it's slave of sadness 3 | ナノ

『わかってるよね?人には逆らったらダメだよ。それからまだ自分で使い方わからないかもしれないから、こっちで感度あげて淫乱な体にしておいてあげたからね』

家を出る直前にそう言われて、はじめは意味がわからなかった。
けれど指定された場所に辿り着いて、何十人もの男の人達に取り囲まれた時になってやっと、体がおかしいことに気がついた。
狭い部屋に押し込まれてこっちは逆らう気なんて毛頭ないというのに、なぜか手足に拘束具をつけられてしまう。想像していたのと、何かが違うと思った。

「あの、俺逃げる気なんてありませんから。だからこれ邪魔なんで…外して欲し……」
「こういうのは雰囲気が大事なんだぜ。ヤル気満々の子より、無理矢理されて嫌がってる方がいいっていう心理が君にはわからないかな?」

眼前に近づかれて囁くように言われて、確かにそういうデータがあったなと思い出した。けれどやはり俺には同意できなくて、ただ従うしかなかった。
言われるとおりに動くことしか、まだできないのだから。
何人かの男達が体中に手を這わせてきて、たったそれだけのことなのに背筋がぞくぞくと震えた。どんどん服を脱がされていくが、こっちも協力するように動いてズボンと下着が脱がされた。
その時にはすっかり全身に力が入らなくなっていて、これがさっき言っていた体の変化のことかと思った。

「さすがアンドロイドだな、はじめての癖にもう感じてやがるぜ。こりゃあ中も濡れてたりするんじゃねえか?」
「薬使わずに従順なのはいいよな。こいつを今から最高の淫乱に育てあげられるなんて、最高に興奮するよなあ」

次々に吐かれる言葉の意味は充分に理解していた。けれど、反論はおろか拒否すらできない。本当はこんなの嫌なんだと思う気持ちと、逆らえない規約との間で心が潰れそうだった。
けれどこの苦しさを逃れる方法も、知っている。
楽しむのが一番だと、臨也くんの言葉を借りるならそういうことだった。
俺は津軽や臨也くん以外の相手で楽しいと思うことなんて、できそうにないというのに。
けれどここで自分を変えていかなければ、津軽を助けることも、振り向かせることもできないのだということはわかっていた。だから決意したのだ。
冷たい床の上にぺたんと座っていたのだが誘導されるように四つん這いの格好にされて、あまりの恥ずかしさに頬が熱くなった。
照れている場合などではないのに、羞恥心がそわそわと腰を揺らした。しかしそれを勘違いされたようで、いきなりお尻に手が伸びてきた。

「あっ…!」

それを始まりとして次々と手が体中にまとわりついてきて、生あたたかい人の手がそわそわと肌の上を這い回っていく。しかし気持ち悪い、と思ったのは一瞬ですぐに別の感情が生まれてきた。
掴み方は人それぞれで優しく撫でるようなものから、握り潰されるのではないかと思うぐらい強いものまで。それらの動作すべてが直接体に響いてきて、むずがゆい気持ちになった。

「なに…なに、これ…なんなの…?」

戸惑いの言葉に答える者は誰もいなくて、全員が一様に卑下た笑いを口に浮かべて嘗めるように俺の頭から爪先を見つめてきていた。その視線に心臓がドクンと跳ねた。
嫌な汗が噴き出すのと一緒に手が震えて体は嫌だと拒否反応を示しているというのに、目は迫ってくる男達に釘付けだった。

「怯えててかわいいじゃねえか?いかにも初めてって感じが。人形みてえにしてるわけじゃねえし」
「これで女なら最高なんだが、まぁこれだけ綺麗なら文句ねえよな。しかも顔はあの折原臨也だしな」

こっちに向かって何かを言われているが、まるで頭の中に入ってこない。自分のことを言われているはずなのに、全くそんな風には聞こえなかった。
どうして、と思っていたら唇から変な音が漏れだした。

「あ…っ……ッ、あ……ん、ぁ……?」

それが自分の声なんだと認識できるのに、数秒を要した。どうして急にこんな変な声が出ているのか全くわからなかったが、即座に検索をするとこれが感じた時の声なのだとわかった。
結果はわかったというのに、どうしてかもやもやしたものが余計に広がって、あろうことか視界が歪んだかのように見えた。
壊れてしまったかと思った次の瞬間には、瞳から一筋水がこぼれ頬を伝った。

「え……?これ、な…みだ……?」

目から出る水が涙というのだと教えてくれたのは、津軽だった。
それははじめて臨也くんに言われてお茶を入れようとした時、どうしていいかわからず謝って熱い部分を掴んでしまって、あまりのことに薄っすらと涙が出てしまったのだ。
大丈夫かと津軽に尋ねられて、目元に指がふれてそのあたたかい水をふき取ってくれた時に教えてくれたのだ。
その涙がどうして今ここで流れているのか、全くわからなかったけれど、ただ悲しい気持ちになった。
涙にはたくさんの感情を現すことができて、嬉しい時、悲しい時、辛い時など様々だったけれど、これはあまりよくない方の涙だった。

「はぁ…っ、あ……は、ん……ぅ」

しかし混乱している間にどんどん男達の行為はエスカレートしていって、その度にあられもない音が口から飛び出していく。
俺だけの特化した機能の中に歌を歌うことが含まれていたので、何度かそれを津軽や臨也くんの前で披露したことだってあった。それなのに、今は全く違う音が漏れていく。
まるで自分の声ではないみたいに甲高く、ほとんど悲鳴に近かった。俺はこの音が嫌だった。でも吐き出せば吐き出すほど、男達はそれを喜んだ。

人を喜ばすことは、好きだ。
津軽や、臨也くんが俺がしたことで笑ってくれたのは純粋に嬉しかった。
だったらこの人達が喜ぶことは、俺の喜びでもあるはずなのに、苦しいと思うのはどういうことなのだろうと考えていたら、誰かの声が頭の中に流れ込んできた。

『素直になればいいんだよサイケ。気持ちいいんだって認めればもっと楽しめるし、君は最高の能力を持っているんだから…それを使って津軽を手に入れるんだろ?』

突然のほんの一瞬の通信だったが、臨也くんの…マスターの言葉はしっかりと記憶された。

「き、もち…いい……これ、が……?」

それを認めた瞬間に、全身がピクンと痙攣しどこかのスイッチが入ったかのように膨大な情報が開放されていって、その一つ一つを解読していった。
さっきから後ろをさわっている人達がなにをしようとしているのか、これからなにをされるのか、予測する事ができた。
後はもう実践をするだけで、よかった。
少し前までの不安も、苦しさも、悲しさも一切が消えてなくなっていた。変わりに口元に柔らかく笑みを浮かべて、これまで一度も出したことのない音色で言葉を紡いだ。

「あの……きもちいい、こと……はやくしてください」

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