余計に不快だったのだが、この短時間で他を探すわけにもいかない。困ったと頭を抱えていると、今度は声色を変えて聞いてきた。 一番聞かれたくない、痛いところを。 『しかしどうして、今すぐ後始末をしようとはしないんだ。なぜ、その日なんだ?一体なにがあるんだ折原』 「それを教えるとでも思うのか?」 『答え次第だな。だいたい俺が掴んでいないのに、お前が知っていることがあるのが腹が立つ。どこで聞いたことなんだ』 「は、はははっ…!じゃあ教えてやろうか?夢の中で、だ。天使からお告げがあったんだよ」 一瞬ひやりとしたが、すぐに爽快な気分が胸の中で漂う。確かに九十九屋は、俺が掴んだどんな情報も既に知っていて、俺が知っていることであいつが知らないことはなかった。 だから余計に悔しいという気持ちはよくわかる。それはいつもこっちが味わっていた屈辱で。だから答えてやったのだ。本当の事を。到底信じることができない内容だとしてもだ。 『それに折原があんなにもあっさり捕まり、黙っているのもおかしい。お前は何を企んでいるんだ?』 「そこまでわかってるなら、そろそろお前も気づいてるんじゃないか?」 『このままだと……死ぬぞ?』 予想通りの忠告に、口元がニヤついた。九十九屋が知っているのなら、もうほぼ確定だった。まだ日にちまでは掴めてないにしても、充分だ。まさかこんな風に指摘されるとは思っていなかったけれど。 逆にこっちは安堵した。俺が死んで願いが確実に叶えられる、という情報がわかったから。 『死んだ後の準備まで周到にしているし、自棄にでもなっているのか?』 「そうじゃない。俺は本気で、自分が死ぬのを望んでいるだけだ。お前にはわからない願いの為に、動いてるだけだ。だから絶対に止めるなよ九十九屋」 『このまま死なれるのを、見ていろと?それこそ俺が何をしようと、放っておけ』 「ただの変態かと思っていたが、実は優しいんだな?意外すぎて笑いが出る」 仕方がないと思いながら、俺は立ちあがった。そうして前に送られてきて気持ち悪いから捨てようとしていたのを、気まぐれでやっぱりやめていた物を棚から取り出す。 何かに使えるかと考えていただけなのだが、本当に自分に使うとは予想もできなかった。片手で携帯を握り、そのまま来客用のソファへと座る。 「しょうがないから、今からお前の為にこれでオナニーしてやるよ。いや何でも言う通りにしてやる。ただし、絶対に俺のすることを止めるな。ビデオも回収してくれ、頼む」 そう言いながらズボンのベルトに手を延ばして、片手で外しズボンと下着も脱ぎ始める。シズちゃんは当然のことながらまだ帰って来ない。今日は仕事が数件あるのは、確認済だ。 『おい折原、それは本気と言う事か?』 「ああ俺は本気で、あいつらに殺されるのを望んでいる。その為なら、なんだってしてやるって言ってるんだ」 覚悟はもう決まっていた。だから強い口調ではっきりと言ってやると、数秒沈黙が訪れた。体はまだだるいし、正直二人で住んでいるここでこういう行為をしたくはなかったが、やるしかない。 こんなことで九十九屋に邪魔されるなんて嫌だし、それで間違ってシズちゃんが死んでしまうなんて耐えられない。だからもう、必死だった。それを悟られないように態度には出さなかったが。 「なあ見たかったんだろ?俺がエロい声出して、自分で玩具突っこんでるところが見たかったんだろ?」 『そこまで言うってことは、もう止めても無駄ってことだな。決してお前のエロい姿が見たいからってわけじゃない、何をしたいのか知りたいだけだ。善人ぶって助けるつもりもない』 「こんなの送ってくるぐらいには、本気で見たかった癖に。まあいい、とにかく見てろ」 そうして一旦携帯をソファの上に置き、意を決して玩具を口に入れてしっかりと濡らし始める。どうせ俺には見つけられない相当金を掛けて独自に作ったカメラでも仕込んでいるだろうから、見えているだろう。 