「やっぱり、やめた」 「は……?」 突然はっきりと言われた言葉に、面食らってしまった。なにか聞き間違えただろうかと目をパチパチさせて首を傾げるが、何の反応も返ってこなかった。 そのまま重たい沈黙が数秒続いて、ようやく低い声で呟いた。 「なんか、これは違うんだよ。わかんねえけど、ここで無理矢理しちまったらなんか大事なもんを失う気がする。だから、しねえ」 「えっと……聞いていいかな?ここまでしておいて、セックスしないって言ってるのかな?」 「俺はこの鎖を外したくねえ。両想いだって嘘をついてる手前ともしたくねえし、自分の気持ちだって嘘をつきたくねえ。嫌われてるってわかってて、体だけ繋げるなんてそんなのおかしいだろ。する時は、本心からお互いわかりあわねえとダメだ」 シズちゃんの言い分に、ただぽかんと口を開けて呆然とするしかできなかった。まるで意味が解らない。どうあっても俺を逃がしたくないことだけは伝わってきたが。 お互いわかりあわないとダメなんて言っているけれど、そっちが俺の事を嫌いな癖に一体何を言っているのか意味不明だった。でもなんとなく、もしかして迷っているのかと思った。 今はよくわかっていないけれど、俺に対して何かしらの感情を抱いているからこうやって捕まえて、時間が経てば憎しみも好意に変わるかもしれないと考えてくれているのだろうか。 そうだとしたら、これはチャンスだった。 俺の方を振り向かせる、人生最大のチャンスだった。 「ねえちょっと聞くけど…本心から俺とシズちゃんがわかりあえるって、具体的にどういうことかな?俺はどうしたらいい?」 「どうしたらいいって、そんなの言っちまったら嘘になるだろうが。嘘だけは、だめだ。手前が嘘をついてねえってわかるまで、だめだ」 「嘘か……なるほどね」 言葉を噛みしめながら、必死に頭の中で考える。俺が嘘をついているかついていないかは、どうやらなんとなく見分けられるらしい。でもそれは完全ではない。 俺がシズちゃんのことが好きだという本心だけは、どうしても受け入れられないようだ。 でもつまりは、そこさえなんとか認識させることができたら、嘘なんかついていなくて好きだと認められればシズちゃんも俺のことを好きになってくれるかもしれないというのだ。 向こうは俺に対してはっきりとした好意ではなくても、お互いわかりあうことができたらセックスができるようになるというのだ。随分とややこしい話だ。頭が痛くなりそうだった。 どうしてストレートに認めてはくれないのかと、怒鳴りつけたいぐらいだった。 「じゃあ、とりあえず……って、なッ!?な、なにをしてるんだよッ!!」 「いやだから、セックスはできねえっつうか入れられねえけどここ使うぐらいならいいだろ?このままじゃ手前だって辛いじゃねえか」 「ま、待ってよ!?まさか人の尻で自慰するっていうの?はは、バカなこと言わないでよ。俺はいいから……っ!?」 一人で考え事をしていたので、いきなり生あたたかい物体が後孔の入口に擦りつけられて驚いた。慌てて背後を振り向くと、まだ大きいままのシズちゃんのペニスが堂々と宛がわれていた。 しかもそこを自慰に使うと言い出してきて、怒りはいきなり沸点に達した。そんなの冗談じゃない。 中に入れてないんだからセックスじゃないなんて、中出ししないから先っぽだけ生で入れさせてくれと懇願してくる常識知らずの男のようだった。許せるわけがない。 「ほら、手前だってイきてえだろ?前と後ろ同時に弄ってやるから」 「は、離してよ!俺はそんなの嫌だよ!これ外してくれるならセックスしていいって言ったのに、約束も守らないのに自慰はしようだなんて虫が良すぎる!」 「約束は守るって言ったのにそりゃ悪かった。でもしょうがねえだろ、臨也のことになるとなんか自分を見失っちまうんだよ。何がいいか悪いかとか、わかんなくなる」 「やめ…っ、あ、んああぁ…あ、指、抜いてよぉ…っ!」 反論して、こんなのおかしいと抗議をしたのにまるでいうことを聞かない。しかも俺だから正常な判断ができない、俺が悪いとでも言うような口調で告げてきた。 なんて身勝手なんだと怒鳴りつけようと息を吸いこんだが、すぐに体の中の異物感に呼吸が乱れた。こっちの反応は無視をして、指を二本同時に後ろに突っ込んできたのだ。 