「臨也…?」 「わかってる、こんな時に何を言ってんだって思ってるでしょ?でもさ見たんでしょ?俺がどんな目に遭ったか。さっきだって、夢に魘されて下着汚しちゃうぐらい、まだ体が……」 消えそうなる声を必死に絞り出して、伝えなければと心ばかりが焦った。気持ちはそのままでも、変わってしまったことがあるのだと言わなければいけなかったから。 俺にはシズちゃんが、必要だったからすべてを話さないといけないのだ。 しかし言葉は途中で遮られるように、シズちゃんの顔が近づいてきて唇を塞がれた。 「ん…っ、う…ふぅ、く……ぅ」 これまでとは明らかに違っていて、突然噛みつくような乱暴なキスをしたかと思うと、口内の奥まで舌が突き入れられた。そうして中の壁を撫でながら、舌に絡みついてきた。 こんなにも激しい口づけなんて、シズちゃんからされたことがない。だから驚いて目を瞬かせていたけれど、すぐに閉じた。すると肩を抱かれて頬に手を置かれながら、もっともっと淫らに吸い付いてきた。 まさかこうされるとは驚きだったけれど、嫌ではない。それどころか、嬉しくて胸が張り裂けそうなぐらい締めつけられた。 あの男に何度もキスをされて、淫猥にされた体が勝手に反応を示していたけれど、ずっとそれが辛かった。シズちゃんだったらいいのに、と何度も思った。 だからまるであの出来事を塗り替えるように、もっと強く激しくされるのは、幸せなことだった。これで忘れられるのではないか、と。 「はぁ、っ…んうぅ、は…あ……」 ぴちゃぴちゃと湿っぽい水音が室内に響いて、どろりとした唾液が口内で混じりあい一つになっていく。互いの呼吸が間近で聞こえて、それがどんどん早くなっていく。 俺はとっくに反応していて、心地よい疼きが体の奥底から襲ってきた。小刻みに震えながら、浸っているとやがてシズちゃんが離れて行った。 「ん、ぁ…っ…」 「涎垂れてるぜ」 「…ッ!?ごめ、っ…」 すぐさま言われたことがあまりにも恥ずかしくて、手の甲で拭おうとしたのだが、また顔が近づいてきてぺろりと唇の端を舌で舐められた。それを見て、かあっと全身が紅くなった。 今まではこんなことはしなかったのに、どうしたのかと逆にびっくりするぐらいだった。 「遠慮しなくていいからな。あのビデオは全部見なかったけど、手前がすげえエロかったことは覚えてる。あんな男が変えたのは腹が立つが、また俺が変えてやる」 「変える、ってどういうこと…?」 「もっともっと、エロくしてやるって言ってんだよ。いっぱい喘がせて、気持ちいいって言わせてやるからな」 「それ、本気…?」 何を突然言うのかと思ったら、真剣な表情で俺の体を変えると本気で告げてきたのだ。ただでさえ相当動揺していたのに、もっと動悸が早くなっていって恥ずかしさで逃げたくなってしまう。 つい癖で腰を引いて離れようとしたのだが、簡単に許しては貰えなかった。嫌なわけではないのだが、シズちゃんの口からエッチなことを聞くのがいたたまれない気分だったからだ。 「慰めろって言っただろ」 「まあそう、だけど…その…」 「煽ったのは手前じゃねえか。優しくしてやりたいって考えてたのに、それが吹っ飛ぶぐらい物欲しそうな顔で迫られたら、抑えられねえよ」 「えっ?ちょっと、俺のせい……っ、う!?」 確かに切羽詰まっていたけれど欲しくてたまらないわけでは無かったのに、どうやらシズちゃんのやる気に火をつけてしまったらしい。瞳の奥は、いつもより欲情しているように見えたから。 あんなビデオを見て気持ち悪い、ではなくエロかったという感想を持たれたのはむず痒かったが悪くは無い。でもだからといって、好きな相手の手でこの体を暴かれるのはまだ怖かった。 やっぱりまだ早かったのかもしれない、と考えていると手がズボンに掛けられて脱がされるのだとわかった。 