乱れ、咲き、散りるれど 3 | ナノ

「はぁ、は、ッ……お、俺……?」

欲望を放ったおかげで朦朧としかけていた意識が一瞬でクリアになり、寸前まで口走ってしまったことや言われたことが頭の中で何度もぐるぐると回っていた。

(シズちゃんが…俺をすごいって褒めて微笑んで…この俺に、愛してるって…?なんだよそれ)

信じられなかった。本当に夢のような言葉の数々だった。
日頃殺しあっている相手から愛しているなんて告げられたら、混乱するに決まっている。
いくらセックスをする仲とはいえ、唐突過ぎてあまりにもおかしい話だった。
しかもだ。
俺のほうは愛の言葉を囁かれたのが嬉しくて、感極まって――絶頂を迎えてしまうなんて。
ありえない。
これではまるでシズちゃんのことが好きみたいじゃないか。
いや、そんなことは絶対にないはずだ。
肩で息をして懸命に呼吸を整え目の端から涙をこぼしながら、かなりショックを隠しきれなかった。

「大丈夫か?俺より先にイッちまうなんて、こりゃ相当だな」
「…ッ!シ、ズちゃん……ぁ……」

尋ねたいことは山ほどあったのに、それらすべてがうまく整理できなくて途中で言葉につまってしまった。
わけがわからないことだらけだった。
付き合いはじめたきっかけはシズちゃんに声を掛けられたからなのだが、お互い利害が一致しての体の関係だけのはずだった。
喧嘩し合うぐらいなら持て余している欲望をなんとかしたほうが有用的だと珍しくまともなことを言われて、面白そうだからと乗っただけの話だ。少なくとも俺はそう思っていた。
だからたまに会って求められれば応えたし、俺から誘うこともあった。男同士だから嫌だというのはあまり考えなかった。
いがみ合って派手に殴りあうよりは遥かにマシな行為だったし、それなりに楽しめたからだ。
学生時代から一緒で腐れ縁が続いていたが、最中のシズちゃんの表情は見たことがなくて内心わくわくしていた。
俺なんかの体に必死にしがみついてくる様を見て、優越感に浸ってさえいた。殺しあわなくても切羽詰った顔が見れるなんて最高だと思った。
今までなにをしても思い通りにならなかったシズちゃんが手の内にあるのが純粋に嬉しかった。ただそれだけだった。
だから二人の間には愛だの恋だのそういう話は一切なかったはずなのだ。

「まぁ性欲だけはあり余ってやがるんだから、すぐに回復するだろ?こっちはまだなんだから最後までキッチリつきあってもらうぜ」
「なッ!?まだ話が…っ、うぅ、ん、んは…ッ!!」

はっと気がついた時には既に遅く、再び中に入れられているものが動き始めた。忘れかけていた衝撃に、甘い音色が口から漏れた。

(だ、めだ…わけのわからないまま、また流される…!俺はまだ自分の気持ちさえもわかってないのに…)

思いっきり唇を噛みしめながら考えようとするのだが、内で暴れるものが思考の邪魔をしてきて憎らしかった。

「ん…ぅ…ふうぅ、はッ…」

しかもさっきまでより前後の動きは早くなり、最奥の壁を撫であげるほど深く突きいれられたかと思ったら入り口付近まで一気に引き抜かれる、という動きを何度も何度も繰り返されていた。
圧倒的な質量で翻弄され続けているうちに、自分自身がもまたすっかり勃ちあがって復活してきているのを苦い気持ちで認めるしかなかった。

「こ、んなの…も、や…だ…ッ、うぅ…!!」

一度はおさまりかけていた涙をぼろぼろとこぼし、胸の内に広がってきた疼きと快楽に腰を揺らして悶えた。
拘束されたままの両手を擦りあわせながら、この手がせめて使えればシズちゃんの気持ちを確かめるために腕を伸ばせるのにと思った。

「やだ、じゃねぇよ。まだまだこれからだ」

急にシズちゃんの顔が目の前まで近づいてきてキスでもされるのかと思ったのだが、予想と違いすっと通り過ぎて俺の左耳に生暖かいものがふれてすぐ傍で水音がした。

「ひっ、あ…そこ、だめッ…ん、うぅ…!」

耳たぶを舐められているのだと気がついた時にはこれまでとは違う種類の声があがっていた。
敏感な部分を舐められているというだけではなく、前に乗り出て体をより密着されることで塊が体の奥深くまで強引にねじこまれて腰が震えたからだった。

(なんか、急に擦られてるとこが…中まで響いてきて、ッ…すごい気持ちいい…?)

シズちゃんの動きに合わせて腰の部分が何度も勝手に跳ねて、全身をガクガクと揺らしていた。
快楽を煽るかのように耳元でもぴちゃぴちゃと舐められる音が響いていて、頭の芯がぼうっとし理性がどんどんと沈んでいった。

「うあッ…あぁ…ん、うぅ……」

口元が自然と緩み気がついたら笑っていた。もうなにもかもがどうでもよくなったからだ。
今この瞬間が楽しければ、それでいい。愛だの恋だのがあっても、なくても。
こんな気持ちは久しく忘れていた。
学生の頃シズちゃんと毎日いがみ合っていて、逃げ回っている時に感じた高揚感が戻ってきていた。

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