「おい新羅ッ!もう待てねえ、今から池袋走り回ってくるから、場所がわかったら携帯にかけろ」 「待って、待ってよ!今居場所わかったって連絡あったから!見つかったんだよ、臨也が!」 慌てて新羅の部屋を飛び出しリビングで大声をあげながら玄関に向かっていると、見つかったという声が聞こえてきたのですぐ引き返した。そうして睨みつけながらどこだ、とぶっきらぼうに尋ねた。 なぜか俺の言葉に一瞬迷った後、盲点だった場所を告げてきた。 「新宿の、臨也の事務所だよ」 つまりは、あの男に対して臨也が自宅を明け渡したという意味だった。 意識はある。でも自分の状況がよくわからなくて、その上何もかもがもう面倒で抵抗や拒絶を口にしないどころか、男の言うことに全部従っていた。だから、家を教えろと言われて俺はそうしてしまった。 自宅のベッドに寝かされていることはわかるが、それ以外はもう本当にどうでもよかった。男は昼間は居ないので仕事にでも行っているのだと思うが、帰ってきても、帰らなくても興味がなかった。 相手が現れれば媚びるような言葉を吐いて、自分からセックスを懇願するが、それも前にそいつに言われたことだ。帰って来たら、そうしろと言われたからしているだけだ。 そこに、俺の意志は無い。捕まってこんなことをされて随分経つが、俺自身の気持ちが薄れていくような感じだった。信じられないが、薬のせいだけではなく生きる気力さえ失っていた。 この俺が、ここまで堕ちてしまうなんて未だ信じられない。でも、愛する相手に裏切られてこんな目に遭っているのだから、しょうがなかった。 いや、別にシズちゃん本人は何もしていない。 たまたま偶然喧嘩した後に会うことができなくて、それでこっちが巻き込まれただけなのかもしれない。俺の映像を録画して送っているという話だったが、まだそれを見ていない。 見ていないどころか、本当は届けていないかもしれない。だから、何も知らない可能性の方が高い。 だから、来ないのは当たり前だと。 ましてや、もし俺と別れたと思っていたら一生来ない。来るな、と届くかどうかわからないメッセージも送った。だから自分から何かをしなければ、二度と逃げられない。 この家に連れて来られたのは偶然だったが、必死になれば逃げることだって可能になったのだ。這いつくばって部屋から出て、縛られてる縄さえ解ければ何もかも可能なのだ。 けれども、そこまでの気持ちがまるで沸かなかった。諦めていた。逃げたところで、どうなるのかと。シズちゃんには会いたくないし、みっともない姿も見られたくない。 何かを言われたり、問い詰められたりするぐらいなら、ここに監禁され続けた方がマシだというのが俺の考えだった。 男は俺が頭がおかしくなったのだと油断しているから、いくらでも隙をつけれるのに、そうしないただの臆病者でしかなくてため息をついた。 「はぁ、っ…ん、ふぅ、く…」 少し身じろぎしただけなのに、甘い声が口をついて出た。そんな自分が嫌なのに、もう戻れなかった。この体はもう、快楽に弱くて誰にでも反応を見せるほどに最低だ。会える、わけがないのだ。 卑猥な恰好で縛られてバイブやローターで、相変わらず敏感な部分を責められながら、ぼんやりと考え事をしていた。すると急に扉が開かれて、男が入ってきた。 一瞬だけ眉を潜めたが、すぐに微笑を浮かべて誘うような艶っぽい声をだした。 「大人しくしてたみたいだな」 「…っ、あ、はやく…して、しよう。俺と、セックス…」 「待てよ。今日はまたおもしれえもん買ってきたんだよな。あんた昨日余計なことを言ってただろ?だからお仕置きが必要だと思ってな」 そう言いながら袋から男が取り出したのは、猿轡だった。存在ぐらいは知っているが、実際に見たのは初めてで、どこでこんなマニアックな物を手に入れたのだと驚いた。 でもそれに対して、反応はしなかった。もう、そんな元気がない。だから嫌だなと頭では思っていても、それだけだった。 すぐにそいつが両手に猿轡を持ち、近づいてきた。そうしてボール部分を口に押しこまれる時に、くぐもった声だけが出た。 「ん、ぐっ…うぅ、ふぅ…っ」 「これで目隠しすりゃ、最高の絵じゃねえか。