教室に残っていろと言われて素直に従うわけにはいかなかったので、放課後になった途端に校舎内の教室をしらみつぶしに探し始めた。でもいつもはすぐ見つかるのに、気配すら掴めない。 そうしてようやく全部を回り終えたところで、辺りも少しだけ日が落ちかけてくる。このままもう今日は学校には戻って来ないだろうと思いながら、階段をのぼり自分の教室に向かっている途中で。 「…っ、うぐ…ん!?」 背後から腕が伸びてきてあっと思った時には片手で口を塞がれ、そのまま扉の入口から教室内に引きずられた。人の体を軽々と抱えながら壁際に背中を押し当てられ、正面の人物に告げた。 「な、なにするんだよッ!」 「教室で待ってろってメールしたのに約束を破ったのはどっちだ?」 当然のことながら相手は俺を呼び出したはずのシズちゃんで、あまりにも普通に告げられたのでため息をついて肩を竦めて笑う。 メールに返信はしていないし、あんな強引な内容で約束なのは筋違いだろうと思ったからだ。怒鳴りつけてやろうとしたところで、しかし別の悲鳴があがった。 「んあ…っ!?ちょ、ちょっといきなりどこをさわってるんだよ!」 「うるせえな、どうせ待ちきれなかったんだろ?本当は早く見つけて欲しかったんだろ?」 突然俺の股間部分を鷲掴みにしながらそう告げられて、俺はただ顔を真っ赤にするしかできなかった。別に期待していたわけでもないが、まるっきり待っていなかったわけでもない。 昨日喧嘩したままで朝からシズちゃんが居なかったので、寂しかったのは本当だ。だからなんとか仲直りをしよう、ぐらいには考えていた。 でもあまりにも横暴すぎる態度に、その考えが瞬時に消えて叫んでいた。 「そんなことない!お、俺は…別にシズちゃんに会いたくて残ってたわけじゃないし!もう二度とさわらないでよ、離してってば!!」 「じゃあもうつきあうのをやめるって言うのか?」 「そうだよ、別れる!別れてやるから!!」 ほとんど反射的に出てきた言葉に、しまったと思った時には遅かった。別れると宣言してしまった自分をすぐに嫌悪したが、一度口にしたものを取り消すなんてできない。 ごめんと謝ることだって、できないのだ。だから、お願いだから別れるなんて賛同しないでくれと願う気持ちでシズちゃんの顔を見た。すると。 「別れてどうするんだ?他の男のところに行くのか?」 「え…他の男…?っ、でもシズちゃんより優しくて慰めてくれるような相手ならいいかもしれないね」 唐突に何を言いだすのだろうかと思ったが、とりあえず黙っておいて適当に言葉を吐いた。他の男なんて誰も思いつかなかったけれど、嫌味としては充分だ。 しかしこの流れは完全にマズイと焦りながら、顔を逸らして唇を噛む。するとさっきまで押さえつけられていた手が解放されて、告げられた。 「じゃあそいつのところに行けよ。行けるものならな」 「は?…まあ、どっちでもいいよ。シズちゃん以外だったら誰でもいいから」 心の中で自分の告げたことにダメージを受けながら、一瞥だけしてシズちゃんの前を普通に通ろうとした。でもその瞬間ものすごい力で腰を掴まれて、そのまま窓際まで引っ張られた。 カーテンの影に体を投げられて、格好悪く尻もちをついてしまう。一体何事かと顔をあげれば、ものすごい形相で睨みつけてくる視線と目があった。 「誰でもいいなら勝手に行くんじゃねえよ」 「…は、ははっ、やっぱりシズちゃん俺と別れたくないんだ?」 「当たり前だろうが。つーかそうか、てっきり他に好きな奴でもできたかと思ったんだが勘違いか」 「はあ?よくわかんないけど、盛大な勘違いだね。だいたい俺が怒ってるのはあのエッチな画像のついたメールの件で怒ってるだけだから。好きな奴なんて、他にできるわけないだろ」 一体どこをどう誤解すればそんな話になるのかわからなかったが、シズちゃんの考えることがわからないのはいつものことだ。深くため息をつきながら立ちあがってはっきりと告げる。 シズちゃん以外に、別れて駆けこむような相手はいないと。するとあからさまに顔を綻ばせて、顔の前に手を差し出してきた。 「そうかそりゃ悪かった。恥ずかしがる手前がかわいくて、ついな」 「だからそういう嫌がらせさえやめてくれれば…もういいけど」 まだ怒りはおさまっていなかったが、かわいいと言われて喜ばないわけがない。シズちゃんからそう褒められることはめったにないので、少しばかり嬉しかった。 仕方なく左手を伸ばして握ると俺が立ちあがれるように引っ張ってくれたので、その場に勢いよく立つ。しかし足元がぐらついてよろめきかけてしまう。 「うわっ…!?」 