「臨也くん、起きてよ!」 「ん…あれ?サイケ?えっと、俺どうしたんだっけ?」 「ねえ体とか大丈夫?どこか痛くない?辛くない?」 「平気、だけど……」 いきなり抱きつかれて、俺の胸に飛び込んできたサイケに戸惑いながらどこか痛くないかと問われて、別に変わりはないと答えた。頭をゆっくりと撫でてやりながら、自分の姿を見てみた。 でもそういえば、なぜかいつもの黒い服ではなくてサイケが来ていたような真っ白なシャツにコートを何故か着ていて、逆にサイケはいつもの俺の黒い服一式を着ていた。 俺は耳に大きなヘッドフォンをしていて、伸びたピンク色のコードは白いズボンの中に入りこみ、その先はある場所に巻きついて縛っていた。 後孔にはぶっとい振動したバイブが二本捻じ込まれていて、常に刺激を与え続けていたがこうしていないといけないのだから、おかしいことは何もなかった。これが、俺の普通だ。 「なんで、俺がサイケの服を着てるんだ?サイケが俺の服を着てるんだ?」 「ん?それはねえ、今から楽しいことをする為に必要だからだよ。見てよすごいでしょ、瞳の色だって俺は赤くすることができるんだよ。臨也くんと変わらないでしょ?」 「ふうん、まあいいけど。でも俺の体で悪戯するなら、止めろよ。許さないからな」 「やだなあ、そんなことしないよ。ちょっとした、実験だから」 いつもはピンク色をしている瞳が赤く変わると、本当に俺自身が目の前に居るようで、変な違和感を覚えた。本人達以外には、見分けなんてつかないぐらいそっくりだった。 だから俺の姿を使ってとんでもないことをしようとしているのなら、阻止するべきだった。そういう意味で強く咎めたのだが、全く聞かずにニコニコと笑っていた。半ばもう諦めるしかなかった。 「それでさあ、ちょっと臨也くんにお願いがあるんだけど、少しの間だけあの中に入っていて貰えないかな?」 「は?これってクローゼット?こんなところに置いてすごく不自然なんだけど…一体なんだよ」 「今からちょっと人が来るみたいでさあ、その人が俺と臨也くんを見分けられるか見てみたいんだ。サイケの存在はまだ隠していたいから、この中に入って待ってて欲しいんだ。興味あるでしょ?臨也くんも見たいでしょ?」 「なるほどね…」 確かに俺とサイケの正体を見破られることがあるのか、興味はあった。多分見破れない、という結果が頭の中で弾き出されたが、実際はどうなるかなんてわからない。 好奇心を抱くのは当たり前で、確かに俺だって考えたことは少なからずある。でもそれをしたところで、得られる結果は有益でないと判断したので止めたのだが、サイケは気になるのだろう。 これ以上は逆らえないし、多少のわがままぐらいはかわいいものだったので、仕方がないと了承した。 「待っている間暇だろうからさ、臨也くんはオナニーしてればいいよ。ほら、振動強くしてあげるから」 「えっ!?んはあっ、あ、ちょっと…サイケ、こら急にっ、あ、はぁ…!」 突然中に入れられていた二本のバイブが振動し始めて、一瞬で快感が全身を襲ってきた。さっきまで撫でていた腕がいつのまにかサイケの背中にしがみついていて、甘い吐息が漏れた。 強すぎず、弱すぎない心地いい責めに脳が蕩けてすぐにぐずぐずになっていく。薄らと涙が浮かんで、唇が小刻みに震えた。 「やぁあっ、ん…う…も、ねえ、これ…待ってよ、動けないっ、てぇ」 「もうこんなので動けなくなるなんてだらしないなあ。淫乱だからしょうがないか、ほら俺が運んであげるよ」 「ん…っ、う……はぁ、ありがと」 ニッコリと優しく微笑みながら顔が近づいてきて、軽くキスをしてくれた。そうしてすぐに俺の腰と膝の裏を手で掴み、軽々と持ち上げて女の子にするような抱き方をしてテレビの横まで運んでくれた。 そうして黒いクローゼットの扉を開けると、人が一人なら余裕である広さのそこに下ろしてくれた。そうして扉を見て、俺は驚いた。 「なにこれ!?マジックミラーになってるの?」 「すごいでしょ?今日の為に特注してたんだ。だから、しっかり臨也くんも見ててね。ついでにオナニーもしてていいよ。でもバレたらダメだよ。