「あ…ふ、うぅ……っ、は、ぁ……!」 途中で何かに気がついたかのように抵抗を始めたが、俺にとっては些細な動きだったので力でねじ伏せた。言葉を紡がせないように、乱暴に噛みつく勢いで唇を蹂躙した。 逃れようと首を捩らせれば体重をかけて逃さないようにし、吐息以外を口にしようとすれば無理矢理塞いでやる。それは、拒絶の一言が聞きたくなかったからだ。 気持ちいいことをするのはいいけれど、好きだと言われるのだけは許せない最低だと罵られるのを恐れたのだ。きっと臨也はこの行為だってお遊びのつもりなのだ。 俺の誕生日とは関係なく体を好きにしていいなんて嬉しいことを言ってくれたけれど、こいつが心を許す筈がない。だったら告白なんかせずに抱けばよかったのに、耐えられなかったのだ。 自分の気持ちに嘘をつきながらこいつを抱くことは、できなかったのだ。 「はぁ、あ……っ、あ、ま…って……く、るしっ、あ、はぁ……!」 「……悪い」 しかしやはり長続きはしなかった。どうあっても口を塞ぎ続けるなんて無理な話なのだ。だからと言ってさっきの布を臨也に突っ込むなんてもってのほかだ。 仕方ないと唇をゆっくり離して、目を細めながら見つめると虚ろな瞳からぼろぼろと涙をこぼしていた。苦しい思いをさせたのだから当然だ、と自己嫌悪に陥っていると震えるような声が耳に届いた。 「あ、っ、ふぅ…は、っ、すき…って……はぁ、あ、ほんと……?」 「あぁ、そうだ」 確認するような言葉に、短く頷いた。でも臆病な俺は最後の最後で顔を逸らした。これ以上は聞きたくないと態度で示したつもりだったが、か細い声は止まなかった。 「シズ、ちゃ…んは……おれ、がすき?」 「……何度も言わせるなよ」 一度言えばわかることなのに再度問いただしてくることに、苛立ちを覚えたので不機嫌を顕にしながら答えた。 そうだ好きだ、好きで好きでたまらなくて、抱きしめたくて、エッチなことだっていっぱいしたくて、手に入れたくて……と心の中でだけ募る想いを訴えた。もう声にする勇気は、なかった。 しかし俺なんかより頭の回る臨也が薬のせいで鈍感になっているのか、見当違いなことを言ってきたのだ。 「怒ってる、じゃないか…っ、ほんとは嫌いな癖に、なんで嘘なんか…」 「嘘じゃねえって!手前こそ、振るならさっさとしろよ!」 俺の事が嫌いなのは臨也のほうだろうと怒鳴りつけながら、やっぱり顔は見れなかった。あいつの表情を見たくなかったのもあるが、こっちだってみっともないところを見られたくなかったからだ。 しかし間髪入れずに、信じられない言葉が掛けられた。 「振る、わけないっ…!おれも、俺もシズちゃんが好きなんだよッ!!」 部屋中に響き渡るぐらい大声で叫ばれて、驚愕しながらも反射的に振り返り臨也の顔を覗きこんだ。嘘かどうか確かめる為だった。 そうして見つめた表情は、少し怒っているようだったがほんのり頬を染めていて素の表情に見えた。これまで何年も追い掛け回していた俺だからわかる、はじめて見る表情だった。 「マジ、かよ…?」 「それはこっちのセリフだって」 戸惑いながら呆然とそう呟くと、そんな俺に向かって臨也がふわりと笑いかけてくれた。みたことのないぐらい、綺麗な微笑みで俺は息を飲んだ。 こんな笑いを俺に向けているだなんて、未だに信じられなかった。両想いだったなんて、奇跡以外の何物でもないとも。 「臨也……」 「あのさあ、っ…お願いがあるんだ、せめて腕だけでもいいから外してくれないかな?逃げないから、だから俺にもシズちゃんを抱きしめ……させてよ」 衝動的に全身をリボンに絡まれた体を抱きしめて喜びに浸っていたのだが、すぐさま遠慮がちに声を掛けられて、我に返った。 あまりにも自分本位な行動が恥ずかしくて頬を染めながら、臨也の両手首を繋いでいた部分のみを破いた。するとすぐに背中に手が回されて、ぎゅっとしがみついてきた。 「やっと手を伸ばせた。よかった…最後までできないかと思ってた。なんだか泣き出しそうなぐらい必死な声してるのを、こうやって慰めてあげたかった」 「そうか…ありがとな」 俺よりも小さくて華奢な体を一層強く抱きしめながら、黒くて綺麗な髪を撫でてやると深いため息を吐いて安堵しているような仕草をしてきた。 