「おい危ねえだろ」 慌てて腰を掴まれて支えられたので倒れることはなかったが、カッコ悪いなと思う。でもシズちゃんの前ではそんな姿はたくさん見せているので、今更だった。小声でありがとうと告げる。 するとそのまま足の間に体を割り込んで密着すると、耳元で囁かれた。このままここでシようと。 「もう、しょうがないな…若いから仕方ないよね」 頬が熱くなるのを自分で感じながら、とりあえず腕を振り払って脱いでよとぶっきらぼうに告げる。すると待ってましたとばかりにベルトを外し始めたので、こっちもぎこちなく脱ぎ始める。 本当はもっと人の来ない場所でしたかったのだが、どこかに移動している時間も惜しかった。散々煽られて、こっちもその気になっていたから。 「今日はちゃんとローション用意してやったから、すぐ入れていいよな?」 「ちょっと、それ買ってきたの?もしかして、朝からそれ探しに行ってたんじゃないよね…?学生服姿相手に売ってくれるわけ…」 「俺が買ってきたんじゃねえ。絡まれた奴にお願いして、代わりに買って来て貰ったんだよ」 その言葉になるほどと思った。今朝俺がけしかけた相手には年上の奴も混じっていたので、のした後に詰め寄って命令すればいくらでも従ってくれるだろう。 こういうエロいことになると頭が回るんだな、と呆れながらポケットから取り出されたローションの容器を複雑な表情で眺めた。 ほぐすのが面倒ですぐ突っこみたいと言うから、その為にはローションが必要だと言ったのは俺だ。だからその通りにしたのはいいとして、実物を見るとなんだか気恥ずかしくなる。 最初にエッチなことをいきなり経験させられて、それから毎日のようにいろんなことを試したり試されたりして。随分と変わったなとしみじみ思うぐらいだ。 「これを俺のに塗ればいいんだろ。こうか?」 「しょうがないから俺もこっちに塗っておくよ」 むず痒い気分だったが、身を乗り出してシズちゃんの手の上に乗っていたローションを掬い取って、体勢をずらした自分のそこに塗りつけた。くちゅ、という音と同時に冷たい感触が伝わってくる。 最初の時以降はこんなもの使ってはいなかったので、久しぶりだった。シズちゃんの舌で舐められて焦らされるのもよかったが、それなりにぬめりがある方が気持ちがいいのは確かだ。 もうほぼ毎日こういことをしているので始めほど抵抗感はなかったが、自分で指を入れるかどうかは一瞬迷った。すると見透かしたように指摘される。 「あん時みてえにオナニーショー見せてくれねえのか?」 「な…ッ!?そ、んなことするわけないだろ!」 慌てて顔をあげて反論したが、じっと期待しているような瞳を向けられているのはなんとなくわかっていた。きっとわざわざ買ってきたのは、これを見たいからという気持ちもあっただろう。 俺にとってはふざけるな、と怒鳴りたい気持ちだった。また携帯で動画を取られたりしたら、いかがわしいことに使われるのは目に見えている。 でも手の届くところに本人が居るのに、わざわざそういう対象としてそれらを使われるのはいい気分ではなかった。だったら言えばいいのにと。どちらにしろもどかしくてしょうがない。 「なあ、俺が胸舐めてやるから手前は後ろを弄ってくれねえか?」 「だからどうして、しないといけないんだよ!」 「見てえんだよ、頼む」 そこで急に頼むと真剣な表情で詰め寄られて、言葉が出なくなる。今までこんな風に真っ直ぐな瞳で見られながら言われたことなんて、一度も無い。 だから困惑するのは当たり前なのだが、シズちゃんに限って押しに弱いのは自覚していたので、ヤバイと思った。いや、ちょっと待ってと反論したかったのに、立て続けに告げられる。 「もういじわるしねえから。ちょっとぐらいはわがままも聞いてやるから、なあ臨也」 「…っ、いじわるなんて二度としないでいつもわがまま聞いてくれるならいいけど…シズちゃんがそれできるなんて思えない…」 「そうか!悪いな!!」 しかし言葉の途中で遮られて、しまったと我に返る。本来の意味とは全く違う解釈をしてくる相手なんだと、それがすっかり失念していた。 違うんだと訂正しようとしたのだが、ローションのついた手が伸びてくる。そうして汚れないように反対側の手でシャツをたくしあげて、それから胸にぬるつく指先を押し当てた。 「ちょ…っ、あ、待ってってば!!」 静止の声をあげて必死に体を捩ろうとしたが、窓の近くに追いつめられていたのでそれ以上は下手に動けない。一応外から見られる可能性もあったからだ。 でもそれが全部仕組まれたことなのだと知った時のショックは、大きかった。 text top |