「そこ、はいいって…っ、言ってるだろ…!はやく、突っこんで……あ」 さすがにもう行為を焦らされるのにも腹が立ってきていて、不快なことをおもいっきり態度に現していたら、ふとあることを思い出した。 本当だったら今頃は四木さんといつものようにセックスをしていたはずなので、それを見越してあることを仕掛けていた。わざと逆上させるようなことを仕込んでいたのだが、今目の前に居るのはシズちゃんで。 サーッと顔色が青くなっていって、一通り寒気が通り過ぎていくと今度は赤くなった。なんてことをしたんだと恥ずかしくなって、落ち込みたいぐらいには焦った。 慌てて腰を引いてやんわりと、声を掛けた。 「なんだ、どうして急にもぞもぞして…」 「いや、あのさあ…実はちょっと大変なことを思い出しちゃってさ…悪いんだけどこれ以上はなしってことで…」 「は?なに、言ってるんだ」 シズちゃんはなにがなんだかわからない、という顔でじっとこっちを見つめてきた。表情は変わらなかったが目は密かに怒りを含んでいるような気がして、嫌だなぁと思った。 きっと却下されることはわかっていたが、とりあえず訴え続けた。 「あぁ、そうだなんかさっきから熱っぽくて体調悪くてだるいんだよね。風邪かもしれないしこれ以上はやめておこうよ」 「下はすっかり勃起してんのに今更なにを……って、手前もしかして入れられたら都合悪いことでもあるんじゃねえだろな?そうだろ!」 「そんなことは…って、こら、勝手に尻さわるな、やめ…ッ!!」 もっともらしく理由をつけてみたがあっさり看破されて、怪訝な顔をした。たったそれだけのことなのに野獣の勘とやらは利いているようで、すぐに体を下げて俺の尻に手を掛けてきた。 もはや抵抗らしいことはなにひとつできず、後孔が見えるように上向きに両足をおもいっきり開かされて、それこそソファーから落ちるかと思った。 けれどそんなことに気を取られている場合ではなくて、掠れた音色でやめろと叫んだが、遅かった。 「おい、こりゃあなんだ…濡れてるっつーか中から垂れてんのかこりゃ」 「…っ、そうだよ。ご丁寧に誰かさんがそこだけ綺麗にせずに残してたくれてたからね」 もういっそ開き直ろうと思い、はっきりと言った。 実は四木さんへの嫌がらせで、シズちゃんとセックスした残液をそのまま体に残したままバイブをそこに突っこんで帰ってきていたのだ。 まだ行為さえしていない時点で誰かさんが飛び込んできたのでバレていなかったが、そういえばズボンも下着すらも粟楠会の事務所に置き忘れてきている。 コートの裾は随分と長かったし、体を抱えられてここまで帰ってきたので誰にも下を履いていないことはバレていなかっただろうし、液が零れることすらほとんどなかった。 そういうわけでしっかりとシズちゃんの精液がたっぷりとまだ後孔の中に残っているのだが、下手をしたら誤解をされかねない状態だった。 これではまるで、俺がまだ好きな証拠だと言っているようなものだ。 「は?これ…俺の…?そ、そりゃ本気で言ってんのか?さっきのヤクザのじゃねえのか、っていうかなんで、そんな…?」 「そりゃ精液なんてこの場で確かめようがないけど、俺と四木さんがエッチする前にシズちゃんが飛び込んできたことぐらいわかるだろ」 自分で言っててだんだん恥ずかしいを通り越して落ち込んできたので、視線を逸らした。体が勝手に悦んでいたり証拠が残っているのに、これが最後だという矛盾に胸が引き裂かれそうだった。 勝手に頭の中で、このまま流されろ、本当は誰よりもなによりも好きなんだと言ってしまえと囁かれているようだった。 恋人同士にさえなってしまえば、淫らな体のことだって面倒をみてもらえるのではないかという甘い考えが浮かんでしまう。けれどそれは俺が許せない。 「後生大事にそんなもん残してたって…バカかそりゃ。ど、んだけ俺のこと…」 「だから勘違いするなって言ってるだろ!…っ、シズちゃんなんて、嫌いなんだから、もうこのっ…離せッ!!」 嬉しそうに俺の方に目を輝かせてきたのが本人を見てなくても痛いほど伝わってきたので、意地でも見ないようにしながら腰をそわそわと動かした。 これでは完全に、恥ずかしくて照れているだけだとしか取られない。本気で俺が苦しい思いをしていることなんて、伝わらないと思って焦った。 「臨也っ、本当に悪かった!こんなに俺に本気だなんて知ってりゃあ…っていうのは都合がよすぎるな。とにかく今からでも死ぬ気で手前のこと好きになってやるから!」 「うわっ…もうそんな言葉いいから!死ぬ気とか重すぎるし、俺は違うから…っ!」 もう遅いとわかってて、きっぱりと否定の言葉を投げつけるが聞き耳を持つはずがない。やりきれない気持ちで唇を噛み締めていたら不意に手が伸びてきて、また顔が近づいてくるところだった。 必死に首を伸ばして避けようとするが、またあっさりと唇が塞がれてしまう。屈するわけにはいかないのに、ぬるぬるの舌で撫でられただけで全身が揺れた。 「…っ、ほんとシズちゃんの、バカ…ッ!」 「あー…なんかもうその嫌味までもが照れ隠しに聞こえてきた俺は相当重症だな。今までの嫌味が全部好きの意思表示だとしたら頭おかしくなりそうだぞ…」 「はぁっ!?なに言ってんの、本格的に頭沸いてんじゃないの!?」 もうすっかり巧みになった舌から解放されてすぐに叫んだのだが、予想の斜め上をいった壮大な言葉が返ってきて頭が痛くなりそうだった。 これでは本格的に頭が沸いているとしか言いようがない。もう俺のどこが好きだとかはっきり告げなくても、しっかり気持ちはわかってしまった。並の覚悟がなければこうはならない。 あまりにまっすぐすぎてこっちがうろたえてしまうばかりだった。 「なんだよそっちだって嬉しそうにしてんじゃねえか。あぁそうか、抱かれる前にもう俺に惚れ直したのか?」 「ちょっとねえ!さっきから完全にシズちゃんらしくないんだけどなんなの!?」 ここまできたら臭いとしかいいようのない数々に、さすがに突っ込みを入れた。昨晩の乱暴っぷりは本当にどこに行ってしまったというのか。 今までの俺に対する態度とはまるっきり違いすぎて、こっちがどうしたらいいかわからないぐらいだ。 「う、るせえな!!お、俺は…好きだと決めたら大事にしてえって思ってたんだよ。今までと違うと言われようがなんだろうが、これは変えるつもりはねえよ。それに…」 そこで一旦言葉を切った。さっきまでの雰囲気から一変して、急に真剣な顔つきで一見したら思いつめているのではないかと感じる仕草だった。 まるでわざと含ませるような間に、居心地の悪さから先を促した。 「なに?」 「手前も随分わがままな奴だが、俺もわがままなんだよ。きっと辛いんだろうなってわかってて、それでもこんなにエロい体を見ちまったら押さえられなくて欲しがっちまう」 そう告げながら、俺の太股に反り返って硬くなっている物体を押し付けてきた。ズボン越しにもかなり限界なのが窺えて、ごくりと喉を鳴らした。 一瞬昨日の行為が頭の中に浮かんで、勝手にそわそわと足をぎこちなく擦りあわせた。散々焦らされてギリギリな熱が、唇を勝手に震わせた。 「辛く、ない…シズちゃんが望むなら、エッチなこと何度も、何回でもしよう。したい…いっぱい」 text top |