一瞬で快感が背中をかけのぼっていって、おもわず締めつけてしまったのが自分でもわかった。なんてことをしてしまったんだと後悔したが、遅かった。 「まだすげえひくついてるじゃねえか。出させてやるから、暴れんじゃねえぞ」 「は、ぁっ…こ、んなのやだっ…俺はっ、あ、んあっ…く、そっ!」 声は落ち着いていたが、後孔のすぐ下に肉棒を当てて、たっぷりとローションのかかったそれを前後に動かし始めた。同時に指も中で蠢かす。 やばい、と思った時にはあえぎ声が唇から飛び出していて逃れることはできなかった。どうやら後ろを弄られているのが相当気持ちがいいらしい。 俺は男なのになんでこんなところで感じてるんだと自分を叱咤したかったが、さっきまで本気だったのだからしょうがない。 「やべえ、声だけでもイけそうじゃねえか」 「へ、変態ッ!俺は、こんなの…あ、んうぅ、許さないっ、あ、はぁ…もうっ!」 背後から俺の背中に圧し掛かって、必死に腰を打ちつけてきたのでパンパンというぶつかり合う音だけが激しく響いた。セックスをしているわけではないのに、まるでそうしているような錯覚に陥る。 こっちは本気で好きなのだから、勘違いしてしまってもしょうがない。大好きな相手と性行為をしているのだと思い込んでもしょうがないんだ、と正当さを自分に言い聞かせた。 シズちゃんは声だけでイけそうだなんて言ってきたが、こっちは指だけでイかされようとしているのだ。セックスをするより変態じみている。 「ね…ぇ、っ…も、やめようよ…俺の自慰が見たいなら、するからぁ…」 これ以上肌を合わせていたら、本気で惑わされてしまうと思ったのだ。ただでさえ好きだと暴露して、本心まで晒してしまっているのに。このままだと、もっと好きになりそうだと感じてしまったのだ。 俺の事を好きにさせるチャンスなのはわかってはいたが、失敗した時のことを考えて、真剣にならないほうがいいのではと考えたのだ。 情が移ってしまって、今までのように取り繕うことができなくなるのではないかと。それこそ本当に、嘘をつくことができなくなるのではないかと。 やっぱり手前とは合わなかった、だから元の関係に戻るなんて言われて、平気な顔をすることなんてできないと。 好きでなければこんなのなんでもない振りでやり過ごせたのに、好きだから辛かった。一方的に使われるようなこの行為が苦しかった。 しかし、その時指がとある場所を軽く引っ掻いて、声が変わった。 「ん、ああっ…?あ、なに…そこ、っ、あ、なんで…っ!?」 「ははっ、ここ押すと食いちぎられそうなぐらい締めつけてんぞ。いいんじゃねえか、ここが」 「あっ、あ、んあぁ、は…う、そっ、やだぁ…シズ、ちゃ…っ、やめて、やあぁ、あ、んあ!」 鎖をガチャガチャと鳴らして必死に抵抗しようとしたが、がっちりと腰も掴まれていて逃れられなかった。みっともない喘ぎ声をあげていると、だんだんとシズちゃんの腰の動きが早くなっていく。 擦る速度も増してきて、つられてこっちの息遣いもコントロールできなくなる。指を激しく出し入れさせて、一点を狙い始めてきたのでもう途中で諦めてしまった。 「はあ、ぁあ…っ、あ出そう、っ…だめ、もうむりっ…!」 「俺もだ……ッ!」 「ふ、ああっ、あ、はやっ、あ、んあぁ、う…シズちゃ、あ、んああううぅぅ……!!」 根をあげた途端に指が引き抜かれて、今までで一番早く前後に体を揺すられてその勢いに乗るように自分自身の先端から熱い迸りが飛び散った。 目をぎゅっと閉じて悲鳴をあげながら、ビクビクと腰を震わすとお腹のあたりに何かがかかるのを感じた。暫く射精をして終わったところで目を向けると、信じられない量の粘液がお腹を白く染めていた。 しかもどうやらまだ全部出しきっていないようで、小刻みにペニスを震わせて先端から吐き出し続けていた。 「あ……っ、ぁ、俺…そんな」 呆然とそれを見続けながら頭の中は真っ白になっていた。こんなつもりじゃなかったのに、と思いながら膝から力が抜けた。ベッドに倒れかける寸前に、腰を掴まれて支えられた。 悔しさと恥ずかしさで即座にシーツに顔を埋めると、耳元に優しい声で囁かれた。 「なあ……早く俺のもんになれよ臨也」 text top |