「あ、いや、いいよ俺自分で脱ぐから!」 「脱がしたらダメか?」 一瞬だけ悲しそうな表情をした後にそう問われたので、何も反論できなくなってしまう。それを肯定と取ったのか、部屋着を脱がす手を動かし始めた。 二人でシズちゃんの部屋に住んでいた時は、それこそやりたい放題だった。俺もわがままばかりを言っていたので、喧嘩だって絶えなかった。セックスだって数えるほどしかしていない。 こんなまるで恋人同士みたいな雰囲気よりは、喧嘩の延長線上みたいなものだった。酷くされてはいないが、ぞんざいに扱われていたのは確かだった。 だから俺も不安で仕方が無かったのだけれど、今はもう違う。本当はさっさと俺に脱いで欲しいのに、自分から脱がすなんて言って気づかってくれるぐらいには。 「あんなすげえこと平気でしてたのに、脱がされるのが照れ臭いとか、手前はほんとあれだよな」 唐突に言いながら、ズボンの次は下着をおろそうとしていてさすがにそこが反応し始めていた俺は恥ずかしさで顔を逸らした。 「あれって、なんだよ」 「だから……かわいい、つってんだよ」 「!?」 目を合わせていなくてよかった、と安堵したのはニヤつきそうになった変な顔を正した時だ。そんな表情を見られたら、俺は絶対に死にたくなる。それだけはご免だ。 それにしてもこれまでだったら絶対にそういうことは口にはしなかったのに、あっさりと告げられて破壊力は絶大だった。褒めるようなことだけはしない、と思っていたのに。 慌てていると、その隙に一気に下着も取られてしまって余計に動揺した。こうなることぐらいわかっていて、今更なことだったのに。 シズちゃんの前では、やっぱりどんな行為も照れ臭いらしい。 「キスだけで感じた、のか?」 「そういうの、言わなくていいから…っ」 「いいじゃねえか。教えろよ臨也」 股間のモノを見られたので両手でそこを覆ったのだが、手首を掴まれて見せろと言いたげに目線を向けられた。言葉に詰まったが、渋々力を抜いてしまう。 冗談で言っているわけじゃないから、余計に性質が悪いのだ。熱い視線でせがまれたら、断れるわけがない。こんな状態では顔も見れなかったのだが、急に顎を掴まれて上を向かされてしまう。 「なに、っ…!?」 「さっきのよかったか?」 「……わ、かってるだろっ!」 まだその話なのかとあからさまに顔を顰めながら怒鳴ると、なぜか笑われてしまう。 「だから手前の口から聞きたいんだよ」 「そんなの」 「あんな恥ずかしいことは言えたのにか?ここで俺が思い出させてやったほうがいいか?」 「や、やだよ…ッ!!」 ここまで口がうまかっただろうかと思えるぐらい、こっちが言いくるめられていて頬が熱くなる。こんな俺が一方的に弱い立場の関係ではなかったのに、これも変わったせいなのだろうかと。 でも弱みを握られているのと同じぐらい、ビデオに撮られた淫らな行為は誰にも言えなくて、ことあるごとに持ち出されたら負けてしまう。 この俺が撒けてしまうなんて、と。 「じゃあ素直に言えるように、すりゃいいんだろ」 「え…ま、まって……っ、あ、うぅ……!?」 嫌な予感がすると感ずいた時には一瞬で体勢をまるっきり変えられて、うつぶせにソファの上に寝そべるように転がされていた。丸出しになっている尻を、シズちゃんの大きな手が掴んで揉んでいた。 そんな変態的なことをされたことは、ほとんどないというのに。 「気持ちよくとろとろにして、俺のが欲しいって絶対言わせてやるから覚悟しろ」 「言うわけ、ないだろ!」 売り言葉に買い言葉だったのだが、勢いで叫んでからしまったと思った。もっとしおらしくしたかったのに、それどころではなくてああダメだなと自己嫌悪に陥ったがそんな暇はなかった。 どんな格好をさせられているのか、すっかり忘れていたのはもうしょうがなかった。 text top |