「聞こえてんなら最初から言やいいのによお、よくも騙してくれたよなあ?なあ今の状況わかってるだろいーざーやーくんよお?」 「そうだね…っ、完全に俺の失態なのは認める、けど…っあ、っ!それ、やめろ…っ、う!」 「おいおいさっきまでのはどうした?好きにしていいって?出したいって?」 俺が名前を呼んでやると、すぐにいつもの表情を取り繕うとしてキッと睨みつけてきた。しかし完全に今更な状態だったので、鼻で笑ってやった。 さっきまでのわけのわからない怒りは全部吹き飛んでいて、臨也は始めから俺だとわかっててあんなことを言っていたのかと思うと、嬉しくてしょうがなかったのだ。 普段は一切弱い姿すら見せはしないのに、あんなにねだるようにして縋ってきたのだ。この俺に。俺だと知っていて。 「もう一度頼んできたら、手前の言う事聞いてやるぜ。リボンを解いて欲しいんだったよなあ?」 「…う、くぅっ…ん、ふぅ…っ、だから、指やめてって…うぅ、シズちゃん……の癖に調子乗ってぇ…あ、ぁ!」 「いつもはすぐキレちまうが、今日ぐらいは俺も我慢してそっちが折れるまでつきあってやるよ。よかったな」 「は、っ…このリボン引きちぎってくれると思ったのに、そうはいかないんだね…っあ、うぅ、それ、やめ……ッ!?」 当然のことながら突っこんである指は、まだ中をくねくねと蠢いていてローションがそこからこぽこぽと溢れていた。口調だけは強がっているが、顔は真っ赤で目線を俺から逸らしていた。 俺にとってはその姿すらそそられていたが、臨也の口からもう一度強請る言葉を聞くまで抑え込むつもりだった。今の俺なら、こいつの為になんだってできそうだった。 キツいそこを探るように指先を押したりぐにぐにと動かしてみたりしていると、とある場所で急に声が変わった。 それまで必死に唇をを噛んであえぎを少しでも堪えようとしていたのだが、それができなくなったらしい。腰から下をビクビクを麻痺させて、目の端から再び涙を零し始めたのだ。 「ふあっ、あん…も、うやだぁ…シズちゃんの、前なのにっ、あ、こんな声嫌なのに、ぃ…っ、ひ、うぅく…熱い、あつ…」 「だから泣くぐらい辛いなら言ってみろって。手前のしてえこと、してやるよ。なあどこがいいんだよ臨也」 「あ、はぁっ!うぅ、ぁ…わ、かってる癖に…っ、おれに言わせたいだけ、だろ…んあ、っ!あ!はやっ、あ、やめ…やめてよっ!」 傍目から見ても随分と苦しそうにしているのに、なかなか強情でそのことに腹が立った。俺が自覚してなければあんなに淫らなことだって言えたのに、どうあっても口にする気はないように思えた。 多分さっきから弄ってるのは臨也の感じる場所のようで、ぽろぽろと涙は流すしさっきまでより甘い音色で啼いてはいるが、最後の一押しができなかった。 どうしたものかと、指をこねくりまわすのだけは止めずに考えていると、とあることが浮かんだ。だからわざと顔をずいと近づけて、片手で耳につけていたヘッドホンを取ってやった。 そうして赤く染まっている耳朶に軽く歯を立てるように噛みついた後、耳元で告げた。 「しょうがねえな、じゃあ外してやるよ。イきたかったんだろ?ずっと我慢してて苦しかったんだろ?俺の前で、はしたない声あげながら出せばいい」 「えっ…?あ、ま、待って!それ、もういいから…っ、イかなくていいから、ぁ、あ、はぁ!だめ、っ、今外されたら、ほんとに…やだ、やだって、ねえ!」 「よかったな、媚薬打たれたまま随分放置されてたんだろ?溜まってるよなあ、ほら好きにイきやがれ」 指の抜き差しは止めないどころか、一層激しく律動を繰り返しながら、根元のリボンに手を添えた。そうして反り返って苦しそうに震えているそこをゆっくりと撫でた後、結び目を引っ張った。 長ったらしいピンク色の戒めがほんの一瞬で解かれて、今にも大声をあげて泣き出しそうなぐらい必死に叫んでいた声が、息を飲むのがわかった。 鼻を抜けるような甘ったるいため息が聞こえた次の瞬間、喚き散らしながら縛られた腕や体を揺らして、俺の前だということを完全に忘れたかのように盛大に果てた。 「ん、ひあっ、あ、だめ、っ…あ、んはぁ、あ、でちゃ、うぅ、あ、やあああああううぅぅんぅ…っ!あふぅ、ひ、はぁん、あ、やらぁ、あつひぃ、んうぅ…!!」 「こりゃすげえな、どんだけ溜めてたんだ?つーか媚薬がすげえのか?」 