「っ、いや…その、悪いのはこっちだから…っあ、ぁ!」 慌てて取り繕うようにそう言ったのだが、まるで狙ったかのようなタイミングで背後から突きあげてきてペニスが最奥まで達した。根元までしっかり埋め込まれて、求めていたものが与えられた。 でも頭の中はパニックになっていたので、両手で口を押えて後ろに向かって怒鳴りつけた。 「シズちゃん、なにするんだよ!俺は今ドタチンと話をして…」 「手前は今俺とセックスしてんだよ、余所事考えてんじゃねえ」 しかし返ってきた言葉は冷たく、それが胸に突き刺さった。そうしてそこでようやく、俺は事情を察した。どうしていきなりここで盛られたのか、ドタチンが外に居たのを知っているような素振りをしていたのか。 まさか、とは思ったが今のシズちゃんだったらやりかねないと思えるぐらい、険しい表情をしていたから。 「なんで、こんなことしたんだよ…っ、最初から、ドタチンに俺達のこと、見せつけるつもりだったのかよ!!」 「さすがだな、一瞬で見破りやがったぜ。でも手前が全部悪いんだからな」 「お、俺が悪いって…なんのことだよ!」 この体勢のまましゃべるのは辛かったが、全く動けなかったのでしょうがなかった。言葉を発する度に中も震えて、しかも随分と焦らされていたのでもっと欲しいと言っている。 でもこれ以上ドタチンの前で醜態を晒すわけにはいかなかったから堪える。しかしいつ動き出してもおかしくないぐらい、シズちゃんの瞳は余裕に満ちていた。踊らされている、と思った。 その上俺が悪いとわけのわからない因縁をつけられて、困ってしまう。しかし告げられた内容に、戦慄した。 「浮気、しやがったじゃねえか門田と」 「は……!?う、浮気!?どういうこと?」 一瞬焦ったが、思い返してみてもそんな覚えはない。いくら俺がドタチンと仲がいいからといって、浮気だなんて、一体何を見ていたのかと。 「昼休みに、俺の居ねえ間に…弁当食べながら随分といちゃついてたじゃねえか」 「は?昼休み?弁当って…?」 「おい待て静雄、そりゃ言いがかりだ…!」 必死に昼間の事を思い出そうとしたのだが、シズちゃんが居なくて寂しかったということしか覚えていなかった あと一緒に弁当を食べたけれど、俺は今日自分のは持っていなかったし、作れないぐらい余裕がなくて苛ついていたことは思い出せた。でもドタチンと何を話したかとかは、すっかり忘れていた。 興味が全くなかったから。 「門田は黙ってろ!まあこいつは鈍感だから、好意に気がつかなかったのかもしれねえけど、俺は許せねえんだよ。おしおきしてやらねえと、気が済まねえ」 「好意…?おしおき、って…なんだよ」 ドタチンとシズちゃんのやり取りを見ながら、俺は首を傾げた。好意、と言われた意味もわからなかったし顔を顰めていやらしい単語に嫌悪を示す。しかし向こうは、構わずにはっきり言った。 「だから、門田にいやらしい姿を特別に見せてやんだよ。こいつが実はすげえマゾで、俺にベタ惚れで、何も逆らえねえことを教えてやるんだよ」 「シズちゃんッ!!」 さすがにそれには怒りを通り越して憎しみを覚えた。こんなにはっきりと逆らえないと言われると、好きな気持ちを弄ばれているみたいで嫌だったから。 しかも誰にも秘密だったのにあっさりとバラした挙句に、いきなりこんなセックスしているところを見せるだなんておかしいとしか思えない。どうしてそこまで怒っているか、俺には意味がわからないし。 「うるせえな、ほら色っぽい声も聞かせてやれよ」 「や、やめ…て、っ…うぅ、く…あ、うぅ…」 「抑えてんじゃねえよ、さっきみたいに喘げ」 突然密着していた腰を動かし始めて、俺は慌てて唇を噛んだ。しかしそれを遮るようにぬるついた指先が唇に押し当てられ、そのまま抉じ開けられる。 慌てて逃れようとしたが、顔も背けられなくて余計にガラスに押しつけられる。そうして俺の下半身にも手が伸びてきて、勃起している性器を突然ぐりぐりと指先で弄られた。 「ふあんっ…!あ、や、めれ…っ、ひぁ…もう、やだぁ、っ…」 淫らな体はすぐに律動に合わせて蠢き始め、少し強めなペニスへの刺激にじんわりと涙が滲む。これではさっきの、俺がマゾだという言葉をそのまま現しているみたいで嫌だった。でも全部事実だ。 