「いつからそんな嘘がつけるように、なったのかな?信じられない」 「あぁ、俺は何でもするぜ。手前が絶対に屈しないっていうなら、それを崩す為の嘘ぐらいついてやるよ。いくらでもな」 「シズちゃんの嘘なんて、聞きたくなかったッ!」 心からの悲鳴は声になって漏れ、部屋中に響き渡った。シズちゃんの嘘は、俺の心を切り刻んで深い傷をつけてきた。曝け出した本心に対して、深く切りこんで消えないものを刻んだのだ。 いつもみたいに嫌いだと言ってくれるだけでよかったのだ。それなのに、つかなくていい嘘をつかせたのは俺だ。 自業自得という言葉が頭に浮かんで、そこでふっと力が抜けた。 「なんだどうした?もう諦めたのか?」 「いや…もう、いいよ。それ握りつぶされるのは困るし、正直シズちゃんみたいに自力で大きくしたりできないみたいだから、そのまま指で中を気持ちよくしてくれない…?」 まだズキズキと痛む胸を堪えながら、ふわりと笑って懇願した。それが諦めに見えたのなら、そうかもしれない。俺は心を傷つけられるのを受け入れることにしたのだ。 抗い続けて受け入れなければいつまで経ってもここから逃げられないし、目的は本心を言い続けるという嫌がらせではない。惑わされるな、と言い聞かせて我慢をすることにしたのだ。 心が決まったのなら、あとはセックスをするだけだった。 「手前は優しくされんのと、酷くされんのと、どっちがいいんだ?」 「好きにしていいって言ったよね?」 「そうだったな」 優しくされるのと酷くされるのとどちらかと問われれば、どちらも嫌だというのが正しい。 自分の体を気遣うなら優しくされた方がいいに決まっているが、その場合は心が傷つく。俺に優しいシズちゃんなんて、偽物に違いないのだ。だから結局、どっちでもいい、どっちも嫌なのだ。 だから選ばせた。なんとなく答えはわかっていたけれど、俺の予想を外すのか、それとも予想通りなのかを確かめる為に。そして、選んだのは。 「じゃあ、痛かったら言え」 「な……ッ!?」 いきなりシズちゃんの顔が近づいてきたかと思うと、あろうことかそのまま唇を塞がれたのだ。キスをされたのだ、俺の予想の斜め上をいって。 あまりのことに頭が追いつかなくて、目を見開いた驚きの表情のまま固まっていた。そうして半開きただった口内に、前ぶれもなく舌をぬるりと捻じ込んできたのだ。 その時になってやっと慌てたけれども既に遅くて、肩をシーツに押さえつけられながら歯をなぞるように舐めてきた。その感触から逃れようと腰を捩らそうとして、しかしできなかった。 「ん、はっ……!?」 まだ差し込まれたままだった指を、中でグラインドするように動かされたからだ。おもわず熱い吐息が唇から漏れて、かあっと頬が紅く染まった。恥ずかしい、なんてものではない。 はじめての癖にキスしながら後ろを弄ってくるなんて信じられない、と苦々しい気分に陥りながら抵抗はしなかった。だって誘ったのは俺の方からなのに、もうやめてくれなんて言えるわけがない。 どこでこんなテクニックなんて覚えたのか問いただしたい、と別のことを必死に考えて刺激をやりすごそうとした。けれどさっきまで何の反応もなかったそこが、軽く形を保っているのに気づいてしまった。 「はぁっ…うぅ、く…は、あ、ちょ、っと……!」 「なんだ?どうしてもう降参か?」 「違うっ!い、息が苦しいんだって、あんまりがっつかないでよ。シズちゃん、下手なんだから!」 ぞくぞくと背筋から快感が駆けあがっていって、体の内側から疼いて腰が跳ねそうになったので、力をこめて頭を振ってキスからは逃れた。 残念なことにたった数秒しか口づけをされていなかったのに息があがってたので、下手だと罵ってやった。ついいつもの癖で、という感じだったのだがすぐに指摘されてしまった。 「あぁ、今のは嘘だってわかんな。なんだ、案外手前ってわかりやすいのか?そんなに、俺のキスが上手かったか?」 「……っ、う!?」 顔から火が出てしまいそうなぐらい恥ずかしくて、口をパクパク開いたり閉じたりしながらうろたえた。上手いわけじゃない、と反論したいのに全く何も言葉が出ない。 また適当なことを言えば、こうやってすぐにバレてしまうからと思ったのだ。確かにいつもシズちゃんに嘘をついている俺が本当の事を口にして、それがわかるのなら逆もわかるのだ。 今下手に嘘をつけば、それは全部知られてしまうのだ。これは厄介なことになったと、今更ながら気がついた。セックス関係で嘘を言えば、それはそのまま自分に跳ね返ってくる。 例えば気持ちよくない、と嘘を言ってしまえばそれは気持ちいいことになる。だからといって気持ちがいいなんて、いくらなんでも素直に言えるはずがない。 