臨也くんは今サイケの姿なんだから、バレたら俺が大変なことになるって、覚えておいてね」 「わかったよ」 扉の内側はなぜかマジックミラーになっていて、外から見た時は全くわからなかったが、様子が全部わかるようになっていた。あまりにも準備万端で絶句した。 そうしてバレないようにと再度言われて、頷いた。確かにこの姿で人に見つかるわけにはいかない。俺の大事なサイケだけは、しっかりと守らなければいけないと気を引き締めた。 すると返事をしたところで、玄関から来訪を知らせるチャイムが鳴った。それにお互いハッとして顔を上げると、目が合ったサイケが言った。 「来たみたいだね。じゃあ今から、全部解除するから。臨也くんの記憶を、俺が弄る前に戻してあげるから、だから楽しんでね」 「え……?な、にを言って…?」 そうして扉が閉められてしまったが、サイケの姿が消える寸前に頭のどこかで変な感覚が沸いた。すぐに我に返って、そうして息を飲んだ。 一体どういうことか理解できなかったが、さっきまでなかった記憶を思い出したのだ。そうして、今の自分の姿とか状況なにもかもが、狂っていることがようやく蘇ってきた。 (な、な、なんだこれ!?俺、なんで、今まで忘れてたんだ。っていうかバイブ入れらてるなんて、変だし、そうだ確かウイルスが流行ってるとかそういう話をしていて、それからおかしくなって…それで) 声には出さなかったが、体がわずかに震えた。そうしてぞっとして、慌てて出て行こうと扉に手を掛けて、しかし聞こえてきた声に遮られた。 「手前はなんで一週間以上も連絡無かったんだ。どういうことだよ!」 「ごめんね、仕事が立て込んでてさあ。シズちゃん」 (そう…そうだ、俺は…シズちゃん…!サイケなんかじゃない、俺が好きなのは、恋人なのはシズちゃん…な、のに!どうして!?) 久しぶりに聞いた声にじんわりと涙が溢れそうだった。思わず扉に力を入れて押し開けようとしたが、そこで重大なことに気がついた。 俺は今サイケの姿で、マスターはサイケで、恋人はサイケでシズちゃんではなくなってしまったのだと。 俺は、人間でありながら人間から逸脱した存在に、アンドロイドに操られる人形になったのだと。 ましてや、あんなにも一方的に快楽だけを与えられて、バイブを仕込まれても悦ぶ体になってしまっただなんて、言えるわけがないと。会う顔がない、と思った。 こんなにも近くに、手が届く場所に居るのに、何もできないのだと絶望感が襲ってきた。きっと、サイケの狙いはこれだ。俺にショックを与える為だけに、こうしたのだ。 (こんな姿になって、言い訳なんてできるわけない。シズちゃんの知らないエッチな体になっただなんて、知られたくない。好きなことも、恋人だったことも忘れて何度も強請った俺が、今更会おうだなんて許せるわけがない。俺が、俺を許せない) クローゼットの外側では、俺の姿をしたサイケとシズちゃんがソファの前で立ち話をしていた。もうそれを見るだけで充分だった。出ていけないけれど、一目見れてよかったと喜んでいると。 「ん……っ、ぅ!?」 唐突にバイブの振動が最強にあげられて、強すぎる快感が体を襲った。必死に両手で口元を押さえて、なるべく動かないように固まったが、苦しかった。 オナニーしてればいいという意味は、こういうことだったのだ。慌ててズボンを下ろしてバイブを抜こうとするが、途中で手が止まり許されなかった。その行為を禁止されている証拠だった。 勝手に勃起したペニスの根元にはヘッドフォンから伸びたコードが巻きついていて、顔を動かすと締めつけて痛みを与えてくる。空イきができるので戒めは無駄だったのだが、動揺で何度も痛みが襲う。 「…ぁっ、ん…っ……ふ」 必死に音を立てないようにため息をだけをついているが、どんどんバイブが悦楽を引き出していく。そうして遂に掴んでいた先端を、自らぐりぐりと動かして刺激を与え始めた時。 バレないように集中していて二人の会話はロクに聞いていなかったのだが、突然少し大きな声が聞こえてきた。 「おい、なんか今音がしなかったか?」 その場で固まって、真っ青になったが、すぐに逆に頬が紅く染まっていった。 text top |