白濁液をお腹に飛び散らせた後も、まだ全身をビクビクと震わしていて後ろをぎゅうぎゅうと締めつけていた。指に食いついてきて、これが俺のモノだったら、気持ちよかっただろうかと考えてしまった。 でも自分が快楽を得るよりも、今は臨也が乱れる姿を見たかった。こいつがこんなことになるなんて、この先二度と無いかもしれないのだ。 しっかり目に焼き付けておこうと、時折透明なローションを溢れさせながらまだ麻痺する姿を真上からじっくり眺め続けた。 「まら、イっれるぅ…ん、あぁ、ぅ…ひ、もちぃい、これ、しゅごいっあ、んあぁ、おかひぃっ…シズひゃ、んうぅ…」 すると向こうはどうやら、俺の存在を認識しながら頭がぐちゃぐちゃになったらしい。名前を呼びながら、うっとりと熱っぽい瞳で誘ってきたのだ。どうやら、天然でやっているらしい。 普段喧嘩するような時の憎たらしい笑みではなくて、ふわりと柔らかく微笑んでいて綺麗だった。こいつもこんな風に笑えるのだと、驚いたぐらいだ。 舌ったらずに子供みたいにたどたどしくしゃべりながら首を傾げる姿に、胸の中からもやもやしたものが沸きあがってきて、この顔を歪ませたいと唐突に思った。 もっと泣かせて、こいつの本心がもっとみたいと願ったのだ。 「気持ちいいか臨也よお。まだ媚薬がしっかり効いてんだろ?手前は、好きだよなあ気持ちいいことが」 「は、ふぅ…んっ…?なに…っ、あぁ、まらふるえれ、るっ…あつ、熱くれぇ、ひもちいぃ…きもひいぃ、のすき、すき…?」 「もっと、気持ちよくなりてえだろ?余計なことなんて忘れちまえ。そんで俺の為に、俺と……」 快楽に蕩けきった表情をじっと見つめながら、最後の最後で言葉に詰まってしまった。こうやって目の前に最高のプレゼントがあるというのに、このまま強引に奪ってしまっていいか迷ったのだ。 今まではきっかけもなかったし、気持ちを伝える勇気すらなくて、もやもやしながら過ごしてきたのだ。 後先考えずにここでしてしまっていいかどうか、考えたのだ。考えることは苦手なのだが、必死に考えて考えて――。 「んあっ…ふぅ…シズ、ちゃん……?」 「……ッ!」 急に神妙な顔をして固まった俺の事に疑問を持ったのか、意識がはっきりしてきたのかわからなかったが、艶っぽい声で名前を呼ばれた。 頭をガシガシと掻きながら臨也の方をじっと眺めると、薄目を開けて目尻に残った涙が頬を伝って流れていった。いつもよりぼんやりとしているようで、快感に流されて俺のことがわかっていないように見えた。 それなのに、どうしてこんなに切なそうに見つめてくるのか意味がわからなかった。 違う、勘違いするなと自分に言い聞かせていると、掻き消えそうなぐらいか細い声で、衝撃的なことを伝えてきた。 「はぁ、ん…っ、きもちいい、ことすきだよ…シズちゃん、のことも…っ…その…あの、っ、だから……さ」 一度ため息をはぁっとついて、気持ちを落ち着かせたところで。 「入れて…?俺は、いいから…したいんだ。シズちゃんと、きもちいいこと…を、したいんだ」 結局最後までは目を合わせていられなくて、頬を真っ赤に染めながら視線を逸らした。けれど俺ははっきりとこの耳で聞いていた。 「プレゼントとか、誕生日じゃなくて…関係なくて…そんなんじゃなくて、シズちゃんの好きにして、よ…」 「おい、臨也…?」 「お願いだから、っ…入れて。もう苦しい、ずっと苦しいんだ…ふ、うぅ、っ胸が、苦しくて…だから!」 さっきまでは確実に喘いでばかりだったのが、突然感情をすべて曝け出すするように泣きだして、内心驚いていた。堪えていたものを吐露するように、何かを訴えているようだった。 けれども俺には訴えていることがわからなくて、困惑していた。このままするのは簡単だが、それではいけないのではないかと本能のようなものが警報を鳴らしていた。 臨也の姿に感化されたのか、なぜか鼻の奥がツーンと痛くなって、泣きだしたいような切ない気持ちになった。でもやっぱりどうしたらいいのかわからなくて、わからないまま。 「わかんねえ、手前の言ってることが全然わかんねえ。けど俺は……」 指を引き抜いて、ベッドに寝そべっている体の上に覆いかぶさるように乗りながら、顔を近づけて告げた。 「ずっと俺は手前が好きだった。だから今日だけは、その気持ちのまま抱かせてくれ」 頼む、と心の中でも懸命に願いながらそっと唇を押し当てた。 text top |