こうされれば、頭の中が快楽だけで支配されて聞かせたくない音色で呻き声があがってしまう。仲のいい友人の前で、痴態を見せていることも忘れてしまいそうで。 でも痛い程視線を感じていたので、恥ずかしさやもどかしさは失わなかった。するとすかさず告げられる。 「さすがだな。淫乱な臨也くんは、好かれてる奴に見られていつもより感じてるみてえだぜ」 「んあっ…え…?好かれて…?」 「…っ、静雄それ、は…!」 すぐにはシズちゃんの言っている意味が理解できなかったが、何度か目を瞬かせながらドタチンの方を見て、耳まで赤くなっているのに気がついて。そうしてようやく、悟る。 すっかり忘れていた昼間の会話の内容まで蘇ってくる。どうしてシズちゃんと俺が仲がいい話をしていたのか。俺のことを察してわがままを聞いてくれていたのか。 何も言わないけれど、いつも考えていることを察してくれて優しくしてくれていたのか。その気持ちに、胸が高鳴った。 「そういう意味で、俺の事…好き、だったの?」 「臨也…」 確かめるように問いかけると、さすがにドタチンは俺から視線を外してうな垂れた。その態度が、間違っていないことをはっきりと示してくる。 その姿を見ていて、悪いことをしてしまったと後悔の気持ちが浮かぶ。あまりにも鈍感だった為に、大切な友人を傷つけてしまったことに申し訳なくて。 こんな形で真っ直ぐな気持ちを知ってしまった上に、見たくもない情事をこっちのせいで見せているのだ。罪悪感が一気に押し寄せてくる。それなのに。 「なあ、今イきそうだろ…手前?」 「っ、あ…!ちが、う…まって、いうなよ…っ、くうぅ」 「好かれてるってわかって、嬉しかったのか?なあ、そうなんだろ!」 全く俺の気持ちを聞いてはくれないシズちゃんが、追い打ちをかけるように事実をつきつけてくる。シズちゃんのことが好きなのに、ドタチンに好かれていると知って、こんなところを見られて。 それでその背徳感が快楽に繋がってしまっている変態だ、とはっきり示されたようで最悪だった。 そんなことはない、と否定したいのに唇がその言葉を紡いではくれない。変わりに、股間をまさぐられて達しそうになっていて、感極まった声があがる。 「やだ、ねえ…っ、あ、ちょ、っと…やらぁ、あ、んぅ…ひ、うぅ…ちがう、からぁ、あ…」 「別にイってもいいぜ。ほらすげえエロいイき顔見せてやれよ」 「だめ、だって…ぇ、はぁ、あんぅ…やだ、やっ、やあぁ、あ…ふあんっ、あふぁ…!」 必死に抵抗するのに、全く抗えない。突かれる速度も、肉棒を擦られる速度もあがっていって視界が歪む。もうダメだと思いながら、やだやだと口で否定することしかできない。 そうして本当に達しそうになっていると、顔を逸らしていたドタチンが恐る恐る俺の方を見つめてきた。一枚のガラス越しだったが、声はだだ漏れでその瞳に欲情の色が浮かんだような気がした。 その瞬間に、頭の中が真っ白になる。 「み、ないでっ…お、ねがいっ、あ、ひぁあぁ、あらめぇ…ひ、もちいっ、あ、んあぁ、ううぅんはあああ…!!」 こんな姿を見ないでと言ったはいいけれど、その時には遅くて欲望を解放していた。吐き出された白濁液は窓に飛び散って、そこを白く汚した。 目の端に溜まっていた涙がこぼれ落ちて、喪失感が胸を襲う。数少ない友人の気持ちを踏みにじった挙句、酷いところを見せてしまったのだから、嫌われると思った。 シズちゃんは好きでどうしようもないけれど、大事な友人も失いたくはないのだ。どっちも、今の俺には大切なのだ。 想いは違っていても、二人共かけがえのない存在なのだ。それを、ぐちゃぐちゃにしてしまったのだと思うと悲しかった。 「はぁ、あ、っ…ご、めんね…ドタチン…」 ぼろぼろと涙を零しながら、肩で息を整えて言わなければいけないことを告げた。 「おれ、っ…シズちゃんが、好きなんだ…うぅ、こんな酷いことされても、ダメなんだ…幻滅させて、ごめん」 どうしてこんなことになってしまったのかと、暗い気持ちになりながら勝手に涙が次から次に溢れてきて苦しかった。そうして、シズちゃんにも誤解させてしまったことを悔やんだ。 だって振り返ったら、さっきまで怒っていた表情が変わっていて今まで見たことがないぐらい悲しそうな顔をしていたから。 text top |