卑猥な道具突っこまれながら身動き取れなくて、目も口も使えなくて」 どうしてこいつはこんなにもマニアックなものが好きなのかと、人の趣味を心の中で笑う力もなかった。少し前まではからかって面白がることもできたのに、それさえも億劫だった。 袋から取り出した目隠しも当てられて、視界も完全に遮られた。でももうそれも慣れ、怖さはあまりなかった。 むしろ、少し興奮するぐらいだった。見えない状態でセックスすることに、快感を覚えて突然与えられる刺激に敏感に反応する。そんな体になっているのだ。 「じゃあ、このままするか?して欲しいんだろ?」 「んーっ…っ、く、ふぅ、うん」 鼻から抜ける声がさっきとは違い色気を含んでいて、猿轡をされてもそれなりに雰囲気は伝わるのだなと感心した。するとすぐに男がベッドの上に乗りあげてきて、俺に近づいてくる。 そうして、バイブを引き抜かれるのだと思っていたが、それを掴んで出し入れし始めたのだ。 「う、んっ…!ん、ん、っ…ふ、うぅん、っ、う…!!」 「こりゃおもしれえな。いつもみたいにうるせえぐらい喘ぐのもいいけど、あんたの声を奪ってるっていう気になって興奮するな」 いきなり与えられた刺激に耐えられなくて、受け入れている後孔はびくびくと麻痺するように震えている。悦んでいる証だった。二本入っているうちの一本を動かされていたが、それだけでも充分だった。 伝わってきた振動で腰が跳ねて、根元を縛りつけている自身も刺激が遅い、胸の先端にテープでつけられている乳首も反応した。 とにかく、どこもかしこも気持ちが良くて、ただまともに息ができないのだけが辛かった。早速隙間から唾液が垂れ始めて、声をあげない方がいいのだと知った。 でも、抑えるなんてできない。だってもう、そんなことに意味は無いのだから。 「二本はどうだ?好きだよな、あんたぶっといバイブ二本挿しがイイんだよな?」 「んうっ、ふ…うぅ、ぅ、っ…んく、ぅ…!」 遂にはもう一本のバイブまでも抜き差しされ始めて、刺激がひっきりなしに与えられていた。片方引けば片方を突き入れて、常に中が擦れて快感を与えられる。 あまりの心地よさに、体を何度もビクビクと麻痺させながらどんどん絶頂に追い上げられていく。そうしてあと少しで一度目の射精を迎えるというところで、玩具は止められた。 わざとだ。こうやって焦らすのが楽しいのだと、こいつは知っているのだ。 「残念だったな。でもあんたが欲しいのはこれじゃねえんだろ?本当は、別のもんだよなあ?」 「…っ、う……ふ、ぅ……」 二度ほどこくこくと頭を振って頷くと、男の嬉しそうな下品な笑い声が聞こえてきた。それがひとしきり終わるのをじっと待ちながら、内心は早く早くと思っていた。 こんな中途半端で放置されるのが、一番嫌なのだ。 「ほんと最高だぜ。じゃあちんぽぶちこんでやるよ、なあ?」 「んっ……」 ゆっくりと息を吐いて落ち着かせていると、バイブが二本そこから引き抜かれてぬるりとした生あったかい肉棒が、入口に押し当てられた。 ドキドキしながら、刺激がおとずれるのを待ち望んでいると、信じられないことが起こった。 ドンッ、グシャッ、という音と共にどうやら下の階が揺れて一瞬息を飲んだ。そうして直後に乱暴な足音が、全速力でこの部屋に向かっているのが聞こえてきた。 「おい、待てよ」 「…っ」 男の警戒したような低い声が聞こえてきて、そうして数秒も経たずにこの部屋の扉が勢いよく開かれた。そうして怒声がはっきりと聞こえてきた。 「ふ、ざけんじゃねええええっ、臨也から離れやがれッ!!」 目を塞がれていても、声だけでそれが誰かなんてわかった。こんな状況で助けに来れる相手なんて、一人しかいない。一人しか、知らない。 だから名前を呼びたかったのだが、猿轡をされているし、もっと別の理由でできなかった。 「やっと気がついたのか平和島?でも随分遅かったよな、それにこれが見えるだろ?」 俺の首元にはナイフの刃が押し当てられていて、脅していることがすぐにわかっただろう。だから声すらもあげられずに、呼吸を繰り返すことしかできなかった。 text top |