心の中に幸せな気持ちだけが広がっていって、よかったと一人充足感に浸っていたのだが、臨也の体が突然ビクンと跳ねた。 「どうした?って、そうだよな…悪い。まだ何もしてねえのに勝手に満足してた」 「いや、べ、別に謝らなくていいんだけど…っ、こっちこそなんか雰囲気壊してごめん」 どうやらきつく抱いてしまった時に、臨也の体の敏感な部分を擦ってしまったらしい。さっきまで犯したくてしょうがなかったはずなのに、そのことも忘れて浸っていたのだ。 俺がそれを謝るとすぐさま向こうも謝ってきて驚いた。俺だってこいつに対して謝ったことはないが、向こうだって素直に俺に謝ってきたことなんてない。 そういうこともできるんじゃないかと、今更ながらに失敗したような気持ちになっていた。もっと早く告白していれば、これをとっくに手に入れられていたかもしれないことに。 後悔してもとっくに遅いのだけれど、自分自身の臆病な部分を苦々しく思った。だからもう二度と、悔やむようなことはしないと決めた。 「んなことで謝るなって。なんつーか先に酷いこと散々言ってイかせたのは俺だしな。でも手前も感じてたってことは、ああいうのが好きなのか?」 「え……?あっ、さっきのあれは、その…だから薬でおかしくなってたからだって!もう……っ、ひゃ、ああんっ!」 「そうだな。ここをこんなにひくつかせてるぐらいだもんなあ、臨也」 「…っ、あ、シズちゃ、んこそ…こういうの、が好きなんじゃないの?はぁ、あ、掻き混ぜなくて、いいからぁ……も、ぉっ!」 リボンを解いたのはまだ腕だけなのは、やっぱり俺がこういうプレイに興味があるという証なのだろう。実際に何度眺めても縛られている姿はそそるし、興奮する。 そう思いながら、実はこいつもまんざらでもないのではないかと考えていた。目隠しをされてはいたが、俺だとわかっててあんなに誘ったのが証拠だ。 俺に惚れてたからとはいえ、気持ちを伝えようともせずに体だけ割り開かれるのを許容するなんて、そういう気があったっておかしくないのではないのかと。だって現にこいつは。 「ほんと、エロいよな」 ローションたっぷりの後孔に無造作に指を突っこんで、傷つけないように配慮はしながら動かしてやれば、きゅうきゅうと指に食いついてくるのだ。 声はどうやらさっきより堪えているらしいのだが、ここは逆に早く欲しいと訴えているように見えた。だから俺は躊躇することなくいったん臨也をベッドの上に戻し、自分のズボンのベルトに手を掛けた。 そうしてさっきからずっと昂ぶっていていつ爆発してもおかしくないそれを取り出した。すると、奇妙な反応が返ってきた。 「は……?えっ、あれ?ちょ、ちょっと待って?シズちゃん、それ…何?」 「ちんこに決まってるじゃねえか。どうした、おかしいか」 「お、おかしいっていうか…いや、俺だって他の人間のソレは観察対象に入ってないからじっくり見たことはないけど…ちょっと規格外すぎるんじゃないの?」 「じっくり見たことねえってことはちょっとは見たことあんのかよ!誰のだよ!」 いよいよこれからという時に、臨也が真っ赤な顔をしながら俺の下半身を指差したので聞き返したのだが、規格外などと言われた。褒められている、ようには全く聞こえなかったが聞き捨てならない言葉だった。 だから誰のを見たのかと真顔で問い詰めたら、親とかおじいちゃんに決まっているなどと言われて拍子抜けした。こいつの口から親とかそういう単語が出ること自体が珍しかったが。 何年もこいつを一方的に見続けてきたのに、知らないことがたくさんあった。でも今から、そのうちの一つを暴くのだ。興奮するのは、しょうがなかった。 「まあそれなら別にいいけどよお。とにかく、そろそろいいだろ?」 勝手にさっきからビクビクと震えているそれを臨也の入口に添えると、体が硬直してさっきまでしゃべっていた口も動きを止めた。あぁ緊張しているのか、と思った。 でも俺は、こうやって肌をふれあっただけでこいつの気持ちがわかるのが、嬉しかった。それもこれも全部、気持ちが通い合ったおかげなのだ。 text top |