凌辱教室 6 | ナノ

「ったく、こんなところで……?おい、それなにやってんだ?」

声のする方を振り返ろうとしたのだが、当然のように目の前を男達が囲っていて姿を確認することはできなかった。怒声はすぐに戸惑いを含んだ驚きの声に変わって、さすがに空気を読んだらしい。
こっちから姿を見えないということは、まだ向こうだって俺が見えていないはずだ。だからとりあえず手探りで落ちているはずのズボンを探そうとしたのだが、すぐに指摘された。

「逃げようたってそうはいかねえよなあ、臨也?」

見えてない癖に気配だけで逃げようとしてるのがわかるだなんて、本当にシズちゃんの勘とやらには呆れてしまう。けど、構っている場合ではなかった。このチャンスを逃さない手はないのだ。

「おいお前平和島だよな?悪いけど俺ら折原と遊んでんだよ、邪魔すんじゃねえよ。あぁそうだお前も加わるってんのなら歓迎するけどな」
「……う、わっ……ッ!?」

しかしすぐに男達の手が何本も伸びてきて、強引に首元を掴まれて床の上に再び放り投げられた。
痛みに顔を歪めながら手を突いて上半身を起こしたところで、後孔からどろりとした粘液がこぼれてきて、その感触が気持ち悪かった。そうしてふと前を見ると、今度こそはっきりと視線が合ってしまった。

「ちょうど今からこいつを犯すところだったんだよ。なあお前もこいつに恨みがあんだろ?」
「さっきなんか自分の指をケツの穴に突っ込んでオナニーまでしてたんだぜ。ほら証拠写真だってある、見てみるか」

その時俺は頭の中が真っ白になっていた。だって目が合ったシズちゃんの瞳の奥に、この男達と同じ凶暴な感情が見えてしまったからだ。ただいつもみたいに怒っているだけのものとは、違っていた。
男達の問いかけには答えないままで、ゆっくりと歩いてこっちに来る。その間もずっと俺からは目線は逸らさずにずっと睨みつけていた。けれど、その意味が分からなかった。
今までだってこういうことは何度かあった。俺が誰かに絡まれていて、まさに襲われる寸前というところに割り込んでくることぐらい当たり前だった。
でもこんな風に男達の話を聞いて何かに反応を示してくるなんて、はじめてだった。問答無用で俺相手だけに殴りこんでくるのが普通だったのに。怒りを堪えながら、一歩一歩近づいてくる。
俺は、知らない。こんなシズちゃんなんて、知らない。
まさか本当にこいつらの言う通りに、一緒になって犯そうとするのだろうか。と思いあたったところで、背筋がぞくりと震えた。

(なに…今の?まさか、俺…)

瞬間的に感じた感覚に、自分自身で驚嘆した。ありえない、ついさっきまでそんな感情を抱くことすらありえなかったのに。

(まさかシズちゃんに…欲情した?俺が?犯されていい、なんて……?)

自分の事なのに、まるで理解が出来ないまま傍に立っていた男の方に歩いて行って、目の前で携帯電話を受け取った。そうしてそこに映っていた映像を、確認したようだった。
男達に胸をまさぐられながらオナニーをして誘っていたところを、見られたのだ。瞬間的に耳を塞ぎたい気分に陥ったが、指先がぴくりと震えるだけでそうする気力は残っていなかった。
どんな最低な言葉を投げかけられるのかと身構えた、が。

「確かにこいつは人間として最低な奴だし、恨まれて当然の事しかしてねえが……お前らは人間以下の卑劣な事をしてんじゃねえか!そんなの見逃すわけにはいかねえ、いいか俺は臨也を助けるんじゃねえ、こういう事をしたあんたらが気に食わねえからぶっ潰すんだッ!!」

普段ほとんど無口な癖に、一気に捲し立てると間髪入れずに携帯を渡した男が教室の端に吹っ飛ぶ音が響き渡った。
そうして、驚きに目を瞬かせている間に次々と男達が投げ倒されるのを呆気に取られて眺めるしかできなかった。そうして数秒後にはシズちゃん以外に立っている者はいなくなっていた。
机や椅子は派手になぎ倒されたり壊されて、粉々になっているものもあった。暗闇に慣れてきた瞳には、しっかりと一人一人を蹴散らす姿が見えた。
それを眺めながら、鼻の奥がツンと痛くなり目頭が熱くて涙がこぼれそうになるのを、必死で堪えていた。さっきまで恐怖で小刻みに震えていたはずなのに、いつのまにか止まっていた。