それを期待して、わざとらしく鼻にかかったような艶っぽい声を出してため息をつきながら舐める。 「ん…っ、ふぅ…ぅ…んぢゅ、るっ」 しっかり唾液でてかてかにしたバイブを、ほどほどに湿らせたところで口内から引き抜いて後ろに添える。さっき充分に洗ったが、さすがに三日もあんな行為を強いられていたのだ。 そこはほぐさなくても受け入れる体ができていて、だから迷わなかった。もう嫌だとも口にはしない。そんな弱い心は、もう捨てたのだ、だから。 「いくぞ、九十九屋…っ、あ、んぅぅう、ふ、あ、はぁあ…!」 力を込めて挿入すると、馴染んだそこが一気に奥まで飲みこんでしまって目の端に生理的な涙が浮かぶ。既にそこには二本は受け入れられるようになっていたので、これぐらい簡単だった。 こうやって自分で入れることだって、強要されていたしもう汚れきっている。今更堕ちるところなんてないぐらい、どん底なのだ。薬が無い分見境なく発情しなくていいので、まだマシなぐらいだ。 「っ、あ…見てるか?ほらしっかりバイブが入ってるだろ…っ、はあんぅ…」 『まさか生で見れるとは思わなかったな。いや本当は見て欲しかったんじゃないか?まだ体がおさまってないんだろ、さすが情報屋を辞めて淫乱奴隷に堕ちただけはある』 「本当にっ、お前はむかつくな…まあいいから、見てろよ…っ、あ、うぁう、ん…あ、はあぁ!」 こっちが実は恥ずかしさを堪えて言っていることのそれ以上を告げてきて、心の中でため息をついた。誰が淫乱奴隷だと反論したいのを飲みこんで、玩具のスイッチに指先を添える。 携帯電話を耳に挟んで、それから強く押すとすぐにバイブの小刻みな振動が伝わってきて、頭の中が快楽でいっぱいになる。指摘通りに、まだ薬だって残っている。 「んああっ、あ、あ…やだぁ、あ、きもちひ、っい…あ、ふぁ、あ、だめぇ…!」 『いきなりかわいい声を出して、そうか実は最初からこうして欲しかったのか。気がつかなくて悪かったな。いいからもっとぐちゃぐちゃに掻き回して悶えてみろ』 「あっ、あぁ、つ、くもやぁ…の、へんたいっ、あ、ひぅん、っ、く…」 悪態をつきながら、手はしっかりと動かして玩具の根元を掴み前後に激しく揺する。するとすぐにぐちゃぐちゃという粘着質な音が聞こえてきて、喘ぎ声も荒くなっていく。 少し掻き回しただけで濡れるぐらい、淫らなことを数日間強いられていたのだ。もうこの行為を知らない前には戻れないぐらい、体に染みついている。 でもこれも全部、シズちゃんの為だと勝手に頭の中で解釈すると嫌な気持ちは薄らぐ。数日前はこのソファで二人で寄り添ったのに、と思い出すと尚更体の奥が疼く。 「はぁっ、あ、もう…らめっ、あ、もう、イっひゃい、そぉ…あ、んぁあ…」 『折原は後ろで何度もイけるんだよな?じゃあ遠慮せずにイけ。しっかり見ておいてやるからな、俺はずっとお前を見ているからな』 「ふ、あっ、あ、じゃあ、みて…っ、おれのこと、みて、イくとこ、みてよぉ…っ、あ、んあぁ、は、はぁ、あ、ああああ…!!」 そのまま一気に速度を早めると、あっという間に達してしまう。当然のように性器からは全く汁すらも出ない。もうすっかり体が後ろでイくのを覚えているから。 望んだ余韻に浸りながら、息をついていると不意打ちのような声が聞こえてきて、胸が高鳴った。 『よかったな、臨也』 「…っ、あ、九十九屋っ、まさか…」 『静雄の声ぐらい、いつでも出してやるからもっと乱れてみろよ』 薬を打たれていた時とは違い、声は鮮明だった。この間携帯で話したそのままの音声が耳に届いて、心の奥が打ち震える。嬉しくて嬉しくて、でも切なくて。 こんな些細なことで喜べる自分がバカだなと思いながら、一言聞いただけで堕ちてしまうのもわかっていた。心はずっと、シズちゃんのことを欲していたのだ。 ただ話すだけでなく、卑猥な行為をして満たされるのを待っていた。 『全部俺の言う通りに、しろ』 text top |