「あ……っ、うぅ…く……」 「どうした?何か言いたいのに言えねえって顔してるな。図星なんだろ、臨也くんよお」 「あぁ、もうわかったよ!確かに君のキスはよかったよ!これで満足だろ!」 確かに俺の本心を晒して惑わせてやるのが狙いだったが、自分が照れくさくて死にたくなるなんて無謀な作戦だったかと既に後悔しかけていた。でも解放させる為に、やめるわけにはいかない。 だから目線だけを逸らして、顔を見ないようにして叫んでやると、すぐ傍で笑い声が聞こえて蹴飛ばしたくなったができなかった。 とにかく落ち着いて、さっきまでみたいにシズちゃんを誘惑してやろうと思ったのだが、先に向こうが動いた。 「なあ、もしかして結構簡単に手前を手に入れることができんじゃねえのか?」 「えっ…?ん、あっ!う、あっ……は、うぅ、く…ゆ、ゆびっ、うそ、もう増やすなんて…むりっ…!」 「ゆっくりすりゃもう一本ぐらい大丈夫じゃねえか。それに手前、感じやすい体なんだろ?」 「そんな、こと……!」 まだ大してほぐしていないそこに、二本目の指を押し当てて強引に捻じ込もうとしてきたのだ。何が優しくするだ、と罵倒しようとして逆に信じられないことを告げられた。 この俺が感じやすい体だなんて勝手に宣言してきたのだ。 童貞に何がわかるんだバカ、と怒鳴り返そうとして、けれども意外にすんなり入りこんできた指のせいでかき消された。 「ん、あっ、あはぁあああ……!あ、あぁ…嘘だろ?また、入っ…て?」 「キツいけど入ってるぜ。ほら、わかんだろ?」 「ふ、はぁ…っ!あ、あぁ、んあぁ…う、動かすなって…ぇ、あ、うぅ……!」 あえぎ声をあげながら、自分の身に起こっていることがすぐには理解できなかった。痛みは無い。それはローションで指がぐちゃぐちゃに濡らされて滑りが良くなっていたからなのだが、認めたくない。 そのまま存在を誇示するかのように内側から叩くように擦られて、それだけで激しく息が吐き出された。しかも辛いからではなく、もやもやとした心地よさを体が感じ始めていたのだ。 抑えようとする声は止まらず、つはりは快感を得てきているといういことで。止めを刺すように、からかわれることになった。 「なあ、これってやっぱり気持ちいいからなのか?すげえぴくぴく締まってて、初めてじゃねえみてえだぞ」 「う、るさいっ!嫌なら、やめれば…いい、っ、あ、んああ、ぅ……!」 「誰も嫌だって言ってねえだろうが。こんなにおもしれえの、やめられるわけねえだろ。手前もエロい顔してやがるし想像以上にやべえ、もう入れていいのか?」 「だ、だから優しくするって言ったのはそっちだろ!嘘つき!!」 失礼なことを聞いてくる上に、我慢できないのか腰をそわそわと揺らしながら入れてきていいかと尋ねられて切れた。さすがに、これはない。もう少し堪え性があってもいいものなのに。 怒りも性欲も自分じゃ押さえられないだなんて、厄介にもほどがある。大声で怒鳴り散らしながら、なんとかして逃げ出そうと腰を引いた。些細な抵抗だとしても、こんなのを許容したくはなかったのだ。 歯軋りをしながら睨みつけようとして、けれどいきなり腰を抱えあげられてそれができなくなった。 「うわっ!な、なにする……ッ!?」 「後ろからのが辛くねえんだろ?こっちだって一応勉強したっていうか…」 「は?」 突然体勢を変えられて、今度はベッドに顔を埋めるような格好を取らされて、寝転がされた。そうして後ろから、と告げられてそういう意味かと納得した。 しかし勉強したというのはどういう意味かと、目線だけで振り返ればシズちゃんがどこかを眺めているようだった。その先を辿って、山のように積まれている雑誌を目にしてしまった。 「へえ、エロ本で俺の事を強姦する勉強をしてたの?」 「強姦じゃねえって言ったのは手前じゃねえのか。合意の上だったら、問題ねえんだろ?」 「…っ、クソッ!わかってるよ、そうだったよね。俺は君とセックスして、早くこれ外して貰うんだよね、うん覚えてるよ。あんなのでもちゃんと慣らしてくれたよね、わかったよじゃあ早くしなよ…いや…」 まさかシズちゃんが俺を追いつめるのにきちんと言葉を返してくるとは思わなくて動転したが、すぐに目的を思い出した。そうして傷つけられて忘れていた鼓動が、ドキンドキンと鳴り始めた。 こんなことにはなってしまったけれど、俺は今からシズちゃんと、するのだ。一生することなんてない、と思っていた行為を。 「早く入れて、シズちゃんので俺を気持ちよくさせてみてよ?」 最高の笑顔で無邪気に微笑みながら、恥ずかしくて爆発しそうな心臓をなんとか鎮めようと努力した。 text top |