「あーまだ殴り足りねえんだけどよお、お前らは邪魔なんだよッ!」

肩で息をしながら倒れている男達を何人か一度に掴んで、それからさっき入っている時に壊した入口から廊下に向かって投げ外に放り出した。
ゴミ箱にゴミを放るように軽々と飛んで行き、そうして誰一人いなくなったところでやっと、こっちを向いたが俺は驚きに声さえ出せなかった。

「で、手前はこれどうする?随分といい写真撮られてたみてえだけどよお」
「……っ、な…!」

両手に握っていたのは、携帯電話でそれも一台や二台ではなかった。多分あいつら全員が持っていた全部の量だ。まるで事前に俺が写真を撮られまくっていたのを知っているかのようだった。
シズちゃんにしては、あまりにも用意周到すぎる動きに、恐る恐る尋ねた。

「ねえ、まさか…見てたんじゃないよね?さっきの」
「知らねえなあ?ちんぽハメて下さってお願いしてた手前なんて」
「…そ、れっ…!?」

あまりの羞恥心に眩暈がした。ここまではっきりと言えなんて一言も言ってないのに、嫌がらせのようにさっきまでの情事を見ていたと告げてきて焦ってしまった。
取り繕うこともできずに喉の奥がひくりと震えて、何と返すべきか迷った。一生懸命に頭の中で考えていると、とんでもない言葉を吐き捨てるように言った。

「俺はよお、今日は一日中手前に引っ掻き回されてイライラしてんだよ。掃除当番だってサボっちまったし、会ったらぶん殴ってボコボコにしようと思ってたんだけど気が変わった。この携帯を返して欲しけりゃ、さっきあいつらとしようとしてたことを俺としろ」
「なに…言って……?」
「尻の穴弄るのが大好きな臨也くんは、まだ満足してねえだろ?犯してやるってんだよ、わかんねえか?」

今度こそ絶句した。目の前に立っているのはシズちゃんのはずなのに、まるで別人だった。いや、でも俺を射抜くような視線で睨みつける瞳は欲望に濡れていて、間違いない。本気なのだ。
どこをどう考えたのか知らないが、俺とセックスをしたいと言っているのだ。こんなの驚かないわけがない。予想の斜め上すぎて、思考が追いつかない。
止まったはずの震えが戻ってきそうなぐらい怖いと思ったが、それ以上に心臓の音が煩かった。バクバクと鳴り響いて、考えるのを邪魔しようとしてくる。まるで流されろと言っているみたいに。
確かにまだ体は熱い。さっきだって、犯されていいだなんて思ってしまった。だから脅されなくても、自分からどうにかして欲しいと頼ったかもしれない。
利用するには、なんら躊躇する必要はない。けれども、迷っていた。そんな簡単なことでいいのかと。だから、見当違いなことを聞くのは気が動転してたからだ。

「ねえ…シズちゃんは好きな人とか居ないの?」
「あぁ?」
「いや、だからさあ…その、はじめてとか好きな相手としたいとかって思わない?っていうか、俺なに言ってんだ…はは」

口にしてみてから、あまりの恥ずかしさに自己嫌悪に陥ってしまった。慌てて視線を逸らし床を見つめながら、こんな酷い有様で一体何を口走っているのかと自嘲気味に笑った。
告白して両想いになってエッチをしようとしてるならいざ知らず、脅されて無理矢理迫られているのに好きな相手の話だなんて、怪しまれるのも無理はない。
これではまるでシズちゃんのことが好きなんだと言っているようなもので、とにかく落ち着けと自分自身に言い聞かせた。そんな葛藤なんて知らないシズちゃんは、真面目に答えた。

「そりゃこういうことは好きな奴としてえけど、できねえから脅してんだろうが。じゃなくて!これバラ撒かれてもいいのかよ手前は」
「え?じゃあシズちゃんは…好きな人がいるんだ?」
「いたら悪いかよッ!」
「……っ」

まさか答えが返ってくるなんて思わなかったけれど、それ以上に好きな相手が居るということに驚いた。これがいつもの喧嘩の最中で聞いた話なら、馬鹿にしてからかってやったところだ。
でも今の俺にはそれができなかった。倒れそうになっている体を押さえるように必死に両腕を抱いて、些細な変化を悟られないようにした。

俺も、好きな人ができたかもしれないんだ。

なんて言えるわけがなく、いつもどんな表情をして顔を合わせていたのかそれさえも思い出せなくなってしまった。

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